スターマー英首相、福祉手当削減でUターン 党内造反を受け

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画像説明, キア・スターマー英首相

イギリス政府は27日、計画していた福祉給付制度改革をめぐり、与党・労働党内の造反議員に譲歩することを正式に認めた。キア・スターマー首相率いる労働党政権はこのところ、党内造反を受けて方針転換する事態が続いている。

スターマー首相はイギリス・メディアに対して、福祉改革について「正しくやる必要があるので、同僚たちと話をして、建設的な協議を重ねている」と述べ、「いくらか調整したうえで、重要部分について成果をもたらす政策パッケージにたどりついた。正しい形の改革で、これを前に進められるのが、とてもうれしい」と話した。

首相はさらに、「建設的な提案をした同僚たちと話をした結果、成功すると思うパッケージにたどりついた」のだと説明し、修正された福祉改革法案は「正しいバランス」がとれたものだと評価した。

これに先立ちリズ・ケンダル労働・年金相は労働党議員に対し、個人独立支援手当(PIP)の受給者と、低所得者向け給付制度「ユニバーサル・クレジット」における健康手当の受給者については、現行の支給額を維持すると説明した。今後の手当削減は、将来の新規申請者にのみ適用される。PIP申請の要件を厳格化するというこれまでの政府方針も、新規申請者のみが対象になる。

政府は、給付改革を下院議決にかけた際に与党議員100人以上が造反し、政府案を否決される危険が高まったことを受け、方針を転換した。

一部の造反議員は、政府の今回の譲歩を歓迎している。ケンダル氏は法案について「今は良い状態にある」と述べ、議会での可決に期待を示した。

ケンダル氏はさらに英メディアの取材に対し、政府の計画は、就労可能な人の雇用を後押しするため「過去最高水準の支援」を提供すると共に、就労が困難な人々を保護するものだと説明した。

政府による今回の方針転換によって、政府が厳しい政策決定をしていくのが今後さらに難しくなるのではないかという記者質問に対しては、「耳を傾けることにこそ強さがある。知識と経験を持つあらゆる人と対話することで、正しい立場にたどり着ける」とケンダル氏は述べた。

BBCの取材に応じた造反議員らは、政府の譲歩に同僚議員たちは満足しているため、7月1日に予定される採決で政府の福祉法案が否決されることはないとの見通しを示した。一方で、一部の労働党議員は依然として法案に造反し、反対票を投じる意向を示している。

政府は当初、ユニバーサル・クレジットおよび個人独立支援手当法案により、2030年までに年間50億ポンド(約1兆円)を削減することを目指していた。この法案は、障害者や病気の人が特定の給付を受ける資格を変更し、受給者増加の抑制を目指していた。

現行制度のままでは、就労年齢層向けの健康関連給付は2029年までに追加で300億ポンド(約6兆円)かかると見積もられている。

しかし、これまでの政府案には、与党議員約120人が強く反対していた。たとえば、個人独立支援手当の受給者に対し、食事を準備し食べることについて、意思疎通や入浴や着替えなどについて、支援が必要だという証明の厳格化を求めることを、造反議員たちは批判していた。

キア・スターマー首相は26日、こうした与党議員たちを電話で説得し続けた。

政府にとって今回の方針転換は、1カ月で3度目のUターンにあたり、首相の指導力がまたしても大きな打撃を受けたことになる。

福祉改革案の修正を求めて党内調整に取り組んだ匿名希望の議員はBBCに対し、冬季燃料手当の削減撤回を勝ち取ったことが、今回の造反議員たちを勇気づけたと語った。

「私たちは皆、冬季燃料手当の削減に議会で賛成したことで、地元選挙区で非常に非難された。だから同僚議員たちは『どうしてまた同じ目に遭わなくてはならない』と不満に思っている」のだと述べた。

スターマー首相の指導スタイルについて、「十分な人数が騒げば譲歩する傾向があるのではないか」という記者質問に対して、首相官邸報道官は「そんなことはない。この政府は人々の声に耳を傾けている」と反論した。

最大野党・保守党は、労働党の造反議員に対して提示されたとされる譲歩を「政府が、急ブレーキを踏んで激しくUターンを繰り返す、その最新事例」だと批判した。

メル・ストライド影の財務相は、「自党議員の圧力を受け、スターマー氏はまたしても財源の裏付けのない支出を約束した」と述べた。

野党・自由民主党は引き続き法案に反対する姿勢を示し、「最も弱い立場にある人々に甚大な被害をもたらす」と主張している。

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