戦後80年 錦織一清が見つめる特攻で散った命 中山優馬と描く「あゝ同期の桜」
「少年隊」のメンバーで俳優、演出家としても活躍する錦織一清(60)が26、27の両日、大阪市中央区の松下IMPホールで、特攻隊員となり散った青年たちを描いた舞台「あゝ同期の桜」(原作=榎本滋民、脚本=上田浩寛)を演出する。アイドルとして華々しい世界を生きてきた錦織が戦後80年という年に見つめるのは、「今の私たちの平和や幸せは彼らのおかげ。それを伝え続けたい」という率直な思いだ。
終戦から20年後の昭和40年生まれの錦織にとって、若い頃、戦争は遠い昔の話だった。長兄を戦争で亡くした父は「終戦の日に海戦や戦闘機の映像が流れると、テレビをパチッと消すんです。当時は正直『大げさだな』と思っていた」と振り返る。
だが、「年をとると、10年や20年って月日が短く感じるようになる。だから自分が生まれるたった20年前の戦争を今の方が身近に感じる。あの時のおやじの気持ちがやっと分かる気がするんです」。
今作は、先の大戦末期に学徒動員で召集され、特攻隊員として散った海軍第14期飛行予備学生たちの青春群像劇だ。主演には舞台に果敢に挑戦している中山優馬(31)を選んだ。
舞台「あゝ同期の桜」で特攻隊員を演じる中山優馬=(株)アンクル・シナモン提供「彼イケメンでしょ? 誤解を恐れずに言うなら、この作品はイケメンがやるべきなんだ」と語るその理由は、現存する特攻隊員の遺影や遺書から受けた印象にある。「あの澄んだ目、りりしい表情、遺書の立派な書体。彼らこそ本当に格好いい男たち、真の意味でのイケメンなんだと思った」と言う。中山の強い目にその面影を見た。
錦織の原点である少年隊は今年40周年を迎える。だが、「あぁ、そうですか」とひとごとのように答えると、「皆節目が好きだよねぇ」と苦笑した。
「僕たちの時代、アイドルって全部指令に従って動くロボットだったの。だから少年隊時代って、僕の長い人生の中では『二等兵』だったなって印象なんですよ。でも、僕は二等兵で終わりたくなかったんだろうね」
アイドルから演劇人へとかじを切ったきっかけは、平成11年に主演したつかこうへいの名作戯曲「蒲田行進曲」だった。アイドルとして身につけたエンターテインメントショーの見せ方、つかのもとで学んだ演劇人の視点と思考。その2つに導かれるように舞台に活路を求め、今は演出家として数々の作品を手掛けている。
“二等兵”として消費される存在ではなく、自らの頭で考え、チーム全員で同じ方向を向いて一つの舞台を作り上げる作業は面白い。「テレビに比べたら地味な世界だよ。でも、だからこそ僕は今ここにいるんじゃないかな」。飾らない言葉に強い意志が見えた。
中山優馬「分からない、がリアルな思い」
舞台「あゝ同期の桜」で主人公の特攻隊員を演じる中山優馬=大阪市北区中山優馬が演じるのは、母親思いの愛国心あふれる優秀な大学生、諸木だ。
「敵艦に突っ込むときは、死ににいくのに上空の寒さに耐えるために防寒する。生きることと死ぬことがあまりに矛盾している」と中山。「その時の彼らの感情は『分からない』が今のリアルな思いです」と葛藤しながら役と向き合う。
少年隊に憧れ、親しみを込めて「ニッキさん」と呼ぶ錦織一清が演出する舞台への出演を長年願ってきた。ようやくかなう夢への思いはひとしおだ。「特攻隊は日本で起きたとてつもない出来事、目をそらしちゃいけない現実です。この作品できっと日々のありがたさを感じられる。どうか見届けてください」と力を込めた。
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問い合わせはアンクル・シナモン([email protected])。(田中佐和)