ユーザー企業がSIerに抱く不信感の“源” 「巨大ITシステムの呪縛」とは
今はハードウェアもネットワークも想像を絶する進歩を遂げている。つまり、ソフトウェアはハードウェアの呪縛から解放されたのだ。つまり、モノリスシステムから解放され、オブジェクト指向型開発ができる「ソフトウェアファーストの時代」がついに来たのだ。 筆者のソフトウェアエンジニアとしての経歴は、ハードウェアの制約を常に受けながら、ハードウェアの進歩に合わせて設計や開発の方式を更新してきた「歴史」でもある。 2001年、確定拠出年金法が施行され、iDeCo(イデコ、個人型確定拠出年金)がスタートした。いわゆる「日本版401k」だ。その中心のシステムは複数の大手金融機関が共同で開発したが、このシステム開発プロジェクトには事実上2つの陣営が形成された。筆者は、内外の大手金融機関20行が中心となって出資した会社のITシステム責任者としてプロジェクトを推進した。 当時の大手金融機関にはメインフレームに対する強い信頼、つまり「メインフレーム信仰」が存在していた。こうした中、金融機関のシステムとしては初めてフルオープンシステムを採用して開発することになった。 今では、当たり前の「Webサイトやコールセンターによる受付」や、「ロードバランサーによるWebサーバの負荷分散(n+1構成)」といった当時の新技術を全面的に採用した。オープンシステムへのさまざまな罵詈雑言を浴びつつ導入することになった。 こうした結果、開発コストが抑制され、もう一つの陣営よりも早く黒字化を達成した。もちろんシステムは長期間にわたって問題なく稼働している。 今や、メインフレームは完全に役割を終えたと筆者は見ている。2000年前後から大きく技術が変わった。技術変化が起こるとき、守旧派が本質を見極めることなく変化を嫌って新たな技術をつぶそうとするのは古今東西変わらない。そして、変化に適応できない守旧派は新時代を生き抜くことはできない。『平家物語』でも語られている「盛者必衰の理(ことわり)」だ。 今まさに、ITシステム開発の世界では、従来の開発手法に馴染んだエンジニアが守旧派に陥るかどうかの分岐点となる変化が起きていると考えている。 さらに、今回起きている変化はハードウェアの技術革新だけでなく、ソフトウェアの技術革新でもあり、オープンシステムの変化(メインフレームからサーバというハードウェアの変化)とは比べものにならない大きな変化だといえる。 ハードウェアが機能を更新するためには、新たなハードウェアの導入が必要になるが、ソフトウェアの場合はソフトウェア自体を改良、更新することで機能が向上する。ソフトウェアは進歩し続ける「機能」であり、物理的な物流は必要なく、在庫が積み上がることもない。 ハードウェアを新たに作るには鉄などの資材の調達や、製造機械、製造コストや配達のための物流が必要になる。さらに同一の製品を不良なく作ることは困難で、必ず一定の不良品が生まれる。経年劣化は避けられず、必ず部品交換が必要になる。 一方、ソフトウェアは製造コストをはじめとするそれらの製造設備は必要なく、世界のどこでも瞬時にダウンロード可能で、不良品も生まれない。さらに、経年劣化も起こらず、バグがなければ永遠に利用できる。 つまり、ソフトウェアが技術革新の中心となるこれからの世界では、とてつもない変革が起こることになるだろう。現に自動車ではあらゆる部品がソフトウェアによって制御されるようになっており、機械的な部品の中には不要になったものもある。既にハンドルとタイヤは物理的に繋がっておらず、クラッチペダルもなくなっている。ハンドルやトランスミッションはソフトウェアで制御している。ハードウェアの故障を検知、監視する仕組みもソフトウェアが担うようになり、ハードウェア技術よりもソフトウェア技術の方が自動車業界ではより重要になりつつある。 ソフトウェアの優位性は際立っており、全てのハードウェア製品におけるソフトウェア化が進んでいる。その結果、ハードウェア製品の製造会社は生き残りをかけた変革を迫られている。この波は、自動車産業だけでなく、全ての産業に及ぶだろう。 ここまで、モノリスシステムが抱える問題を中心に言及してきた。 次回は、ソフトウェア開発においてマイクロサービスアーキテクチャを採用することで、モノリスシステムの課題が具体的にどう解消するのかを述べたい。
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