「産後うつ」なぜ事件に…長男殺害の母親に判決 精神科医の証言
「子どものことをいつまでも忘れないで」
女性は裁判長の説諭を、静かに受け止めていた。
2025年4月、埼玉県戸田市の女性が長男を自宅浴槽で溺死させたとして、殺人罪に問われた裁判で、さいたま地裁は22日、「重度の産後うつが強く影響したが、正常な精神作用も残っていた」として、懲役3年、執行猶予5年(求刑・懲役4年)を言い渡した。
女性は逮捕時「産後うつがつらかった」と供述。SNSでは、産後うつへの共感と事件への批判の声が交錯した。
産後うつの影響は、公判でどのように検討されたのか。
<後編の内容> ・裁判の争点と双方の主張 ・精神鑑定の結果は 医師の証言 ・産後女性の1割以上にうつ傾向 ・事件は止められなかったのか ・裁判長、産後うつへの支援に言及
前編では、女性の供述と家族の証言をもとに事件の経過を詳報しています。自宅浴槽で長男殺害 母親が裁判で語った「産後うつ」の極限心理
産後うつは責任能力に影響?
事件は2025年4月21日、埼玉県戸田市で起きた。
21日午後1時半時ごろ、JR戸田駅の構内で心肺停止状態の赤ちゃんを抱いた女性が警察官に発見された。
さいたま県警は、長男を自宅の浴槽に沈めて殺害したとして殺人容疑で女性を逮捕した。
女性は9月に殺人罪で起訴され、今月14日から公判が始まった。
争点は、責任能力の有無だ。
責任能力は、その行為をやってよいのかどうかを決める善悪判断能力▽悪いことをするのを思いとどまろうとする行動制御能力――の二つを指す。
弁護側は刑事責任能力が全く無い「心神喪失」状態に陥ったとして無罪を主張。一方、検察側は刑事責任能力が著しく低下する「心神耗弱」状態だったとして、懲役4年を求刑した。
精神科医が出廷し証言
公判には、夫や実父も証人として出廷した。
女性の供述や家族の証言によると、女性は24年12月に出産。里帰り出産だったが、25年2月に埼玉県内の自宅に戻った。
ほどなくして寝不足や家事育児の悩みに追い詰められ、希死念慮を抱くに至ったことが事件の背景にあったとみられる。
証人尋問では、事件後に被告の精神鑑定を担当した精神科医の田口寿子氏が出廷した。
検察側、弁護側、裁判所の尋問に答えた田口氏の証言によると――。
産後うつ、いつ発症?
まず、精神鑑定はどのような結果だったのか。
被告の女性は精神疾患の国際的な診断基準「DSM―5」の9項目のうち、8項目に該当していた。
「明らかに出産が精神不調の契機になり、育児により心身ストレスを抱え…