カナダ、メキシコに25%関税発動なら自動車価格は最大181万円上昇

カナダとメキシコに4日から米国が課す予定の関税により、米国の自動車価格は最大1万2000ドル(約180万円)上昇する可能性がある。ミシガン州イーストランシングの自動車コンサルタント企業、アンダーソン・エコノミック・グループが推計した。トランプ関税で北米大陸全体にまたがる複雑な自動車供給網に混乱が生じ、米国の家計はさらに圧迫される恐れがある。

  アンダーソン・エコノミックによると、クロスオーバー・ユーティリティ・ビークル(CUV)の製造コストは少なくとも4000ドル上昇し、電気自動車(EV)ではその3倍のコスト増となる。調査は、こうしたコストは消費者に転嫁される可能性が高いとしている。

  同グループのパトリック・アンダーソン最高経営責任者(CEO)はインタビューで「このようなコスト上昇は、貿易に最も大きな影響を与えるモデルの販売減少に直結することになる。その影響は即座に出ると思う」と述べた。

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  現在の自動車価格はすでに消費者を遠ざけているが、カナダとメキシコからの輸入品に25%の関税が課されることで、状況はさらに悪化しそうだ。すでに平均的な小売価格は5万ドルに迫っており、5年前から20%余り上昇している。関税の影響を懸念し、消費者の信頼感は4年ぶりの低水準に落ち込んでおり、トランプ大統領の選挙公約であるインフレ抑制策にも疑問が投げかけられている。

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  トランプ氏は3日、メキシコとカナダに対し4日に発動予定の25%関税について両国が一時的猶予を交渉する「余地は全くない」と述べた。売上高や利益、雇用に深刻な打撃を与えると訴えた自動車業界首脳らの警告は、一蹴された。追加関税は、シボレーのピックアップトラック「シルバラード」やフォード・モーターの「ブロンコ・スポーツ」といったブランド認知度が高く、最も売れているモデルにも影響を与えることになる。

  事情に詳しい関係者によると、ゼネラルモーターズ(GM)、フォード、それにクライスラーの親会社ステランティスを加えた3社の経営陣は先週、米商務省とのテレビ会議で、追加関税が経済に深刻な影響を与えると訴えた。会議中、フォードとステランティスの経営陣は、ホワイトハウスはむしろ、米国製部品が一切使用されていない輸入車数百万台に注目するべきだと強調したという。

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  特に大きな影響を受けるモデルの生産を自動車メーカーが中止すれば、一部の車種が完全に姿を消す可能性もある。また、関税が短期間で廃止することになったとしても、それは自動車メーカーが影響を最小限に抑えるための対策を講じた後になる。

  アンダーソン・エコノミックは、メキシコとカナダに25%、中国からの輸入品に10%の関税が課された場合、北米で製造された特定の車種のコストがどの程度上昇するかを試算。メキシコからの「相当な」輸入部品を使用している大型スポーツタイプ多目的車(SUV)では9000ドル近く、ピックアップトラックでは8000ドルの値上げになると指摘している。

モデル数減少

  価格の高騰と借り入れコストの高さにより、自動車販売はすでに減少している。2月28日に発表された1月の米個人消費支出(PCE)統計では、自動車の購入が大きく落ち込んだが影響し、過去4年で最大の落ち込みとなった。

  コンサルタント会社アリックスパートナーズの北米自動車部門責任者ダン・ハーシュ氏は、価格上昇がそれほど深刻化しないシナリオでも、米国の自動車販売台数は50万台減少する可能性があると指摘する。自動車メーカーがカナダとメキシコで特定モデルの生産を中止し、生産拠点を可能な限り米国に移すためだ。

  ハーシュ氏はインタビューで「米国で生産できない車種は当面の間、生産されない可能性が高い」と述べた。

  例えば、フォードは人気の小型ピックアップトラック「マーベリック」、コンパクトSUV「ブロンコ・スポーツ」、EV「マスタング・マッハE」をメキシコで生産している。フォードのジム・ファーリーCEOは2月、メキシコとカナダに25%の関税が課されれば、「米国の産業にかつてないほどの打撃を与える」と警告した。

対策

  トランプ氏は、米国への不法移民や違法薬物の流入を食い止めるためとして、カナダとメキシコに追加関税を課す方針を示してきた。カナダやメキシコが、この問題でトランプ氏を満足させるだけの十分な進展を見せることができれば、関税は一時的なものになるとの期待が業界内で高まっている。

  自動車業界の幹部らと定期的に協議しているハーシュ氏は「最悪でも数か月間で終わり、うまくいけば、押しとどめられるだろう」と述べ、追加関税は通商問題ではなく、国境警備を巡る交渉だとの見方を示した。

  その一方で、自動車メーカー各社は打撃を和らげるための対策を急いでいる。オンタリオ州ウインザーにあるフォードのエンジン工場では、関税が課されることを想定し、製品を米国とカナダの国境に急送している。同社は、完成したエンジンと部品を保管するために、この1カ月間、米国に倉庫スペースを確保してきた。現地労働組合のジョン・ダノロ代表は「通常はトラック工場に送る準備ができるまで、ここで保管するが、関税を課されないよう米国内で保管する場所を確保している」と説明した。

  各社はサプライヤーにも部品在庫の積み増しを促し、米国内の倉庫に迅速に移動させるよう働き掛けているという。

  関税が実際に課されるまで、自動車メーカーの利益に及ぼす正確な影響を数値化することは難しい。だが、すでに業界が1桁台の利益率を維持することに苦心し、EVの新モデルラインで数十億ドルの損失を出していることを考えると、その打撃は計り知れない。

  ハーシュ氏によると、自動車業界の経営陣は今、このことばかり話しているという。長期的な計画は後回しにされ、目前に迫る関税の火の粉に備えようとしている。

原題:Car Prices Poised for $12,000 Surge on Trump’s New Tariffs (1)(抜粋)

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