[時代の証言者]夢さえあれば 秋山仁<37 最終回>研究生活 これから本番

 7月、欧米の若い数学者2人が私を訪ねてくれました。研究室や飲み屋で旧交を温めつつ、共同で研究しました。

「人生80歳からが本番」。数学研究への熱意は衰えを知らない(8月、東京理科大で)=横山就平撮影

 「面白い問題があるぞ」と誘われたり、私がアイデアを提案したりし、興味が一致した瞬間に数学の研究は始まります。まさに「三人寄れば文殊の知恵」で、キュートな定理ができました。

 学生の時、北海道に行って原野に魅了され、「引退したら木こりになって晴耕雨読の生活をしたい」と真剣に考えました。でも当分引退するつもりはありません。まだまだ数学に未練があるからです。

 数学は、詩や俳句に近いと思います。「五月雨を あつめて早し 最上川」などの名句は、目の前にある何の変哲もない情景に美を見いだし、わずか17字で織り込んでいます。簡潔な表現に広がるパノラマの美しさが人の心を打ち、現代まで伝わっています。

 数学の真理や美は、日常や自然に隠れています。それを探し出し、コンパクトに表すのが数学者の仕事の一つです。ピタゴラスの定理は a( 2) + b(2) = c(2) の1行で、直角三角形の真理の一つを美しく簡潔に描写しています。

 一度発見された真理は、永遠です。ピタゴラスの定理は発見から2500年たっても変化せず、その価値が1ミリも減ることはありません。

 数学が詩や芸術と違うのは残念ながらあまり人気がないことです。多くの人が算数や数学の勉強にうんざりしています。人は優れた芸術を見たくて行列を作りますが定理を鑑賞する行列はできません。

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