【コラム】プーチン氏に本気で交渉させる10の方法-NATO元司令官

ロシアのプーチン大統領が米アラスカ州を訪れ、戦闘機の祝賀飛行やトランプ米大統領による熱烈な握手など、まさに国賓(こくひん)級の歓迎を受けた。だが、首脳会談の舞台がアラスカだったのは皮肉だ。ロシアは19世紀半ばにこの地を米国に売却し、今なお悔やんでいる。

  ウクライナ全面停戦への期待は低かったものの、多くの関係者は少なくとも交渉への道筋が示されると望んでいた。だが、ここ数カ月と同様、プーチン氏はまるでボクサーのようにロープ際で攻撃をかわし続け、停戦も交渉の意思表示も避けた。トランプ氏は、ロシア側と経済・安全保障問題を協議する予定だった昼食会を中止。記者会見では質問も受け付けず、ワシントンに戻った。

  ロシアを交渉の席に着かせるだけでなく、本腰を入れさせるには「厳しい措置」が必要なのは明らかだ。では、強硬姿勢を崩さないプーチン氏の要求水準を下げさせるには、どのような措置を検討すべきなのか。具体的なチェックリストはあるのだろうか。

  以下に、ロシアへの影響が小さいものから大きい順に並べた10の選択肢を挙げる。ホワイトハウスは欧州の同盟国と連携しながら、この10項目を真剣に検討する必要がある。

1.ウクライナへのF16戦闘機供与数を100機以上に増やす

   訓練中のウクライナ人パイロットの数を3倍にし、空対空・空対地戦闘や電子戦の能力を強化する。米国と欧州連合(EU)の合同タスクフォースが北大西洋条約機構(NATO)の欧州連合軍最高司令官の指揮下で実施する。

2.長距離地対地兵器のウクライナ供与を4倍に拡大

  米国の高機動ロケット砲システム(HIMARS=ハイマース)が主力だが、欧州の防衛力も活用可能だ。EU主導で米欧の兵器を調達・供与する。

3.高精度の標的情報をウクライナに提供

   特にロシアの兵站(へいたん)システムを標的とする。米国は軍の物流網を解析し、要所を破壊して機能を麻痺させるノウハウを有している。これを米輸送軍司令部と戦略軍司令部の合同チームに担当させる。

4.無人機テクノロジー・装備をEU・米国・ウクライナ間で共有

  特に無人システム(航空・水上・水中)に力を注ぎ、黒海艦隊の残存艦艇を狙う。アラビア湾に展開する米海軍の第59任務部隊を活用する。

5.西側の金融機関にあるロシアの資産3000億ドル(米国内の100億ドルを含む)を凍結・没収

  ロシア資産3000億ドル(約44兆円)相当を没収した上で、ウクライナの防衛費に充てる信託基金を設立する。米欧の金融専門家による運用管理チームが、財団の理事会のように資産運用を担う。

6.ロシア産石油・ガスの国際取引に対する2次制裁を即時発動

  中国を含む全ての取引国に制裁を適用する。制裁逃れに使われるロシアの「シャドーフリート(影の船団)」による輸送も追跡・押収し、少なくとも月10隻のタンカーを目標に差し押さえを行う。

7.ウクライナにNATO並みの安全保障の裏付けを付与(正式加盟ではない)

   ウクライナ軍のあらゆる部門とNATOの連携を強化する。例えば、エストニア・タリンのサイバー防衛センターやフランス・リヨンの航空作戦センター、トルコ・イスタンブールの海洋安全保障センターなどNATOの専門機関との協力が考えられる。

8.欧州の軍事顧問団をウクライナに派遣

   当初は5000人規模の専門部隊を目標にする。自衛能力をあらゆるレベルで備えるが、前線よりも情報・無人機戦・サイバー・海戦・兵站支援などを重視する。EUが展開してきた海賊対策やバルカン半島での治安維持活動に類する軍事任務と位置付ける。

9.ウクライナ上空にノーフライゾーン(飛行禁止区域)を設定する

   防衛目的とし、NATO全加盟国の航空戦力を投入する。ドイツ・ラムシュタイン空軍基地に新設するタスクフォースの指揮下に置き、NATOの早期警戒管制機E3セントリーを含め100機程度をノーフライゾーン維持のために運用する。

10.ウクライナを正式にNATOに加盟させる

   いわば「核オプション」だが、加盟承認には難関が伴う。フィンランドとスウェーデンの加盟承認ですら1年遅れた。それでもプーチン氏への最大の圧力となる。

  以上が10項目だ。プーチン氏に十分な圧力をかけるための選択肢をトランプ氏が側近らと検討するに当たり、これら選択肢を必要に応じて段階的に警告・発動できる。もちろん、ロシアが既に占拠している領土の一部について、ウクライナが譲歩することも最終合意に含まれるだろう。

  ロシアへの「アメとムチ」が用意されているが、プーチン氏とのディール(取引)に今必要なのは、制裁解除や資産返還といったアメではなく、ムチを増やすことのようだ。

(ジェームズ・スタブリディス氏はブルームバーグ・オピニオンのコラムニストで、かつて米海軍大将やNATO欧州連合軍最高司令官でした。今はタフツ大学フレッチャー法律外交大学院の名誉学部長やカーライル・グループのグローバル問題担当副会長を務めています。このコラムの内容は必ずしも編集部やブルームバーグ・エル・ピー、オーナーらの意見を反映するものではありません)

原題:Ten Ways to Force Putin to Truly Negotiate: James Stavridis (抜粋)

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