イラン代表団、アメリカと停戦協議のためパキスタン到着 交渉の前提条件示す

画像提供, パキスタン首相府

画像説明, 握手するヴァンス米副大統領とパキスタンのシャリフ首相(11日、イスラマバード)

アメリカとの停戦協議に臨むイランの代表団は10日夜、パキスタンの首都イスラマバードに到着した。イラン外務省が発表した。アメリカの代表団を率いるJ・D・ヴァンス副大統領も11日午前、イスラマバードに到着した。イランとアメリカの協議は11日に予定されている。

ヴァンス副大統領の到着を、パキスタン軍のトップ、アシム・ムニール陸軍参謀長やイスハーク・ダール外相が出迎えた。ムニール参謀総長は、イランとの仲介で重要な役割を果たしたとされる。

パキスタン政府はこれに先立ち、イラン代表団を率いるモハンマド・バゲル・ガリバフ国会議長とアッバス・アラグチ議長も、赤じゅうたんで出迎えた。

パキスタンのシャバーズ・シャリフ首相は、ヴァンス副大統領と会談。スティーヴ・ウィトコフ米大統領特使と、ドナルド・トランプ米大統領の娘の夫、ジャレッド・クシュナー氏も同席した。

パキスタン政府筋によると、シャリフ首相は米代表団との会談に先立ち、イラン代表団とは昼食をとりながら会談したという。

イランのガリバフ議長はソーシャルメディア「X」で、「双方が互いに合意した措置のうち二つがまだ実施されていない。交渉開始前のレバノンでの停戦と、イランの凍結資産を解除することだ。交渉が始まる前にこの2件が実現しなくてはならない」と書いた。

イランの準政府系タスニム通信によると、イスラマバードに入った代表団の人数は約70人で、経済や安全保障、政治の専門技官や、報道官が含まれるという。

パキスタン外務省はダール外相の声明を発表。「外相は、(イランとアメリカが)建設的に(交渉に)取り組むことを期待」しており、「この紛争について、いつまでも続くしっかりした解決にたどり着くため、パキスタンは引き続き両国の便宜を図り続けたいと、外相は繰り返している」という。

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画像説明, イランとの交渉のためパキスタンに到着したJ・D・ヴァンス米副大統領(中央)と、出迎えたパキスタンのムニール陸軍参謀総長(左)やダール外相(右)(11日、イスラマバード)

画像提供, パキスタン外務省/EPA

画像説明, パキスタンに到着したイラン代表団と出迎えたパキスタン政府高官たち。左から、パキスタンのムニール陸軍参謀総長、イランのアラグチ外相、イランのガリバフ議長パキスタンのダール外相(10日夜、イスラマバード)

これに先立ちアメリカのドナルド・トランプ大統領は10日、記者団にイランとの交渉成功とは何をもたらすのかと質問され、体制転換はもう実現したようなので、「核兵器がないことだ」と答えた。

世界経済にとって焦点となっている海運の要衝、ホルムズ海峡の開放については、イランの協力が「あってもなくても」「比較的すぐに」実現すると述べる一方、アメリカは海峡の開放を必要としていないと話した。

また、イランが海峡を通る船舶に通行料を課すのかどうかについては、「そんなことは我々がさせない」と答えた。

トランプ氏はさらに、出発するヴァンス副大統領にうまくいくことを願っていると伝えたと話した。またイランとの協議が一度で済むのか、数週間続くのかについては、まだわからないとしつつ、協議に変わる別案はあるのかとの質問には「別案は必要ない」と答えた。

トランプ氏は7日、アメリカがイランから10項目の提案を受け取ったと発表。イラン側の提案は「交渉の基盤として実行可能なもの」だと表現した。

イランのアッバス・アラグチ外相も、アメリカ側が提示した15項目の提案に言及している。アメリカ側は、これが紛争終結を可能にするものだとしている。

双方の提案はいずれも正式には公表されていない。流出した内容からは、双方の主張が大きく隔たっている様子

パキスタンは数週間にわたり、イランとアメリカの仲介役を務めてきた。パキスタンとイランとの関係は長年にわたるもので、トランプ氏は、パキスタン軍のムニール陸軍参謀長について、イランを「ほぼ誰より深く知っている」と評価している。

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画像説明, イスラマバードに向かう機内の座席には、イラン南部ミナブの学校への攻撃で殺害された子供たちの顔写真や、焼けたスクールバッグが置かれた。アラグチ外相がそれを見つめる写真を、イラン外務省が公表した

他方、イスラエルがレバノン攻撃を続けていることが、停戦協議の不安材料となっている。イスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相は、停戦合意はレバノンには適用されないと主張。8日にはイスラエル軍がレバノン全土の標的を爆撃し、レバノン保健省によると300人以上が殺害された。

レバノンとイスラエルの両政府は10日夜、ワシントンで14日から停戦について協議すると発表した。両国のアメリカ大使が電話で話し合い、停戦協議の手はずを整えたとされている。

レバノン当局によると、イスラエルが3月2日から開始した攻撃で、1700人以上が殺害されている。

イスラエルとレバノンとの協議に、イスラエルと協力関係にあるイスラム教シーア派武装組織ヒズボラは参加しないという。

イスラエルのイェヒエル・ライター駐米大使は、「イスラエルは、テロ組織ヒズボラとの停戦協議を拒否した。ヒズボラは依然としてイスラエルを攻撃し続けており、(イスラエルとレバノンの)間の平和にとって最大の障害だ」と述べた。

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画像説明, パキスタンの首都では「イスラマバード協議 2026年4月」の看板が掲げられた(10日)

アメリカ側は15項目の計画で、イランが全ての主要核施設を解体し、イラン領内でのウラン濃縮を全て終わらせ、濃縮ウランの備蓄を国外へ移転し、核施設への国際査察を受け入れるよう要求しているとされる。

さらにアメリカは、イランに弾道ミサイル開発や長距離ミサイルの製造を中止するよう求めているほか、中東の代理勢力や同盟相手にドローンや軍事関連の品を移転することの中止も要求しているとされる。

他方、イラン国営放送によると、10項目からなる計画の内容は以下の通り。

・イラク、レバノン、イエメンにおける戦争の完全停止

・期限を設けない、イランに対する戦争の完全かつ恒久的な停止

・ホルムズ海峡における航行の自由と安全を確保するための協定および条件の確立

・アメリカが保有するイランの資金および凍結資産の解放

・イランがいかなる核兵器の保有も求めないことへの全面的な確約

・上記条件が承認され次第、すべての戦線で即時に停戦を発効すること

イラン代表団を率いるガリバフ議長は、レバノンでの停戦と、数十億ドル規模に上るイラン資産の凍結解除を交渉開始の前提条件として示した。このことからも、交渉がいかに複雑なものになるか、その一端がうかがえる。

最も長年続く最大の懸案は、核問題だ。これこそ、西側諸国がイランに対して抱いてきた懸念の根幹にある。イランの政権は、自分たちは核爆弾を開発しようとしたことは一度もないと主張している。しかし、綿密な交渉の末に得られた以前の核合意から、トランプ氏が8年目に離脱して以来、イランは民生用の原子力事業に必要とされる水準をはるかに超えてウラン濃縮を進めてきた。

アメリカは、イランがすでに保有する濃縮ウランを明け渡すよう求めている。しかし、これは難題だ。というのも、イランの濃縮ウランは、アメリカに破壊されたイスファハン近郊の核施設の、そのがれきの下にあると考えられているからだ。

アメリカはさらにイランに、今後いかなる核兵器の開発も目指さないと、約束するよう求めている。一方イランは、自分たちがウランを濃縮する権利は交渉の余地がないとしている。

加えて、ホルムズ海峡の問題がある。今回の戦争の前まで、ホルムズ海峡は問題ではなかったのだが、今やイランにとって最強の武器の一つだ。

イランは今回の戦争で、世界で最も重要な水路の一つを締め上げる態勢を確立した。イランは今後、海上交通を統治する全く新しい決まりごとの体系を導入したい考えだ。これには、船舶を臨検する権利、通行料を徴収する権利、あるいは単に通航を拒否することなどが含まれる可能性がある。

イランが求めるこのような海上交通の決まりごとは、世界のほとんどにとって、とりわけ湾岸諸国にとって、受け入れようもない。

問題はこれだけで終わらない。イスラエルとアメリカは、イランが中東地域にとって有害な影響力を持つとみなし、それを終わらせたいと考えている。対するイランは、すべての国際制裁の完全解除と、過去1カ月で受けた被害への補償を求めている。

こうした問題がイスラマバードで解決されると、本気で考えている人はほとんどいない。協議を前にした状況がいかに不安定かを考えれば、停戦が存続するだけでも、多くの人は喜ぶはずだ。

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