『あんぱん』顔がアンパンになってもまだ「足りない」よね? やなせたかしが「絶対必要なモノ」に気付いたミュージカルとは

『あんぱん』24週では、「あんぱんまん誕生」の物語が描かれています。あと2週ですが、『アンパンマン』に欠かせない、「アイツ」はいつ生まれるのでしょうか。

柳井嵩役の北村匠海さん(2020年11月、時事通信フォト)

『アンパンマン』の作者、やなせたかしさんとその妻の暢(のぶ)さんの人生をモデルにした物語のNHK連続テレビ小説『あんぱん』119話では、「柳井嵩(演:北村匠海)」が、まだおじさんの姿をしている自身の作品『アンパンマン』の人気が出ないことについて、悩む場面が描かれました。

 恩人の「キューリオ」社長「八木信之介(演:妻夫木聡)」は、嵩に対し「テーマはよく分かる。だが、何かが足りないな」と語っています。もうすぐ「顔自体があんぱん」という現在の「アンパンマン」が生まれるのも近そうですが、みんなが知る人気作『アンパンマン』に足りないものはまだまだあります。

 顔があんぱんのヒーローが生まれた絵本『あんぱんまん』は、フレーベル館の4、5歳児向けの月刊物語絵本「キンダーおはなしえほん」1973年10月号で発表されました。

 この絵本は「顔を食べさせるなんて残酷だ」という抗議の手紙が届いたり、編集者から「こんな馬鹿馬鹿しいものを描いても、読者には喜ばれません。もうちょっとショッキングなもの、そういうものでないと。こんな、自分の顔を食べさせてやっていくような生ぬるい話では……」(やなせさんにインタビューした書籍『何のために生まれてきたの?』より)と言われたりと、散々な評価でしたが、幼い子供たちを中心にじわじわと人気になっていったそうです。

 そして絵本誕生から3年後の1976年、やなせさんは親友の作曲家であるいずみたくさん(大森元貴さん演じる「いせたくや」のモデル)から、「アンパンマンをミュージカル化しよう」と提案されました。やなせさんは驚きながらもこの話に乗り、1976年7月20日に『ミュージカル 怪傑アンパンマン』が、六本木のフォンテーヌビルの地下で上演されます。

 主演はタレントの海野かつをさんで、アンパンマンの顔の下に海野さんの顔が出ているという、シュールな被り物の姿でした。また、やなせさん本人がモデルの漫画家「ヤルセ・ナカス」を、初演当時まだ22歳ながらアニメ『巨人の星』の「星飛雄馬」役などで広く名が知られていた、古谷徹さんが演じています。

 このミュージカルで、やなせさんは観客の反応を見たとき「(『アンパンマン』には)アレが欠けているんだ」と、ある発見をしたといいます。それは「悪役」でした。『怪傑アンパンマン』の悪人は普通の人間で、「アンパンマンの相手役としてはパンチが欠けている」と気付いたそうです。

 そして、やなせさんは「食品の敵はバイキン」という発想で、いまや『アンパンマン』には欠かせない、「ばいきんまん」を生み出します。おなじみのあの姿は、やなせさんが戦前に働いていた田辺製薬の仕事で描いた、悪魔のような格好の小人が槍を持っているという菌のイラストがもとになっているそうです。ばいきんまんの初登場は、1979年発売の絵本『あんぱんまんとばいきんまん』となり、2作目のミュージカル『ミュージカル とべ!アンパンマン-アンパンマンとおむすびまん-』(1983年上演)にも出てきました。

 ちなみに、ばいきんまんの有名な「ハヒフヘホー」というフレーズも、このミュージカルシリーズで生まれています。50音のいろんな行を試した結果、なぜか「は行」だけが子供たちに大うけしたとのことです。

 このミュージカルのエピソードを『あんぱん』でやるかは分かりませんが、残り10話ほどしかないとはいえ、さすがにばいきんまん誕生が描かれないまま終わるとは思えません。また、ドラマのガイドブックでは主人公「のぶ(演:今田美桜)」のモデルが、ばいきんまんの仲間「ドキンちゃん」であることも語られています(暢さんがドキンちゃんのモデルという説があるため)。

『あんぱん』でばいきんまんとドキンちゃんが生まれるのはいつになるのか、どう生まれるのか、要注目です。

参考資料:『アンパンマン伝説』(フレーベル館 著:やなせたかし)『人生なんて夢だけど』(フレーベル館 著:やなせたかし)、『アンパンマンの遺書』(岩波書店 著:やなせたかし)、『やなせたかしの生涯 アンパンマンとぼく』(文藝春秋 著:梯久美子)

(マグミクス編集部)

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