携帯大手、物価高対策で三者三様 KDDIは値上げ、SBは手数料有料化、ドコモは両方
物価高や人件費の高騰を受けた価格転嫁で、携帯電話大手の対応が分かれている。KDDIは既存プランも含めた値上げ、ソフトバンクは事務手数料の有料化に踏み切る。NTTドコモは実質値上げとなる新プランを導入した上で手数料も引き上げる。顧客獲得競争で思惑が錯綜する形で、横並びが常態化している寡占市場に変化が兆しが出ている。
価格転嫁策をいち早く打ち出したのはNTTドコモ。実質1000円以上値上げとなる大容量プラン「ドコモMAX」を6月から開始した。動画配信サービス「DAZN(ダゾーン)」を組み込み、10月からは米プロバスケットボールリーグ「NBA」の一部の試合も視聴できる。
NTTの島田明社長は8月6日の決算会見で「月平均35万くらい。年間300万契約の計画なので、順調なスタートを切れた」と強調する。今後は、音楽ライブなどコンテンツを拡充する計画だ。ただ、動画視聴に興味のない消費者からは選択肢のない料金プランに対する不評が根強い。
KDDIは王道、ソフトバンクは苦肉の策
料金値上げで追随したのがKDDIだ。通信品質の向上やポイント還元などの付加価値を追加した新プランを開始した。8月からは既存プランの契約者にも数百円の値上げ。消費者に理解を求める「王道」の価格転嫁を実施した。
ソフトバンクは、2社の料金改定で新規顧客の獲得チャンスととらえ、様子見戦略をとる。その代替策が、事務手数料の有料化だ。8月20日から携帯電話の新規契約や機種変更など各種手続きにかかる手数料を、無料だったオンラインでの申し込みは3850円とする。店頭手続きも3850円から4950円に引き上げる。
事務手数料を巡っては、NTTドコモも値上げで追随する。オンラインでは無料を維持するが、9月から店頭での手続きが3850円から4950円になる。
世界的な物価高で通信設備の整備費用や労務費が高騰し、収益を圧迫してきた携帯電話大手。食品や家電など、ほとんどの業界で値上げが相次ぐも、2018年以降、政府が「4割値下げする余地がある」と値下げを主導してこともあり、値上げに方針転換できずにいた。
事務手数料の値上げはこうした背景も受けた苦肉の策で、安定した収益改善が見込める料金値上げを実施したいのが本音だ。宮川潤一社長は8月5日の決算会見で「業界の健全な発展のためには、料金プランの見直しが必要」とにじませる。
楽天、シェア拡大で市場変わるか
一方、楽天モバイルの契約件数が1000万回線を目前に控え、市場構造が徐々に変化している。楽天グループの三木谷浩史会長兼社長は「今のところ値上げは考えていない」と明言。動画サービスとのセットプランなども展開するが、月額約3000円で使い放題の基本プランは崩さない。
携帯電話市場は、長年、大手3社による寡占が続き、お互いの施策を追随しあう状態が続いてきた。現状維持では、存在感を高める楽天に有利になることは3社のトップは重々承知の上。それでもドコモは料金と事務手数料の双方の値上げに踏み切るという旧来通りの〝横並び〟を選んだ。ドコモの選択が業績に与える影響のほか、KDDIとソフトバンクの今後の動向が注目される。(高木克聡)