最近の円相場、日米金利差で想定される水準からやや乖離-三村財務官
三村淳財務官は5日、最近の円の動きについて、日米の金利差から想定される水準から乖離(かいり)しているとの見解を示した。
三村氏は、「基本的にわれわれは常日頃から、円とドル、あるいは米国債と日本国債の金利差に着目すべきだと言っている」とし、ドル・円相場はその金利差に沿って動くはずだと指摘。「為替の実際の動きと日米の公債の金利差の推移を見ると、最近はやや乖離が見られると言えるだろう」と述べた。
三村氏は都内で開催されたブルームバーグ・グローバル・クレジット・フォーラムでシェリー・アン氏との対談で英語で発言した。
為替市場では、日本銀行が現状維持を決めた先月30日の金融政策決定会合後に円安が進み、4日には対ドルで一時8カ月ぶりの安値となる154円48銭を付けた。植田和男総裁が利上げが近づきつつある可能性を示唆したものの、市場は懐疑的とみられ、円安が進んだ。
三村氏の発言前、円相場はほぼ前日比変わらずで推移していたが、同氏の発言を受けて円は一時0.1%高の153円45銭付近まで上昇した。ただ、その後は再び上下に振れる展開となっている。
三村氏によると、貿易や地政学的要因、日本の財政出動を巡る思惑などを背景に、夏ごろから円のロング(買い)ポジションが着実に減少している。「おそらくここ数週間は、この国の今後の財政政策に関する何らかの見通しや臆測があるだろうが、もちろんそれは全体の一部に過ぎない」と述べた。
三村氏は、為替の動きが過度かどうかを判断する具体的な数値を当局が念頭に置いているわけではないと強調。その上で、「このボラティリティーの変動がファンダメンタルズに関連する要因で必ずしも説明できない場合」、それはやや無秩序なあるいは過度な動きと言えるだろうと語った。これらは、過度な動きに対して市場をけん制した片山さつき財務相の最近の発言内容に沿うものだ。
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日本銀行に関するベッセント米財務長官の最近の発言について問われた三村氏は、金融政策は日銀に委ねられているという従来の立場を繰り返した。ベッセント氏は先月29日、日本政府はインフレ抑制に取り組むための裁量の余地を日銀に与えるべきだとの見解を示した。三村氏は、ベッセント氏も日銀の独立性を認めていると語った。
最良の条件
日米の貿易合意については、「現実的に考えればわれわれができ得る」最良の条件だったとの見解を示した。赤沢亮正前経済再生担当相率いる交渉チームの主要メンバーだった三村氏は、日本は自国の関税引き下げを免れたことに言及。関税引き下げには国会の承認が必要であり、少数与党の現状では現実的ではないと米国側に説明したという。
米関税引き下げの見返りとして、日本は米国の主要産業分野に最大5500億ドル(約84兆5000億円)規模の投資を約束した。日米両政府は、トランプ大統領の訪日に合わせて、「日米間の投資に関する共同ファクトシート」を公表。これには、エネルギーや人工知能(AI)、重要鉱物などの分野で想定されるプロジェクトの概要が盛り込まれており、ソフトバンクグループやウェスチングハウスなどの企業が関与する可能性がある。
三村氏は、この投資プログラムは日本企業に利益をもたらすと述べた。
高市早苗首相は、外国からの直接投資に対する審査を強化する方針を示している。首相は、片山財務相に対し、米国の対米外国投資委員会(CFIUS)をモデルとした日本版の組織を創設するよう指示した。米財務長官が主導するCFIUSは、海外からの投資が軍事機密の漏えいや機密技術の流出などのリスクを伴う可能性があるかを審査している。
日本版CFIUS創設に向けた動きは、中国が重要な技術や不動産資産の取得を加速させるとの懸念が高まる中、政府に対し国内企業保護を求める圧力が強まっていることを示唆している。政府は企業に対し株主還元の強化を引き続き促すことで外国人投資家を呼び込もうとしているが、地政学的緊張が高まる中で国家安全保障を強化する必要性から、そうした動きは抑制されている。
三村氏は、「われわれは常に健全な外国直接投資を歓迎している」とした上で、「同時に、地政学的リスクに対応できるよう、的を絞った、効率的な形で適切な審査を行えるようにする必要がある」と語った。
原題:Japan’s FX Chief Says Yen Shows Some Deviation From Fundamentals(抜粋)
— 取材協力 Toru Fujioka