買収ラッシュで脚光、「M&A」駆使し成長ロード快走中の銘柄群 <株探トップ特集>
日本企業の M&A件数が過去最高の水準となっている。経営人材の高齢化に伴い事業承継ニーズは拡大し、 親子上場に対してはガバナンスや資本効率性の観点で投資家から厳しい視線を注がれるようになった。M&Aの助言サービスに関する市場も拡大の一途をたどっている。M&A巧者といえる企業の株価に関しては、業績面での成長期待の高さゆえ、上昇力を内包した状況にあると言えるだろう。
●25年上期のM&A件数は2年連続で過去最多に レコフデータ(東京都千代田区)の調べによると、2025年1~6月期における日本企業のM&A件数は2509件に上った。前年同期比で7.1%増となり、2年連続で過去最多を更新した。金額についても過去最高を更新し、1~6月期としてこれまでの最高だった18年の水準(19兆6882億円)を上回る20兆7173億円となった。前年同期比では約2.1倍の大幅な増加となっている。直近ではトヨタ自動車 <7203> [東証P]陣営が豊田自動織機 <6201> [東証P]へのTOB(株式公開買い付け)を決め、NTT <9432> [東証P]がNTTデータグループ <9613> [東証P]に対して完全子会社化を目的としたTOBを実施した。東京証券取引所が上場企業に対し、資本効率の向上策の推進を働きかけるなかで、親子上場を解消する動きが加速している。加えて、超高齢化社会が到来した日本では、事業承継が急務となっている中堅・中小企業が多く存在し、M&Aの呼び水となっている。
M&Aについては、買収価格はもちろんのこと、PMI(ポスト・マージャー・インテグレーション)、すなわち買収後の統合プロセスも成否を分けるカギとなるというのは言うまでもない。巧みなPMIにより買収した企業の収益性や競争力を高めることに成功すれば、自社の企業価値の向上に直結することとなる。ニデック <6594> [東証P]が町工場から売上高2兆円規模の企業に成長したのは、果敢なM&A戦略とともに、買収した企業に対する経営改革を徹底して進められるノウハウを蓄積してきたところが大きい。
ITの世界では、時間を買うためのM&Aも日々繰り広げられている。生成AIに代表されるような新技術の誕生で、勢力図が一変する業界においては、自前主義で新たなプロダクトを開発することは非効率さをもたらし、競合他社に後れをとるリスクをはらむ。ビジネス特化のSNSを展開する米リンクトインの創業者、リード・ホフマン氏は、著書「ブリッツスケーリング」で、従来の常識ではありえないような積極投資やスピード感覚こそ、市場で圧倒的な地位を確保し、かけがえのない人的リソースを確保できるようになると訴えている。 もちろん、M&Aによる電撃的(ブリッツ)な事業拡大が有効となるのはITの世界に限った話ではない。拡大が見込みにくい国内市場において安住するのではなく、海外企業を買収することで、トップラインの一段の伸長を狙う事例も相次いでいる。M&Aを駆使した成長策を武器とし、企業価値の更なる向上に取り組む銘柄をピックアップしていく。 ●GENDAは米国展開で更なる高みへGENDA <9166> [東証G]はアミューズメント施設「GiGO」やカラオケチェーン店「カラオケ BanBan」を展開。M&Aによる「連続的な非連続な成長」で株式価値を高めることが成長戦略の柱であるとうたう。4月に北米のゲームセンター運営企業の買収を発表。買収額は1億7000万ドル(約253億円、1ドル=148円80銭)と、同社にとって過去最大のM&A案件となった。公募増資で調達した資金をもとに、引き続き積極的なM&A活動を進める方針。株価は6月16日に年初来安値775円をつけた後、底値離脱の兆しをみせるようになった。
製造業を対象とするM&Aで事業規模を拡大するセレンディップ・ホールディングス <7318> [東証G]は、27年3月期に売上高500億円(26年3月期予想400億円)、営業利益25億円(同18億円)を目標とする中期経営計画について、前倒しの達成が視野に入っている。買収した企業の経営変革とともに、部品の単体売りではなくグループで顧客に総合提案できる体制を強みに、海外進出も加速させる構えだ。
今年2月5日にグロース市場に新規上場した技術承継機構 <319A> [東証G]も、モノづくり企業による 事業承継需要が高まるなかで、M&Aを武器に成長を遂げる。再生案件ではなく高収益企業にフォーカスを当て、金融機関など社外のチャネルからの紹介を通じ新規の案件を開拓している。
あい ホールディングス <3076> [東証P]は監視カメラやカード発行システムを主力としつつ、戦前から日本の通信技術を支えてきた岩崎通信機を傘下に取り込み、25年には同じく老舗通信機器メーカーのナカヨを買収するなど、果敢なM&A攻勢を掛けている。3月末時点の自己資本比率は79.8%。米投資ファンドのダルトン・インベストメンツが約5%を保有している。
●SHIFTはM&Aで急成長ソフトウェアのテスト事業を展開するSHIFT <3697> [東証P]も、M&Aにより急成長した企業だ。28~30年までに売上高3000億円(25年8月期予想は1300億円)に伸ばす目標を掲げている。25年8月期業績予想の修正を7月9日に発表。営業利益と経常利益の見通しを引き上げた。修正後の業績予想に対しては物足りなさが意識されたもようで、株価は下押ししたが、75日移動平均線近辺で下げ渋った。
BuySell Technologies <7685> [東証G]はリユース領域でのM&Aで事業規模を急速に拡大。27年12月期の売上高は1400億円(25年12月期予想は1000億円)、営業利益110億円(同75億円)を計画するが、新規のM&Aがない前提での目標値であり、買収企業が加わることによる一段の高成長が期待される。
企業・自治体のIT支援を展開するチェンジホールディングス <3962> [東証P]は、ふるさと納税のポータルサイトを手掛けるトラストバンクを18年に買収。23年にイー・ガーディアン <6050> [東証P]を子会社化し、サイバーセキュリティー分野に進出した。今後3年間で300億円をM&Aに投じる予定だ。
DX戦略やマーケティング支援を展開するエフ・コード <9211> [東証G]は25年1~6月期のM&A案件検討数(見込み)が約200件(前年同期は121件)に増加。成長中の黒字企業をターゲットとして、デットを中心とした資金調達を前提に今後もM&Aを推進する方針を示している。
●ヤマエGHDは売上高1兆円企業にヤマエグループホールディングス <7130> [東証P]は九州を本拠地として食品卸などの事業を展開。25年3月期において売上高は初の1兆円突破となった。ヤマエ久野時代の17年からM&Aを積極化し、22年に日本ピザハット・コーポレーションを子会社化。前期末時点で連結子会社は68社まで拡大した。2月には海外展開に向けた統括会社を設立している。
土木・産業資材の前田工繊 <7821> [東証P]は国土強靱化に絡む銘柄だが、10年以降は多角化戦略を加速。鍛造ホイールをF1の全チームに供給するBBSジャパンも傘下企業である。M&Aを通じた成長戦略を掲げながらも、3月末時点において自己資本比率は80.9%と財務体質は強固だ。
エレクトロニクス商社のレスター <3156> [東証P]は27年3月期に売上高8000億円(26年3月期予想6000億円)、営業利益率3.5%以上(同2.7%)に伸ばす目標を掲げ、将来的に売上高1兆円規模の企業への進化を目指している。配当利回りは4%台に上る。
このほか、ユニバーサル園芸社 <6061> [東証S]は同業のM&Aや事業承継により商圏を広げ、海外市場も開拓中。フリー <4478> [東証G]もM&Aによりトップラインを拡大してきた企業として知られている。物流業界ではセンコーグループホールディングス <9069> [東証P]などがM&Aを活用し業容の拡大に動いている。
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