水平リサイクル可能なゴムの「丈夫さの秘密」を解明 微粒子の変形メカニズムが明らかに【名古屋大学 岡山大学など】
名古屋大学、岡山大学、弘前大学の研究グループは、水平リサイクルが可能でありながら天然ゴムに匹敵する高い壊れにくさを持つゴム材料について、その丈夫さが生まれる仕組みを明らかにしました。研究成果は2026年10月13日付で米国の科学雑誌「ACS Applied Materials & Interfaces」にオンライン公開されました。
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■なぜ「水平リサイクル可能なゴム」が注目される?持続可能な社会の実現に向けて、プラスチックやゴムなどの高分子材料を繰り返し利用するリサイクル技術が重要視されています。なかでも、使用後の材料を同等の品質のまま再び同じ用途に使う「水平リサイクル」は、資源の有効活用という観点から特に注目を集めています。しかしゴムは、分子同士が複雑につながった網目状の構造を持ち、製品にはさまざまな添加剤も用いられます。そのため、使用後のゴムを元と同等の材料に戻す水平リサイクルは容易ではないという根本的な課題がありました。この課題に対し、岡山大学の鈴木大介教授らの研究グループは、数百ナノメートルの高分子微粒子を集めてゴムを作る新しい材料設計を見いだしました。この方法では、ゴムを微粒子まで分解し、再び微粒子を集めることで材料を劣化なく繰り返し利用できます。さらにこの材料は、微粒子だけからできているにもかかわらず、天然ゴムに匹敵する高い壊れにくさ(破壊エネルギー50 MJ/m³程度)を示すことが確認されていました。一方で、「なぜ微粒子からできたゴムがそれほど丈夫なのか」という問いへの答えは、これまで得られていませんでした。■2つの先端計測技術を組み合わせた解析この研究では、微粒子内部の架橋量が異なるゴム材料を対象に、ゴムを大きく伸ばしたときの微粒子の変形を観察しました。用いたのは、名古屋大学の内橋貴之教授が専門とする「一軸伸長機構付き AFM」と、弘前大学の呉羽拓真助教が専門とする「小角X線散乱(SAXS)」を組み合わせるというアプローチです。
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一軸伸長機構付き AFM は、非常に細い探針で試料表面をなぞり、凹凸をナノメートルスケールで観察する原子間力顕微鏡(AFM)に、試料を一方向に引き伸ばす機構を組み込んだものです。内橋教授らは独自に開発したこの装置をさらに改良し、ゴムを初期の長さの約8倍まで伸ばしながら表面を観察することに成功しました。一方、SAXS は試料にX線を当て、その散らばり方からナノメートル〜数百ナノメートル程度の内部構造を調べる手法です。この二つを組み合わせることで、粒子の「表面」と「内部」の両方の変化を、大きな変形の最中にとらえることが可能になりました。■架橋量が変形の仕方を左右AFM による観察の結果、粒子1個ごとの伸び方は架橋量によらずほぼ同じであるにもかかわらず、架橋が少ない場合には粒子表面が滑らかなまま変形するのに対し、架橋が多い場合には伸ばすにつれて粒子の表面が粗くなる(損傷する)ことが明らかになりました。SAXS による内部観察でも、架橋が少ない粒子では伸長に伴ってナノ構造の異方化が進行したのに対し、架橋の多い粒子ではその異方化が大きく抑制されることが分かりました。これら2つの観察結果を組み合わせることで、次のような変形メカニズムが浮かび上がりました。架橋が少ない場合:微粒子の内部まで変形しながら、個々の微粒子が滑らかに伸びます。ナノ構造の異方化が進行し、大きな変形が可能になります。架橋が多い場合:粒子を構成する分子鎖の変形が抑制され、微粒子の内部が変形しにくくなります。その結果、粒子の表面に粗さ(損傷)が現れ、破断しやすくなります。この変形の違いは、架橋密度の増加に伴うゴムの力学特性の変化と対応しています。
具体的には、ヤング率(硬さの指標)が1.6 MPaから19.3 MPaへと上昇する一方、破断ひずみ(伸びの指標)は1381%から633%へと低下するというトレードオフが生じることが確認されました。
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■循環型高分子材料の設計に向けた指針この研究で得られた知見は、高い性能を維持しながら繰り返し利用できる循環型高分子材料の設計に向けた基盤的な情報を提供するものです。微粒子の中の架橋密度によって変形の仕方が変わり、それがゴム全体の硬さや伸びやすさと対応することが分かったことで、目的とする力学特性を持つ材料を作るために微粒子をどのように設計すればよいかを考える上での重要な手がかりが得られました。
また、一軸伸長機構付き AFM と SAXS を組み合わせて伸長中の材料の表面と内部を調べるアプローチは、微粒子から成るさまざまな高分子材料の変形メカニズムを理解するための有効な解析手段となることが期待されます。