「何か質問はありますか?」と聞く営業は成果が出ない…3期連続トップのキーエンス元営業がかける「最後の質問」
私が新卒で入社したキーエンスは、圧倒的な営業利益率を誇る企業として知られています。そこには「売れる営業」を育てるための確固たる仕組みがありました。新人は入社後、約半年間におよぶ研修で徹底的に営業の基礎を叩き込まれます。そこで教えられることの一つに、「一方的なPRはしてはいけない」という鉄則があります。
営業というと、自社商品の魅力を流暢に語り、相手を説得するイメージがあるかもしれません。しかし、キーエンスではそれを「自己満足のPR」だと捉え、成果につながらないダメな営業手法だと教わります。なぜなら、お客様の状態や課題を無視して商品を売り込んでも、相手の心には響かないからです。
大切なのは、お客様の口から課題を言ってもらうことです。
こちらから「御社の課題はこれですよね」と指摘するのではなく、対話を通じてお客様自身に「ああ、確かにここが問題だったんだ」と再認識してもらう。そこに対して解決策を提示するからこそ、提案が刺さるのです。
そのために、研修では商品の機能を暗記するだけでなく、ロールプレイングを通じて「相手のニーズの裏にある背景」を探る訓練を徹底的に繰り返します。
■営業トークで「絶対NGな問いかけ」
商談の終盤や説明の区切りで、多くの営業マンが口にしてしまう「ある問いかけ」があります。それは、「何かご質問はありますか?」という一言です。これを言われたお客様の多くは、「特にありません」と答えて会話が終わってしまうことがほとんどです。みなさんも営業マンに対して「特にありません」と答えたことがあるのではないでしょうか。
なぜこの質問がダメなのかというと、お客様に「何を質問すべきか」を考えさせる負担を強いているからです。また、ビジネスの場では、お客様は本音を隠す傾向があります。波風を立てないよう、本当は不明点や懸念点があっても「ない」と答えてその場をやり過ごそうとするのです。
では、どう聞けばいいのでしょうか。おすすめなのは、「実際に導入するとしたら、懸念されることやご心配なことはありませんか?」と、あえてネガティブな要素を聞き出すことです。
質問の対象を「懸念点」に絞ることで、相手は「自分に関係があるかどうか」という視点で考えやすくなります。そうして「うちは設置スペースが狭いから」「現場が使いこなせるか不安だ」といった本音が出てくればしめたもの。そこには契約を阻む真の課題が隠されているからです。
■「いいですね」と答える客は買ってくれない
営業をしていて一番厄介なのは、こちらの説明に対して「いいですね」「わかりやすいです」と肯定的な反応ばかり返してくるお客様です。一見すると脈ありのように思えますが、実はこういった反応をするお客様ほど、最終的に買ってくれないことが多いのです。
なぜなら、その「いいですね」は「優しい嘘」である可能性が高いからです。わざわざ説明に来てもらった手前、本当のことを言うのは悪い、あるいは真剣に検討するのが面倒だから適当に褒めておこう、という心理が働いているのです。
本気で導入を考えているお客様であれば、必ず「予算」や「設置場所」、「社内稟議」といった具体的なハードルに直面します。したがって、「ここはどうなっているの?」「これだと困る」といった厳しい質問や懸念が出てくるのが自然なのです。
先ほど触れた「懸念点はありますか?」という質問に対し、「特にないです」「完璧です」と返ってくる場合は要注意です。そのお客様は、当事者意識を持って商品を見ていません。その場合は、アプローチする相手を変えるか、全く別の角度から提案をし直す必要があります。
耳障りの良い言葉に惑わされず、相手の本気度を見極める冷静さが営業には不可欠です。
■5秒で心を掴む「必殺フレーズ」
時間が限られているテレアポや、初対面の商談の冒頭で、相手の心を5秒で掴むための手法も、キーエンスで学んだことのうちの一つです。
私が実践していたのは、商品に強力な「キャッチフレーズ」をつけることでした。たとえば、衝撃に強いセンサーを売り込む際に、「耐久性が高いセンサーです」と言っても興味を持ってもらえません。しかし、「ゾウが踏んでも壊れないセンサーが出ました」と言われたらどうでしょう。「え、何それ?」と身を乗り出したくなりませんか。
もちろん、ふざけているわけではありません。大真面目に伝えることで、その商品の特徴が強烈なインパクトとともに相手の記憶に残ります。他にも、小型のセンサーなら「マッチ箱サイズの画像センサー」、耐油性の高い商品なら「油にジャブ漬けしても大丈夫なセンサー」といった具合です。具体的なイメージが湧く言葉を選ぶことがポイントです。
ちなみに、この「ゾウが踏んでも壊れないセンサー」というキャッチフレーズは、私がキーエンスに入社した2007年以前から使われていて、在籍していた13年半の間もずっと使われ続けてきた、まさに最強のキャッチフレーズでした。
ただし、この手法を使うには、相手の業務内容を想像する力が求められます。油汚れに困っている工場に「油にジャブ漬け」は刺さりますが、清潔なクリーンルームで作業している現場には響きません。
相手が「まさにそんな商品を探していた」と思うような、具体的かつインパクトのあるフレーズを用意する。この「つかみ」の工夫一つで、その後の話を聞いてもらえる確率は劇的に変わります。
■「顧客の課題」を見つけることが営業の仕事
私が考える営業の定義とは、「相手の課題を把握し、それを解決して喜んでもらうこと」です。商品を売ることは、その結果にすぎません。そのためには、お客様が発した言葉を鵜呑みにせず、「なぜですか?」と深掘りしていく姿勢が重要になります。
例えば、複合機を売りに行った際、お客様から「小型の機種が欲しい」と言われたとします。普通の営業なら小型機を提案して終わりですが、ここで「なぜ小型がいいのですか?」と聞くのです。
すると「置き場所がないから」と返ってくる。
「なぜ場所がないのですか?」「実は部署ごとに2台置いているからだ」「なぜ2台必要なんですか?」
「昔、ファクスが混ざって仕分けが大変だったからだ」。
ここまで聞いて初めて、真の課題は「場所」ではなく「ファクスの仕分け」だと判明します。
それなら、小型機を2台売るのではなく、ファクスを自動で仕分けられる高機能な大型機を1台提案するほうが、お客様の業務効率は上がり、結果的に喜ばれます。お客様自身も、自分の本当の課題に気づいていないことは多々あります。医者が患者の問診をするように、質問を重ねて真因を突き止める。それこそがプロの営業の仕事なのです。
■「売れる営業」と「売れない営業」はなにが違うのか
私はこれまで前職のキーエンスや、独立してから始めた営業支援の現場で多くの営業マンを見てきましたが、「売れる人」と「売れない人」の違いはシンプルです。
齋田真司『キーエンス 最強の働き方』(PHP新書)それは性格が明るいことや、話すのが上手い、人付き合いが上手、といった特徴とはまったく関係がありません。売れる人と売れない人の分かれ目は「積極的に人からノウハウを学び、自ら相談できるかどうか」にかかっています。
世の中には、誰に教わらなくても感覚的に正解を選び取れる「天才」が稀にいます。しかし、そんな人は全体の1%もいません。残りの99%の人が成果を出すには、売れるための正しい「型」を知り、それを実行するしかないのです。
売れない営業は、自分の乏しい知識や経験だけでなんとかしようともがきます。多くの企業では教育体制が整っておらず、「背中を見て盗め」という古い文化が残っていることも原因でしょう。しかし、それでは成長のスピードが遅すぎます。
一方で、売れる営業はプライドを捨てて、成果を出している先輩に「どうやっているんですか?」と頭を下げて聞きに行けます。私自身、新人の頃は全く売れませんでしたが、トップセールスの先輩に同行をお願いし、その手法を徹底的に真似ることで壁を突破しました。
■最短距離で正解にたどりつく唯一の方法
さらに、そこからもう一段階上の「トップセールス」になり続ける人は、身につけた「型」を自分だけのものにしません。同僚や部下に惜しみなく教え、チーム全体で実践するのです。
人に教えるためには、感覚的な部分を言語化し、誰でも使えるように資料化しなければなりません。その過程で「自分でも曖昧だった部分」に気づき、ノウハウの解像度が上がります。また、周りがその「型」を使ってくれれば、「ここはもっとこうしたほうがいい」というフィードバックが得られ、ノウハウ自体がさらに磨き上げられていきます。
自分一人で抱え込まず、周囲の力を借りて最短距離で正解にたどり着く。そして教わったことを素直に実行する。この姿勢こそが、凡人をトップセールスへと変える唯一の道なのです。
----------齋田 真司(さいた・しんじ)キーレイズ代表取締役
2007年、株式会社キーエンスに新卒入社し13年半在籍。2022年、営業サポート事業を展開する株式会社キーレイズを創業。伴走支援先・研修指導先は多岐にわたり、大手から中堅中小まで、のべ3,000名を超える。著書に『キーエンス 最強の働き方 新人からベテランまで、最短で成果を最大化するシンプルなルール』(PHP研究所)がある。
----------(キーレイズ代表取締役 齋田 真司)