人口流出の歯止めに? 山あいの町が歓迎する自衛隊の弾薬保管計画

自衛隊火薬庫の整備に向けた調査が進む鹿児島県さつま町の中岳(中央奥)と地元で誘致を進めてきた山崎隆さん=同町で2025年10月15日午後2時29分、平川昌範撮影

 緑豊かな竹林があり、温泉が湧き、初夏には蛍が舞う。のどかな風景が広がる鹿児島県の山あいの町で、自衛隊の弾薬を保管する火薬庫の建設計画が進んでいる。

 ウクライナ戦争のような長期戦が起きた場合に備え、十分な弾薬の確保と火薬庫の増設を目指す政府の「防衛力強化策」の一環だ。

 自衛隊施設がない町に白羽の矢が立った背景には、ある危機感から防衛施設の整備を求めた町側の動きがあった。

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 鹿児島県北西部に位置するさつま町。10月中旬、収穫期を迎えた水田から稲刈り機の音が響く。

 「あれが中岳です」。町内で建設会社を営む山崎隆さん(57)が深い緑に覆われた山を指した。標高654メートル。防衛省が火薬庫の整備に向けた調査を進めている山だ。

 防衛省は2023年12月、火薬庫整備を検討していることを町に伝え、翌24年12月には「必要な面積を確保でき、部隊運用上の利便性がある」などとして中岳に整備する方針を明らかにした。

 一帯が国有林で、用地買収の必要がないことも考慮したとみられる。25年度には火薬庫へのアクセス道路の検討や環境調査を実施する予定だ。

 実は、町は19年以降、防衛省に防衛施設の整備を求めてきた。

 きっかけは、17年に山崎さんが町議会に出した、防衛施設の誘致を求める請願書だ。当時は採択されなかったが、山崎さんの働きかけを受けて町商工会が翌18年5月に同趣旨の請願書を出すと、町議会は全会一致で採択。その年の8月には商工会など地元の18団体でつくる「誘致推進協議会」が発足した。

 山崎さんが防衛施設の誘致に動いたのは、町の将来に対する不安からだった。

 さつま町は05年に旧3町が合併して誕生した。当時約2万6000人だった人口は、20年を経て約1万8000人に減った。

 若年層の流出に歯止めがかからず、少子高齢化が進行した。基幹産業の農林業では後継者不足が深刻になっている。

 山崎さんも高校進学で古里を離れ、福岡県の大学に進学。そのまま大手ゼネコンに就職して北九州市などで勤務した。27歳の時に家業の建設会社を継ぐために戻った。結婚して子どもができたが、町の活気は薄れていく。

 「あの店も閉まる。この店も閉まる。子どもたちが進学で町を出ると、大半の親が『帰ってこなくてもいいよ』と言う」

 町の振興策を模索していた山崎さんの目に留まったのが、政府が打ち出していた防衛体制の「南西シフト」だった。「民間企業の誘致は難しくても、防衛施設なら目があるかもしれない」と思い、自衛隊関係者らに相談し始めた。

 それから約10年。火薬庫整…

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