加速する親子上場解消の動き、株主圧力で企業価値向上へ本腰
日本の大手企業グループが、数百社に及ぶ上場子会社の整理に本腰を入れ始めた。「親子上場」は資本の効率的な活用を妨げ利益相反のリスクも高いと、投資家や証券取引所から解消を求める声が強まっていることが背景だ。
ジェフリーズ証券によると、日本の親子上場は212件。欧州の178件や米国の59件と比べると多いが、2020年の285件からは約25%減った。非効率な経営に厳しいアクティビスト(物言う株主)の動きが活発な上、東京証券取引所も2年前から上場企業に対し株主目線での経営を要請。企業側も増えつつある敵対的買収を回避するため、先手を打つ必要性に迫られている。
ニッセイ基礎研究所の森下千鶴研究員は、アクティビストの影響力が強まる中で「親子上場が企業価値の向上に寄与しているのかが問われており、企業側でも取捨選択する動きが出ているのではないか」と指摘する。
元国営企業の電電公社が民営化した国内通信最大手のNTTは8日、傘下のシステムインテグレーターであるNTTデータグループを完全子会社化し、株式を非公開化すると発表。20年にモバイルサービス子会社だったNTTドコモを吸収したのに続くグループ再編劇だ。その前日には、たばこメーカーのJTが子会社の鳥居薬品を塩野義製薬に売却し、医薬品事業からの事実上の撤退を表明した。
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時価総額で国内最大のトヨタ自動車にも再編の動きがある。複数の関係者によると、豊田章男会長を含むトヨタの創業家がグループの源流企業である豊田自動織機に非公開化を前提とした買収提案を行った。
各社に先行して親子上場の解消に動き、投資家から模範とされているのが日立製作所だ。10年以上に及ぶ構造改革を進めた結果、22年度に上場子会社がゼロになった。この間、多くの子会社を売却し、中核事業に不可欠と判断した一部子会社を吸収した。日立株はその後3倍以上値上がりした。
投資家やストラテジストなど市場関係者の間では、親子上場解消に動く可能性が高い次なる候補探しが始まっている。代表格は製鉄メーカーの日本製鉄や総合化学の住友化学、小売りのイオンなどだ。
親会社 子会社 三菱ケミカルグループ 4188 JP Equity 日本酸素ホールディングス 4091 JP Equity 住友商事 8053 JP Equity SCSK 9719 JP Equity キリンホールディングス 2503 JP Equity 協和キリン 4151 JP Equity 日本製鉄 5401 JP Equity 日鉄ソリューションズ 2327 JP Equity イオン 8267 JP Equity イオンモール 8905 JP Equity キヤノン 7751 JP Equity キヤノンマーケティングジャパン 8060 JP Equity 電通グループ 4324 JP Equity 電通総研 4812 JP Equity 住友化学 4005 JP Equity 住友ファーマ 4506 JP Equity 三菱重工業 7011 JP Equity 三菱ロジスネクスト 7105 JP Equity メディパルホールディングス 7459 JP Equity PALTAC 8283 JP Equity英運用会社のゼナーアセットマネジメントの創業パートナー、デービッド・ミッチンソン氏は、同氏が手掛ける取引の約20%が子会社の上場廃止を見込んだものだと明かす。「取引所と株主からのガバナンス(統治)問題の解決を求める圧力は、市場にとって非常に影響力がありポジティブな要因」とみる。
岡三証券の内山大輔シニアストラテジストは、親子上場の解消について「数年前であれば10年単位の問題という認識だったが、東証の要請もあり、5年程度という認識の変化がある」と言う。
もっとも、大手企業グループが実際にいつ親子上場の解消に動くかは予見しづらい。リブラ・インベストメンツの佐久間康郎代表取締役は「親子上場の解消を狙うというのはアイデアとしては常にあるが、それがいつ具現化するのかが読みにくく、機会損失にもなりかねない」と指摘。見かけほど投資機会はないとの見方を示す。
親子上場解消と逆行する動きもある。ソフトバンクグループや楽天グループ、GMOインターネットなどテクノロジー企業グループは通信や電子商取引、金融など幅広い事業を展開し、子会社の上場を資金調達手段として継続的に活用し続けるとの見方が多い。ソフトバンクG傘下のLINEヤフーとソフトバンクは、デジタル決済事業のPayPay(ペイペイ)の上場計画を発表した。
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コムジェスト・アセット・マネジメントのポートフォリオ・マネジャー、リチャード・ケイ氏は「上場子会社を非公開化するだけでガバナンスの改善につながるかどうかは明確ではない」と話す。
とはいえ、グループ企業の株式保有構造スリム化への圧力は今後も強まる可能性が高い。CLSA証券のストラテジストであるニコラス・スミス氏は、東証が7月から少数株主保護を目的に経営陣による買収(MBO)に関する規則を強化するため、子会社の早期買収に向けたインセンティブが強まるとみる。「皮肉な見方をすれば、ルールの厳格化を前に既に駆け込み的なMBOや買収が起きているとも言える」と語った。