白色矮星は準惑星を引き寄せ、破壊して“食べて”いる
太陽質量の8倍以上の質量をもつ恒星は、最後に超新星爆発と呼ばれる大爆発を起こして一生を終える。これに対して、それより軽い恒星の最後はもっと穏やかだ。大きく膨れ上がって赤みを帯び、やがて外層を失って、むき出しのコアが残される。この余熱で光り輝くコアが白色矮星だ。
白色矮星は非常に高密度の天体で、太陽の半分ほどの質量が地球と同じくらいのサイズの天体に詰め込まれている。このため、引力は強大だ。
白色矮星の画像。2004年と11年から13年にかけて、ハッブル宇宙望遠鏡が掃天観測用高性能カメラ(ACS)で撮影した。左は地球から26,000光年ほど離れた天の川銀河の中心部の画像で、書き込まれた番号は白色矮星の位置を示す。右側の画像は、それぞれの番号に対応する白色矮星を拡大したもの。
それほどの強大な引力をもつ白色矮星が、冥王星によく似た準惑星を引き寄せて破壊し、“食べて”いることが、このほど米航空宇宙局(NASA)のハッブル宇宙望遠鏡の観測データから明らかになった。
この白色矮星は「WD1647+375」という名称で、地球から260光年ほど離れたところに位置している。宇宙の広大さから見ると、地球の“ご近所さん”といえるだろう。
白色矮星から検出された意外な成分
研究チームは、ハッブル宇宙望遠鏡に搭載された宇宙起源分光器(COS)を使用して、2011年10月と12年12月の2回にわたってWD1647+375を観測した。COSは紫外線によって分光観測することで、宇宙の大規模構造などを解き明かすことを目的とする観測装置だ。
これまでの研究から、白色矮星であるWD1647+375には大気が存在することが明らかになっていた。この大気には、その強大な引力によって引き寄せられ、破壊され、表面に落下した天体などを起源とする化学的な成分が含まれている。
そこで研究チームはCOSによる観測データを分析し、WD1647+375の大気の化学的な組成を探った。すると、冥王星によく似た準惑星を強大な引力によって引き寄せ、破壊し、表面に落下させていたことが判明したのである。
WD1647+375がまだ恒星だったころ、この準惑星は太陽系の「カイパーベルト」と呼ばれる領域に相当する場所に位置していたと考えられるという。これは氷と岩石を主成分とする数十万の小天体がドーナツ状に密集する領域で、公転周期が200年以内の短周期彗星はここからやって来ると考えられている。いわば“彗星の巣”のような場所である領域から、準惑星は強大な引力によって引き寄せられたわけだ。
太陽系のカイパーベルトと同じように、氷の小天体がひしめきあっているという他の恒星系の領域の画像。日本の国立天文台やヨーロッパ南天天文台(ESO)が運用するチリ北部のアルマ望遠鏡(アタカマ大型ミリ波サブミリ波干渉計=ALMA)が撮影した。WD1647+375も、かつてはいくつかの太陽系外惑星とこのようなカイパーベルトに相当する領域をもっていたと考えられている。
WD1647+375の大気を研究チームが分析したところ、炭素、硫黄、窒素、水の存在を強く示唆する高濃度の酸素などの揮発性物質(沸点が低い物質)を検出した。この結果に基づいて考えられる天体の化学的な組成は、太陽系のカイパーベルトに属する天体の化学的な組成によく似ているという。
「わたしたちは驚かされました」と、研究チームを率いたウォリック大学のスネーハラタ・サフは驚きを隠さない。このような揮発性物質が白色矮星から検出されるのは、実は非常に珍しいからだ。「このような水やその他の氷の成分が検出されるとは考えていなかったからです」
なぜなら、このような揮発性物質を豊富に含む彗星やカイパーベルトに相当する領域に属する天体は、恒星が白色矮星に進化する過程で早々に恒星系から投げ出されてしまう可能性が高いのである。
破壊された準惑星は、なぜ冥王星に似ている?
この引き寄せられて破壊された天体は、なぜ冥王星によく似た準惑星と考えられるのだろうか。COSによる観測データの分析からは、WD1647+375に落下した天体の残骸の64%は、水の氷で構成されていることもわかっている。
このように大量の水の氷が検出されたことから、破壊された天体は巨大な氷の天体であると考えられるという。その大きさについて研究チームは、典型的な彗星よりも大きく、おそらく準惑星ではないかと見積もっている。
また研究チームは、WD1647+375の大気から大量の窒素も検出した。これまで白色矮星から検出されたことがない量だという。
「冥王星の表面は窒素の氷で覆われていることがわかっています」と、サフは解説する。「わたしたちはWD1647+375が、その表面に冥王星によく似た準惑星の地殻とマントルを落下させていると考えています」
冥王星の様子。NASAの太陽系外縁天体探査機「ニュー・ホライズンズ」が2015年にマルチスペクトル可視光イメージングカメラ(MVIC)で撮影したもので、人間の目にはこのように見えるという。冥王星は氷の天体で直径は2,370kmほど、表面は窒素の氷で覆われている。右側に見える巨大なハートマークが印象的だ。
研究チームによると、揮発性物質に富む天体の残骸の白色矮星への落下を可視光で観測することは非常に難しく、今回の観測はCOSによる紫外線の観測によって初めて可能になった。WD1647+375は可視光で観測しても、おそらく普通の白色矮星にしか見えなかっただろうという。
研究チームは現在、NASAのジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡を用いてWD1647+375を赤外線で観測することを希望している。この観測によって水蒸気や炭酸塩(炭酸イオンを含む化合物の総称)などの揮発性物質の分子的な特徴を明らかにすることが狙いだ。
「このような“太陽系外冥王星”の化学的な組成を測定することは、これらの天体の形成と進化に関するわたしたちの理解を深めることに大きく貢献します」と、サフは説明している。
(Edited by Daisuke Takimoto)
※『WIRED』による宇宙の関連記事はこちら。
Related Articles
雑誌『WIRED』日本版 VOL.57「The Big Interview 未来を実装する者たち」好評発売中!
気鋭のAI研究者たちやユヴァル・ノア・ハラリが語る「人類とAGIの未来」。伝説のゲームクリエイター・小島秀夫や小説家・川上未映子の「創作にかける思い」。大阪・関西万博で壮大なビジョンを実現した建築家・藤本壮介やアーティストの落合陽一。ビル・ゲイツの回顧録。さらには不老不死を追い求める富豪のブライアン・ジョンソン、パリ五輪金メダリストのBガール・AMIまで──。未来をつくるヴォイスが、ここに。グローバルメディア『WIRED』が総力を結集し、世界を動かす“本音”を届ける人気シリーズ「The Big Interview」の決定版!!詳細はこちら。