阿藤快さんに「司法試験に憧れています」と言うと、「頑張れよ。俺は諦めたから」…心に残り39歳で合格
約230人が所属する鹿児島県弁護士会の新しい会長に4月、白鳥努さん(71)が就任した。弁護士になるまでの歩みや会長としての抱負などを聞いた。
――弁護士を志したきっかけは。
「慶応大法学部を卒業後、六本木のスナックでウェーターをしていた。その店で、当時俳優座に所属し、後に映画『 赫(あか) い髪の女』や旅番組『ぶらり途中下車の旅』などで活躍した阿藤快さん(2015年に69歳で死去)に出会う機会があった。阿藤さんに将来のことを問われ、なんとなく『司法試験に憧れています』と言うと『じゃあ頑張れよ。俺は諦めたから』と励まされた。法学部出身で、かつて司法試験合格を目指していた阿藤さんならではの一言が心に残った」
阿藤快さん(2012年7月)「その後、出版社や司法試験の予備校で働きながら独学で勉強した。ラストチャンスと思い臨んだ39歳の時に、司法試験に合格。約5年間、東京都内の弁護士事務所で修業した後、故郷の鹿児島に戻ってきた」
――弁護士として大切にしていることは。
「大学時代は応援部に所属していた。当事者にとっては全ての案件が一大事なので、困っている人を応援し、助けるために全力を尽くす。母校・鶴丸高の校是『FOR OTHERS(他人のために)』を胸に、依頼者に対して誠心誠意向き合うことを大切にしている」
――弁護士会長としての抱負を。
「近年、高齢者をターゲットにした詐欺が多発している。このような事案は発生後に裁判などでお金を取り戻すことが非常に難しく、被害に遭わないようにすることが重要だ。個々の事務所では対応しきれないので、県弁護士会として県警や報道機関と連携して啓発活動を行っていきたい」
――地方での弁護士不足が問題になっている。
「東京に弁護士が一極集中しつつある。九州・沖縄地区の弁護士会でつくる九州弁護士会連合会などと協力しながら、離島などでも活動できるよう工夫したい」
「また学生に法曹の魅力を知ってもらう活動も重要だ。他県では、高校生が検察官役と弁護人役を務めて『対戦』する高校生模擬裁判選手権が盛んなところもある。裁判所や検察、大学とも連携して学生が法律に触れる機会を増やし、一人でも多くの若者が法曹界に興味を持つきっかけを作りたい」
丁寧な言葉遣いの中に熱い思い
法廷での白鳥さんからは、丁寧な言葉遣いの中に弱い立場に置かれた人を助けようとする熱い思いを感じる。「印象に残っている案件はありますか」と問うと「今でも夜中まで仕事をしている。なかなか過去を振り返る時間もないかな」と笑った。弁護士は法律上のトラブルを抱える人たちが頼る最後の 砦(とりで) だ。古希を過ぎた白鳥さんが誠実に依頼者と向き合う姿に、身が引き締まる思いがした。(関理一郎)
◆しらとり・つとむ =福岡県八女市出身。小学4年時に鹿児島市に移り、鶴丸高から慶応大法学部に進学。現在は鹿児島市で法律事務所を営む。1960~70年代のロックが好みで、特に英国のロックバンド「ローリング・ストーンズ」はイギリスまでライブを見に行くほどの大ファン。趣味はレコード収集。