友達が「これいい!」となったら私も欲しくなる…!「ちょっとした感情」の見過ごせない影響--行動経済学の視点(東洋経済オンライン)
1/2 10:00 配信
購買意欲を高めたり、社員のモチベーション上げたり——。行動経済学の分野で重視されている「アフェクト」という感情をご存じでしょうか? 喜怒哀楽のようにはっきりはしていない、本人も意識していないレベルの「淡い感情」だけれど、人の行動に与える影響は非常に大きい、というアフェクト。
世界の数多くの企業コンサルをしてきた相良奈美香さんは、行動経済学の知見から「ポジティブアフェクトの活用方法」を導き、人生をより良い方向に好転させるヒントを伝授しています。
相良さんの著書『ポジティブアフェクトで幸せの仕組み化』より一部を抜粋し、本記事では「幸せの仕組み化」について考えます。■アフェクトから始まる「幸せの仕組み化」
アフェクト——。聞き慣れない言葉かもしれませんが、行動経済学の世界では「人間の意思決定を左右する重要な要素」と考えられています。喜怒哀楽のような強い感情(エモーション)ではなく、心の中に一瞬で浮かぶ「ちょっとうれしい」「なんだか嫌だ」「これが好き」という淡い感情をアフェクトといいます。
人間は日常の中で、はっきりした強い感情を抱くことは意外に少ないものです。一方でアフェクトのような淡い気持ちは頻繁に感じます。そしてアフェクトこそが意思決定に大きな影響を与えるのです。 すべてのもの・こと・人にはアフェクトがあります。
私は大の犬好きなので、犬を見ると瞬間的にウキウキした気持ちになってしまいます。これが「ポジティブアフェクト」です。ジョギング中に散歩している犬とすれ違うとテンションが上がり、「もう少し長く走れそう」という気持ちになります。
カレーが大好きな人なら「夕飯はカレー」と聞くとポジティブな気持ちになるでしょう。でも、実はランチもカレーだったとしたら、好きでも少しはがっかりしますよね。これが「ネガティブアフェクト」です。 アフェクトは置かれた状況でも変化するのです。
「残業」という言葉に、ネガティブアフェクトを感じる人は少なくないはずです。ですが、尊敬する上司に「すまないけど、この仕事をお願いできないかな。これは君にしかできないと思うんだ」と言われたら、「自分を頼ってくれたんだ。じゃあ、がんばろう!」というポジティブアフェクトに変化することもあります。
逆にイヤミな上司なら「今日は早く帰れると思ったのに……」とネガティブアフェクトに転じるかもしれません。依頼主に対するアフェクトでも、物事の受け取り方が変わるのです。 また、アフェクトは伝染しやすいという特徴もあります。仕事がうまくいっていい気分で帰ってきても、家で家族がイライラしていたら、たちまち自分の気持ちも暗くなる……そんな経験がある人も多いはずです。
大して欲しいと思っていないものでも、いっしょにいた人が「これいいよね!」と言うと、自分までポジティブアフェクトを感じてしまうこともあります。
ちょっとしたアフェクトこそが仕事の効率を上げたり、商品の売れ行きを左右したり、人生を変える大きな決断を満足できるものにしたり、ときには世界を変えるほどの動きにもなっていくこともあります。
たとえば世界40カ国で行われた研究によると、Spotifyでポジティブな音楽が多く聴かれている時期に、世界各国の株価も上昇傾向があるという結果が出ています。音楽のポジティブアフェクトが、株価にまで影響している可能性もあるのです。
■その瞬間の印象で人は意思決定してしまう このイラストをパッと見て、どう感じましたか? *外部配信先ではイラストが表示されない場合があります。その場合は東洋経済オンラインのサイトでご覧ください。
テーマパークが好きな人なら、「みんな楽しそう」「家族で行きたいな」といったポジティブな気持ちになるでしょう。しかし、多くの人がひしめき合っているように見えるので「アトラクションは大行列だろうな。ちょっとめんどうくさい」と感じる人もいるかもしれません。
もしもこのイラストがこのテーマパークの宣伝ポスターだった場合、描かれる人の数を減らすことで「なんとなく嫌だ」を減らせるかもしれません。このように、アフェクトはビジネスや人々の行動に大きな影響を与えているのです。
アフェクトは、私たちのお金の使い方にも影響を与えます。現金で支払うときには「お金を使っちゃった」という小さな罪悪感がありますが、クレジットカードや電子マネーを使うときにはあまり気にならないものです。
また、多くの人はチャージされたお金よりも、たまったポイントで支払うほうが、ネガティブアフェクトを感じにくいものです。さらに「ポイントで、普段は買わないものを買おう」などと思いがちです。アフェクトは経済活動だけでなく、私たちの生活をより快適でハッピーにするのにも役立ちます。
「この人って感じがいいな」と思える人との仕事は楽しいものですよね。でも、それだけではありません。同じ仕事でもポジティブな気分でやったほうが効率よく終わらせられることが行動経済学の調査でも、わかっています。
今度は、簡単な計算問題です。 ボールペンとその替え芯が、合わせて120円で売られていました。ボールペンは替え芯より100円高い場合、替え芯はいくらですか? 直感で答えてみてください。 いかがですか? 「ボールペンが100円だから、替え芯は20円」と思った人が多いのではないでしょうか。 残念ながら、違います。問題文をもう一度よく読んでみてくださいね。
ボールペンは替え芯より100円高いのです。そう、正解は「ボールペンが110円、替え芯は10円」です。冷静になって考えれば、簡単な計算で正しい答えが出せるにもかかわらず、直感的に間違って答えてしまうのが「認知のクセ」の一つです。
ノーベル経済学賞を受賞したカーネマンは、人間の脳は情報処理するときに2つの思考モードを使い分けていると言いました。直感的で瞬間的な情報処理である「システム1」と、理論的で注意深い「システム2」です。
私たちはたいていの場合、自分で気づいているよりもシステム1を使って決断してしまいます。直感的ではあるものの、そこに過去の成功体験や自分の好みや願望などさまざまなものが含まれていますから、それでうまくいくことも多いものです。
一方で、ペンと替え芯の問題のような間違いが起きる場合もあります。このような無意識下で起こる非合理な情報処理が「認知のクセ」です。■人は環境に意思決定させられている では、あと1問。最後は「状況」です。 AとBの2つの円、どちらが大きいでしょう? Aは外側の円の大きさで比較してください。 正解は「どちらも同じ大きさ」です。でも多くの人は、Bのほうが大きく見えるはずです。
これはAの内側に小さな丸があることによる目の錯覚。「まったく同じ」と言われても、にわかには信じがたい気持ちになります。このような手法は、商品のパッケージなどによく利用されます。消費者に「こちらのほうがお得」「こちらのほうが信頼できそう」と思わせるのです。
これこそ、非合理な意思決定をしてしまう「状況」の一つで、Aが置かれた状況(小さな円が中にある)によって、Aの外側の円が小さく見えてしまったのです。 私たちは物事を決めるときに、自分で考え、自分で決断したと思っています。でも実際にはその場の状況や環境によって決めさせられていることが少なくありません。
いっしょに買い物に行った家族や友人が「これ気に入ったから買う!」と言ったとたん、自分も無性に欲しくなってしまうことはないでしょうか。逆に、欲しいものがあまりにも多く並んでいて選べず、買い物をやめてしまった経験もあるかもしれません。
欲しいと思っていないものを、どうして買ってしまうのか。あるいは欲しかったはずなのに、どうして何も買わないで終わってしまうのか。 非合理な意思決定をしてしまった理由をつくったのは、「友人」「選びきれないほどの商品」という「状況」にあるということに気づくことは、とても重要です。■アフェクトを意識するだけで人生はうまく回る
このような人間の非合理性に基づいて、人間の意思決定にかかわる仕組みを解き明かしていくのが行動経済学です。日本でも目にする多くのグローバル企業が、行動経済学を駆使して企業活動を行っていることを知っておいて損はありません。
なかでも特に重要なのは、アフェクトです。私たちのさまざまな決断はアフェクトの影響をとても強く受けています。 エモーション(強い感情)であれば、自分自身の感情に気づきやすいのですが、アフェクトは淡い感情なだけに、多くの人々は無自覚です。何かをあまり深く考えず、なんとなく決めてしまい、時間がたってから「なんでこれに決めちゃったんだろう」と後悔することはよくあるはずです。
でも、もしも私たちの意思決定が、アフェクトの影響を受けやすいことを知っていれば、「ちょっと待て。即決しちゃダメ。これはアフェクトに流されている。ちゃんと考えてから決めよう」と立ち止まることができるはずです。
消費行動だけでなく、ビジネスシーンや人間関係にもアフェクトは大きな影響を与えています。仕事に対してポジティブアフェクトを感じられると、創造性が高まり、仕事の効率が高まることはさまざまな研究からも明らかになっています。 打たれ強くもなるので、ストレスからの回復も早くなります。
さらにアフェクトは「あっという間に伝染する」という特徴があります。ポジティブアフェクトを発している人は、周囲の人にポジティブな影響を与える。そして、同時に、ネガティブアフェクトは、周囲の人にもネガティブな影響を与えてしまうのです。
自分のアフェクトをポジティブにキープすることを普段から意識すること。そうすると、それが周りの人にいい影響を与え、さらにそれがまた、自分のアフェクトを高めていくという好循環を生むのです。
行動経済学の理論を上手に使い、アフェクトを高めて、「幸せの仕組み化」をしていきましょう。あなたの今日が、明日が、人生が変わります
相良 奈美香 :行動経済学コンサルタント/行動経済学博士
最終更新:1/2(金) 10:00