令和の若者が集う理由 ファッション最前線は「原宿GAP前」から「ミヤシタパーク」へ #服のふしぎ
SNSを眺めていると、ミヤシタパーク(MIYASHITA PARK)を背景にした動画や写真をよく目にしませんか?
TikTokやInstagramでファッションコーデやダンス動画を投稿する人たちにとって、いまやミヤシタパーク(特に屋上エリア)は“発信の聖地”となっています。かつて「ファッションの最前線」と言えば神宮前交差点の“原宿GAP前”でしたが、いまやその勢いは見られません。原宿から渋谷へ——なぜここまで“発信の場所”が移り変わったのかを考えます。
投稿数の差で見るミヤシタパークの影響力
ミヤシタパークは屋上だけでなく、1Fのエスカレーター前でもファッション系インフルエンサーがコーディネート紹介で撮影する場所にもなっている(写真:西村尚己/アフロ)Instagramでは2020年から段階的に開業した「#宮下パーク」が13万件、TikTokでは1万4000件の投稿がある一方、「#GAP前」はInstagramで約100件、TikTokでは投稿ゼロ。GAP自体も1999年に旗艦店を出したものの、いまは2012年に開業した東急プラザ表参道原宿に変わっているため、“死語”となりつつあります。
そして「#東急プラザ表参道原宿」が2万2000件、TikTokでは227件、交差点対角線に2024年に開業した「#東急プラザ原宿」の投稿数はInstagramで1000件、TikTokで94件と、ミヤシタパークには及びません*。どちらも屋上スペースを備えた商業施設という共通点はあるものの、SNS上での存在感には大きな差があります。
- いずれの数値も2025年12月9日時点。関連ワードのうち最も投稿数が多いと推定されるハッシュタグを公式アプリで検索・抽出。
なぜミヤシタパークが人気なのか?
第一に挙げられるのは、駅からのアクセスの良さです。ファッション、ビューティー、飲食、ホテルなど、多様なテナントが揃っており、若者にとって利便性が高い点が魅力です。周囲には映画館やミュージッククラブ、カフェも多く、目的に応じて移動できる自由度の高さもポイントです。
企業側としてもミヤシタパークは魅力的です。新区画「Park in Park」が25年10月に開業し、59面のサイネージを新設して施設ジャックができるので、流動客以外にも第1弾のOasisのようにファンを呼び込むことができます。
一方、原宿エリアは観光地としての側面が強まり、外国人観光客が竹下通りを行き交い、裏原宿の活気もかつてほどではありません。高級ブランドは明治通りに出店を増やし、“ファッション好きの若者の聖地”という印象は薄れつつあります。古着なら下北沢、コスメなら新大久保へと、ニーズごとの分散も進んでいます。
屋上にはスターバックスもあり、最先端な気分を味わえるのも若年層から人気を集めている理由(写真:西村尚己/アフロ)とりわけ注目したいのが、ミヤシタパークの屋上(正式名称:渋谷区立宮下公園)です。かつて老朽化やホームレスの滞在問題が進んでいた宮下公園は、三井不動産の再開発によってスケート場やボルダリングウォール、多目的運動施設、さらに約1,000平方メートルの芝生ひろばが整備されました。現在では、開放感のある撮影スポットや、お金を使わずに時間をつぶせることで、若者が自然と集まる“たまり場”として機能しています。さらに、屋上では自主企画から企業イベントまで多彩な催しが行われており、「屋上に行けば何かがある」という期待感も醸成されています。
まとめ
かつてGAP前では、ストリートスナップのカメラマンや美容師、芸能・モデル事務所のスカウトがオシャレな若者や美男美女を“発掘”し、声をかけて道路脇で写真を撮る――そんな「選ばれし者の場所」がファッションの発信地でした。
しかし今は、SNSを通じて誰もが自己発信できる時代。「選ばれる」よりも「自ら表現する」ことが影響を持つようになり、発掘もSNSに代わりました。場所としての“使い勝手”が重視される時代において、ミヤシタパークの屋上はそのニーズと見事に一致していたのです。
とはいえ、課題もあります。学生からインフルエンサーまでが集まることで、マナーに欠けた撮影や混雑が目立ち、一般利用客の迷惑となる場面も少なくありません。加えて、「散歩」と称して若い女性を無断で撮影するような不適切な動画も出回っており、安心して利用できる空間であるべき公共の場として懸念も高まっています。
施設側としても、「令和カルチャーの象徴」としてある程度の自由を認めるのか、それとも「ホスピタリティ」を優先して一定のルールを設けるのか、判断が求められる局面に来ていると言えるでしょう。
- 訂正とお詫び:本記事初出時、「GAP前」の跡地に関して「東急プラザ原宿」と記載しておりましたが、正しくは「東急プラザ 表参道原宿」でした。該当箇所は訂正済みです。読者の皆さまならびに関係者の皆さまにご迷惑をおかけしましたことをお詫び申し上げます(2025年12月13日13:45修正)
ファッションジャーナリストを経て「WWDJAPAN.com」チーフプランナーに就任し、業界トップクラスの実績を築く。株式会社STEKKEYを設立し、「社会・企業・個人の課題をステキに解決する」ことを軸に、「news zero」や「note」とのパートナーシップ、東京ファッションウィーク史上初の4シーズン連続キービジュアル制作など、事業規模や業種にとらわれず100超の案件に携わる。行動心理学を応用した戦略・制作・デジタル開発まで横断できる点に定評がある。25年はAI開発も推進し、執筆記事のヤフトピ掲載率は約3割を記録中。仕事・出演依頼、問い合わせ:https://www.stekkey.com