ＮＹ市長選予備選、金融界に衝撃－富裕層増税訴えるマムダニ氏優勢

11月の米ニューヨーク（ＮＹ）市長選に向けた民主党予備選の投開票が24日行われ、民主社会主義を掲げるゾーラン・マムダニ州議会議員（33）が、アンドルー・クオモ前ＮＹ州知事を抑えて候補者に選出される見通しが強まり、衝撃を与えている。批判的な立場を取る人々でさえ、同氏の勢いを認めざるを得ない状況だ。

　　「熱い共産主義の夏が来た」とヘッジファンド運用者で資産家のダン・ローブ氏はＸ（旧ツイッター）に投稿した。

　　これは、11月の本選でマムダニ氏が当選すれば、富裕層増税や市内５区からの資産家流出につながりかねないとのエリート層の深い不安をにじませるコメントだ。

ＮＹ市長選の民主党予備選で党候補者に選出される見通しが強まったマムダニ氏に関するリポート

　　影の実力者としてニューヨークの政財界を長年つないできたキャシー・ワイルド氏は、マムダニ氏が若者には魅力的だとしつつも、同氏のイデオロギー的な手法は、「納税者や雇用主に恐怖を与えている」と指摘する。

　　だが、人種的・経済的に多様な同市の有権者の多くが、マムダニ氏を支持した。25日の演説で同氏は、「尊厳ある生活は、限られた幸運な人々だけのものではない」と改めて訴えた。「常に意見が一致するとは約束できないが、私は決してあなたから隠れたりしない」と述べた。

　　マムダニ氏の躍進を支えたのは、ポピュリスト的経済政策や進歩的文化観を動画にまとめて拡散を狙うソーシャルメディア戦略で、インスタグラムで2900万人余りのフォロワーを持つモデル兼俳優のエミリー・ラタコウスキー氏と共に動画に登場した。

　　このような巧みな情報発信と積極的な運動により、数万人規模のボランティアを動員。戸別訪問、街頭活動、ＳＮＳでの訴えを通じて、有権者に保育やバスの無償化や家賃凍結などの政策を訴えた。これらの施策は多くが富裕層への増税で賄われるとしている。

　　ただ、こうした増税案の実現にはホークル州知事の承認が必要で、同知事は反対の立場を表明している。また、マムダニ氏は700億ドル（約10兆円）規模の借り入れも構想しているが、実現の可能性は低い。

　　それでも、マンハッタンの金融界では厳しい見通しが広がる。ウォール街のヘッドハンター、マイケル・ネルソン氏は、年収100万ドル超の顧客の間で悲観的なムードが広がっていると述べ、「これで私たちの知っているニューヨーク市は終わる、というのが彼らの反応だ」と語った。

　　すでに、市内の不動産関連企業の株価は打撃を受けている。アパート向け融資を手がけるフラッグスター・ファイナンシャルの株価は25日に一時6.7％下落し、終値では５％安となった。

　　市のエリート層は民主党の古参メンバーで、今回の予備選の最終段階まで有力視されていたクオモ氏（67）を支持していた。出馬候補中最高齢の同氏は、地下鉄の治安対策や住宅問題など、ニューヨーク市が抱える課題に対処できる経験豊富な穏健派として売り込んでいた。

　　ブルームバーグ・ニュースの親会社ブルームバーグ・エル・ピーの創業者で過半数株主のマイケル・ブルームバーグ氏や、著名投資家ビル・アックマン氏、ローブ氏らもクオモ氏の選挙戦を支援。同氏の政治資金団体「Fix the City」は、予備選としては異例の2500万ドル近くを集めた。

　　しかし、クオモ氏を支援する広告の多くはマムダニ氏を否定する内容が中心で、クオモ氏自身の政策ビジョンは示されなかった。

　　セクハラ疑惑により知事を辞任した同氏は、クリントン元大統領など民主党主流派の支援も得ていた。一方、マムダニ氏はオカシオコルテス下院議員やサンダース上院議員といった進歩派の有力者から支持された。

　　元民主党支持者で現在はトランプ大統領の強力な支持者となっているアックマン氏は、マムダニ氏の政策がニューヨークを破綻させると強く批判。トランプ氏は25日、自身のＳＮＳ「トゥルース・ソーシャル」で、マムダニ氏を「共産主義の狂人」と呼び、共和党が同氏を民主党の象徴として批判する構えを示した。

　　ウォール街のベテラン弁護士リッチ・ファーリー氏は、富裕層の多くが11月の本選を「成否を分ける瞬間」と見ていると指摘。マムダニ氏が勝利すれば「簡単に移住できる人々は真剣にその選択肢を検討するだろう」と述べた。

　　超富裕層の献金者らは本選を前に、マムダニ氏に対抗すべきか、対抗する場合どうすべきかの判断を迫られる。クオモ氏は無所属での出馬の可能性もあると示唆しており、民主党の予備選以外で勝利可能な候補であることを支持者に納得させる必要がある。

　　また、汚職疑惑で予備選に出馬せず無所属候補として本選に臨む現職のアダムズ市長や共和党のカーティス・スリワ候補と争うことになる。