氷の洞窟で発見された太古の細菌株、現代の抗生物質の一部に耐性
ルーマニアの洞窟で採取された氷のなかから10種類の現代の抗生物質に耐性を持つ細菌株が見つかった/Helmut Jacob/Alamy Stock Photo
(CNN) ルーマニアのスカリショアラ洞窟の奥深くには、世界最大級の地下氷河が存在する。オリンピックプール約40面分に相当する巨大な氷の塊で、約1万3000年前に形成が始まったとされる。
この洞窟の氷に閉じ込められていた太古の微生物を研究している科学者らは、解凍して分析した細菌株が、尿路感染症や結核などの治療に使われる現代の抗生物質10種類に耐性を示したと報告した。
この細菌が人体に有害であるという証拠はないものの、何千年もの間眠っていた微生物が目覚めるという話は、SF小説や映画の筋書きのように聞こえるかもしれない。だが今回の研究は、現代の抗生物質が開発、あるいは医師によって処方されるよりもはるか以前から、自然環境の中で耐性が進化してきたケースがあることを示している。
「太古の細菌が現代の抗生物質に耐性を示すのは、抗生物質耐性が、数百万年にわたる微生物間の競争によって形成されてきた古代の進化的特徴だからだ」と、ルーマニア・アカデミー・ブカレスト生物学研究所の上級研究員で、科学誌「フロンティアズ・イン・マイクロバイオロジー」に掲載された研究の筆頭著者であるクリスティーナ・プルカレア氏は述べた。
細菌は数百万年にわたって互いに混ざり合う過程で、無関係な細菌種の間であっても、小さなDNA断片を交換することで有用な特性を共有することがある。こうした生存戦略が、結果的に天然化合物を起源とする特定の抗生物質の影響を受けない細菌株を生み出してきた。この現象は、極限環境に生息する微生物株でより一般的に見られると、研究は指摘している。
「現代の抗生物質は、耐性の拡散を加速させているかもしれないが、その分子メカニズム自体は、人類がこれらの薬を開発するはるか以前から自然界に存在していた」と、プルカレア氏は付け加えた。
研究者らは、今回の研究から得られた知見が、一般的な抗生物質では治療できない現代の「スーパーバグ(超多剤耐性菌)」との闘いに役立つ可能性があるとしている。
氷のコア
プルカレア氏によれば、新たに特定された細菌株「サイクロバクターSC65A.3」は、寒冷環境で繁殖し、人間に感染することはないという。
「この菌株は好冷菌であり、寒さを好み、人間の体を好む菌株ではない。サイクロバクター属の多くは、食品を含む氷や冷蔵環境で見つかることが多い」と同氏は言い添えた。
研究で用いられたサンプルは、「グレートホール」と呼ばれる洞窟内の区域から掘削された、長さ25メートルの円筒状の氷のコアから採取された。これには1万3000年分の凍結物質が含まれていたが、今回分析されたのは約5000年前の氷だった。
研究者らは、複数の細菌株を分離し、それぞれのゲノムを解析することで、低温環境での生存を可能にする遺伝子や、抗菌薬耐性に関連する遺伝子を特定した。
SC65A.3株の場合、細菌感染症の治療に日常的に使用されている28種類の抗生物質に曝露(ばくろ)したところ、トリメトプリム、クリンダマイシン、メトロニダゾールなど10種類に耐性を示すことが分かった。
地球温暖化が進み、氷河や氷の洞窟が融解するにつれ、何千年もの間閉じ込められていた微生物が放出される可能性があると、プルカレア氏は語った。「ほとんどは無害だが、抗生物質耐性や、現在の生態系に影響を与えかねない未知の生体分子を持つものもあるかもしれない」