アングル:トランプ関税で税率50%のブラジル、経済への打撃は限定的か

8月5日、ブラジルはトランプ米政権から間もなく課される相互関税の税率が50%と各国・地域別で最も高い水準だが、経済が大きな打撃を受けることはないとみられている。サントス港で4月撮影(2025年 ロイター/Amanda Perobelli)

[ブラジリア 5日 ロイター] - ブラジルはトランプ米政権から間もなく課される相互関税の税率が50%と各国・地域別で最も高い水準だが、経済が大きな打撃を受けることはないとみられている。広範な品目が関税の適用除外となっているほか、中国との間で強固な貿易関係を確立しているためだ。

トランプ関税の影響が小さいため、ブラジルのルラ大統領は多くの欧米諸国の指導者よりもトランプ氏に対して強い態度に出る余地が大きくなっている。ルラ氏はトランプ氏を「不要な皇帝」と呼び、相互関税をちらつかせるのは「脅し」だと反発。貿易協定について交渉に応じる用意があるとしながらも、トランプ氏が盟友であるブラジルのボルソナロ前大統領の刑事訴追に不満を表明したことについては、ブラジルの主権や司法の独立を脅かすとして一蹴した。

こうした両国関係の緊迫によって関税を巡る交渉は難航し、長期化する見通だが、ブラジル経済への影響は限られそうだ。

輸出に占める米国向けの割合はメキシコとカナダが約4分の3に上るのに対してブラジルは12%にとどまっている。一方、ブラジルは中国向けの輸出が過去10年間で倍増し、今では総輸出の28%に達している。

また先週発表されたトランプ氏の相互関税についての大統領令でブラジルは航空機、エネルギー、オレンジジュースなどが課税対象から除外された。ブラジル政府の試算によると、このため6日に発効する新関税の適用を受けるのは対米輸出全体の36%程度すぎない。対象となる輸出品は牛肉やコーヒーなどの商品(コモディティー)で、多少価格が下がっても他の市場への販路変更が可能だと専門家はみている。

ブラジルの金融大手XPのエコノミスト、ルイザ・ピネーゼ氏は「もともと関税の影響は限られると見込んでいたが、適用除外措置で影響の予想をさらに引き下げた」と述べた。トランプ関税による今年のブラジルの国内総生産(GDP)下押し予想は当初の半分の0.15%ポイントに修正した。

ゴールドマン・サックスも「顕著な適用除外措置」を踏まえてブラジルの経済成長予想を2.3%に据え置いた。影響を受ける業種に対する政府支援策が近日中に発表され、経済への打撃は一段と緩和されると見ている。

ブラジルのテベチ企画相は先週のイベントで、「ブラジルは確かに米国に依存しているが、同時にBRICS(中国、インド、ロシアなどの新興経済国)や欧州、メルコスール(南部共同市場)にも依存している」と発言。近年ブラジル経済をけん引してきた農業関連貿易の約半分はアジア向けで、米国向けは10%程度にすぎず、工業製品に関しては米国よりもアジアへの輸出が4倍多いと述べた。

<貿易の役割は縮小>

ブラジルは世界の主要経済国の中では貿易への依存度が低く、貿易の混乱による影響は限られる。世界銀行のデータによると、昨年のブラジルの輸出入の合計がGDPに占める比率は36%で、メキシコやパラグアイの半分以下、タイやマレーシアなど貿易依存度の高いアジア諸国のわずか4分の1だ。

パシフィック・インベストメント・マネジメント・カンパニー(PIMCO)の新興市場ポートフォリオマネージャー、チアゴ・カルロス氏は、ブラジルの輸出品の多くはコモディティーで、いずれ他の市場に振り向けることが容易だと指摘。さらに、短期的に国内では食品の供給が増えてインフレを抑える効果も見込めるとした。「インフレは低下傾向をたどる公算が大きい状況下、中銀が予想より早く金融緩和に乗り出す余地が生まれるかもしれない」と述べ、足下で15%の政策金利はかなり引き締め的で、成長の足かせになっているとの見方を示した。

ロイターが実施したアナリスト調査では、たとえ米国との貿易協定がなく、関税の適用除外措置がなかったとしても、ブラジルの2026年の経済成長率の見通しのコンセンサスは1.6─1.7%からほぼ変わらないと予想されている。

とはいえ、資産運用会社G5パートナーズのチーフエコノミスト、ルイス・オタビオ・レアル氏は、政府の支援策が適切に脆弱なセクターや雇用を守らなければ影響が広がる可能性があると警告。「適用が除外されたのは約700品目だが、ブラジルの対米輸出は約4000品目。つまり米国向けに製品を販売している多くの企業は適用除外から漏れる」と危惧を示した。

ブラジル中銀は4日、米国による関税が特定の業種に「重大な」影響を与える恐れがあるとしつつ、広範なマクロ経済への影響は不確かで、今後の交渉や市場のリスク認識によって左右されると説明した。

ブラジルの民間シンクタンク、ジェトゥリオ・バルガス財団(FGV)の研究者、フラヴィオ・アタリバ氏は、ブラジルは地域差が大きいため、トランプ関税の影響が地域によって異なると予想。特に北東部は生鮮果実、海産物、繊維、履物といった付加価値の低い労働集約型の製品の輸出に依存し、こうした製品がいずれも税率50%となることから、より大きな打撃を受けることになりそうだと指摘した。

私たちの行動規範:トムソン・ロイター「信頼の原則」, opens new tab

Reports on the macro beat, covering economic policy in Brasilia. Bernardo studied journalism at the Pontifical Catholic University of Minas Gerais before completing a specialization in Economics at Fundação Getulio Vargas (FGV) and an MBA in Economic-Financial Information and Capital Markets at Fundação Instituto de Administração (FIA) in Sao Paulo. He previously worked in Brasilia for Folha de S.Paulo, Agencia Estado and the Globo’s G1 website.

関連記事: