築74年“廃虚団地”に入居者殺到 「自ら改装」で価値アップ 逆転の発想で満室に

 福岡県北九州市にある築74年の団地です。数年前まではすべて空室で廃虚同然でしたが、今、オシャレなカフェがオープンするなど満室となる人気物件となっています。

人気名所から5分“廃虚団地”

 福岡県北九州市「門司港」。明治時代に開港、世界からの玄関口として栄え、異国情緒あふれる建物が並ぶ、九州屈指の観光名所。

 そんな歴史ある港町から車で5分。見えてきたのが…高台に建つ寂れた団地。年季の入った外壁は、至るところが黒ずみ、窓に取り付けられた物干し台は、さびついてしまっています。

 奥にもう1棟見える建物は、うっそうとした草に覆われ、まるで時が止まったかのよう。

地元の人「ほとんど廃虚で見るからにボロボロでしょ」

「人が住んでいるとは思えないですね。廃虚、廃屋」

 築74年の旧畑田団地。テニスコート12面分の敷地に、鉄筋コンクリート造りの4階建てとコンクリートブロック造りの2階建てが建ち並びます。

 戦後間もない1951年に福岡県住宅供給公社が建設。当時撮影された写真。子育て世帯が多く住み、団地にはいつも子どもたちの声が響いていました。ところが時代は流れ、2020年に最後の住人が退去。

 そんな無人となっていた団地が今、驚きの変貌を遂げています。

“廃虚団地”を手作り再生

 廃虚のような外観からは、全く想像できないオシャレなカフェが…。室内には、こだわりの雑貨や照明が飾られています。

 このカフェを営む、末満瑞穂さん(58)。普段は、長崎県内で看護師をしていますが、月に4回ほど、ここ地元でカフェを営業。来年には、看護師の仕事を辞めて、カフェの仕事に専念する予定だといいます。

「お茶もコーヒーも大好きで、自分がもうすぐ還暦になるので、雇われ人ももう限界に近い年齢がきた。その後はお客様と一緒にお茶を介して楽しくやっていけたらいいなっていうのがカフェを開いたきっかけですね」

 実は、このカフェ…業者に頼んで部屋を改装したのではなく、末満さんが自分自身で作業したものです。壁を塗り、床を張り替え、8カ月かけてコツコツと改装していき、今年5月にオープンしました。

 この場所でカフェをオープンする決め手となったのが…。

「最初入った時は本当にボロボロだと思ってビックリしたんですけど、家賃が1万円ですごく魅力的だった。1万円なら飛び乗るしかないと思いました」

 なんと団地の家賃は、月1万円という破格の安さ。その条件が入居者自身が部屋の改装をすることでした。この取り組みの仕掛け人が不動産業を営む吉浦隆紀さん(48)。

「“渋沢プロジェクト”という名前にして、渋沢栄一1枚の1万円だけで(部屋を)借りられるような形にしています。渋沢栄一が明治初期にいろいろな事業を立ち上げたということで、ここの団地からスタートして巣立ってほしいという思いも込めて、そういうプロジェクト名にしています」

 去年、団地を90万円で買い取り、再生するプロジェクトを立ち上げました。

「より古ければ古いほど魅力的に感じて、使いたいという人もいるだろうということで、再生しようと思いました」

 部屋を再生するのは入居者ですが、電気や水道、ガスなどの整備費用のほか、壁や床などの材料費、合わせて100万円ほどを不動産会社が負担。

 募集を開始してわずか3カ月で、全34室が満室になりました。

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