旧統一教会への恨み、なぜ安倍氏に…SNSでは政策評価も「もはや考える余裕ない」

安倍元首相の銃撃事件前日、山上被告が投函した手紙のコピー

令和4年7月の安倍晋三元首相銃撃事件で、殺人などの罪で起訴された山上徹也被告(45)の弁護側は、28日から奈良地裁で始まる裁判員裁判で、殺人罪の起訴内容を争わない方針だ。だが自ら「本来の敵ではない」としていた安倍氏になぜ銃口を向けたのか、旧統一教会(現・世界平和統一家庭連合)への積年の恨みを晴らすタイミングがなぜ犯行時だったのか、謎は残る。事件に至る経緯は裁判での大きな注目点の一つだ。

教団にとらわれるのは、人生の「障害」とも

「私はただただ統一教会が気に入らない、それだけですよ」

山上被告は2年9月、島根在住のフリージャーナリストのブログにこんな書き込みをしている。母親が教団へ巨額の献金をしたため一家が経済的に破綻し、家庭崩壊といえるような状況に至った恨みを、自身のツイッター(現X)などでも、たびたび表明していた。

同じブログへの投稿で教団への復讐(ふくしゅう)にとらわれることが、自分自身の人生にとって「障害になるのはその通り」としつつも、教団を破壊するには「最低でも自分の人生を捨てる覚悟がなければ不可能」とも書いた。

教団に傾倒した母親からの愛情の喪失、その延長線上にある家庭崩壊は事件の大きな背景を成しているとみられる。ただ教団への恨みがなぜ安倍氏に向けられたのかは、不可解な点が多い。

旧統一教会は1954(昭和29)年に文鮮明(ムンソンミョン)氏が韓国で創立、10年後の昭和39年に日本法人が設立された。政治家との関係が生まれたきっかけは43年につくられた教団系の政治団体「国際勝共連合」だ。左派運動の過激化という時代背景もあり、安倍晋三元首相の祖父・岸信介元首相も賛同した。その後、選挙協力などを通じて保守政治家との関係を深めていったとされる。

政治状況は冷静に考察

ただ被告は教団への個人的な感情とは別に、こうした政治状況については冷静に眺めていたふしがある。令和元年10月、自身のツイッターで、当時の安倍首相を含む閣僚らと教団とのつながりを伝えるネット記事を引用しつつ、「(政権を)統一教会と同視するのはさすがに非礼」と述べた。

安倍氏の政治手法をよく思わないような投稿もあるが、その安全保障政策は高く評価し、むしろ野党側に対しての批判が目立つ。

確かに3年9月、安倍氏が教団の友好団体にビデオメッセージを寄せたという事実はある。

《苦々しくは思っていましたが、安倍は本来の敵ではないのです》

4年7月の犯行直前、先のブログのフリージャーナリストに向けて投函(とうかん)した手紙で、被告は安倍氏をこう評した。

教団では2012年に創設者の文氏が死去すると、その息子らと現総裁の韓鶴子(ハンハクチャ)氏との対立が表面化した。被告は同じ手紙でこの点に触れ、文一族の誰かや韓氏を殺害しても教団全体への打撃にはならないという趣旨で「私の目的には沿わない」と言及している。

政治テロか否か

首相を退いてなお、高い人気と影響力を保持していた存在の大きさがゆえに、安倍氏を狙ったのか。それによって教団に打撃を与えることが「目的」だったなら、それは政治的動機に基づく「テロ」に他ならない。

また被告は「安倍の死がもたらす政治的意味、結果、最早それを考える余裕は私にはありません」とも手紙に記した。そこまで心理的に追い詰められた要因はどこにあったのか。今後の被告人質問などで、被告が何を語るのか注目される。(西山瑞穂)

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