《反中国の政治家が急死》「森林資源は徹底的に破壊」「中国企業が潤うだけ」ソロモン諸島の元州知事・スイダニ氏が“遺した言葉”(文春オンライン)|dメニューニュース
南太平洋地域の「中国支配」が拡大する最中、ソロモン諸島マライタ州元知事のダニエル・スイダニ氏が急死したことが10月21日に報じられた。スイダニ氏は、在職中に中国企業の投資を拒んだ後、親中派による政治工作で知事職を追われた。
その後、スイダニ氏は世界各地でソロモン諸島の窮状を訴える中で、2023年に来日し、 中国の脅威と日本への期待を語っていた 。
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政権と中国の思惑で知事を失職
福島 どうして今、ソロモン諸島マライタ州の知事だったスイダニさんが日本にいるのか、簡単に説明します。
2019年にソロモン諸島のマナセ・ソガバレ首相が率いる政権が、長年外交関係のあった台湾と断交し、中国と国交を樹立しました。そのことで、親中国派の政治家たちと、スイダニさんを始めとする親台湾派の政治家が対立する格好になった。そして2023年2月には、同国のマライタ州議会で不信任決議案が可決され、スイダニさんは州知事の立場を失うのですが、背後にはソロモン諸島の現政権による工作があったと見られています。
ソロモン諸島でかつて州知事を務めたスイダニ氏(中央)。中国支配による母国の窮乏を知らせるため来日していた(早川理恵子氏提供)州知事の立場を追われたスイダニさんは、さまざまな国に身を寄せながら、事実上の亡命生活を送ってきました。今回、ソロモン諸島の実情を日本の人々に知ってほしいという思いから来日されました。
スイダニさんに同行しているタリフィルさんは、もともとソロモン諸島の首相府のアドバイザーを務めていましたが、中国に屈する政治家ばかりのなかで、軍事力とカネに物を言わせる強引な「中国支配」に果敢に抗するスイダニさんのリーダーシップに心酔して、彼の政策アドバイザーに転身しました。
太平洋島嶼国の安全保障が専門の早川博士は、30年以上にわたり現地で援助をする案件に関わり続けていて、今回、スイダニさんたちを自腹で日本に招いたのも早川さんです。
では2023年2月に知事を失職することになった当時、一体何があったのか、その状況について、スイダニさんご本人に語ってもらいます。
スイダニ 私が初めてマライタ州知事に当選したのが2019年です。ちょうどソロモン諸島政府のソガ バレ政権が台湾から中国に外交転換をした年に当たります。私は任期中に3回、不信任決議案を出されていますが、いずれもマライタ州の人々が声を挙げたのではなく、背後に中国の影響があることは明らかでした。とくに2023年2月に3回目の不信任決議案が提出されたときには、民衆がデモを起こそうとすると、政府が監視艇や警察を派遣し、道路を遮断することで妨害してしまった。マライタ州議会の問題に中央政府がここまで介入して来るのは、まさに異常事態でした。
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中国企業の乱開発に反対
スイダニ 中国の関与をなぜ疑うかと言えば、私が中華系企業によるソロモン諸島の開発に強く反対してきたからです。ソロモン諸島は木材輸出のために過去40年にわたり森林伐採や開発を続けてきた歴史がありますが、2019年にソガバレ政権が中国に外交転換した途端に、続々と中華系マレーシアの企業が進出してきました。今までも、無計画な伐採を進めた結果、ソロモン諸島の森林資源は徹底的に破壊されてしまいました。しかも、中国企業が潤うだけで、ソロモン諸島には利益が入ってこない仕組みになっていた。こうした中国企業の進出のあり方に私たちは反対してきたのです。
中国による強引な支配は他にもあって、国民の同意を得ずに憲法を改正して選挙の日程を延期させたこともその一つです。その背景には(2023年)11月に行われる南太平洋諸国の競技大会「パシフィックゲームズ」が影響しています。今回で17回目を迎える大会ですが、中国の莫大な資金援助によって建設された競技場などで開催します。つまり中国肝煎りの大会を無事に終えてから選挙を行うという、中国に配慮した判断が下されたのです。
中国の支配力が強まるなかで、言論統制が進み、人々は自由に発言することに恐怖を感じています。現在のソロモン諸島の国民の90%が、台湾から中国への外交転換に反対していますし、中国寄りのソガバレ政権のもとでの生活に不満を持っています。
現在、私は「エグザイル」(亡命中)であると言われることもありますが、諸外国を巡っているのは、将来のソロモン諸島に資するさまざまな情報を得ることが目的です。ニューヨークにある国連の会議に参加して、ソロモン諸島の窮状を訴えたり、民主主義国家であるアメリカやカナダなどの状況を視察したりしています。
もちろん普通の生活は送れていません。とくに私の子どもたちは、ソロモン諸島で非常に危険な状態にあって、安心して学校に行くことすらできません。
〈 この続き では、ソロモン諸島の中国支配の実態と、日本に期待する役割を語っています〉
※本記事の全文(約9500字)は、月刊文藝春秋のウェブメディア「文藝春秋PLUS」に掲載されています( 日米激戦地 ガダルカナルで進む「中国支配」 )。この記事の元になったオンライン番組とあわせてご覧ください。
【オンライン番組】日米激戦地 ガダルカナルで進む「中国支配」 約76分