日鉄のUSスチール完全子会社化をトランプ氏承認 米政府には黄金株
山本精作 ワシントン=榊原謙 ニューヨーク=杉山歩
日本製鉄による米同業USスチールの買収計画で、日鉄は14日、両社のパートナーシップ(提携)についてトランプ米大統領の承認を取り付けたと発表した。日鉄によると、USスチールの経営の重要事項について拒否権がある黄金株(拒否権付き種類株式)を米政府に発行する一方、USスチールの普通株は日鉄が100%取得し、完全子会社とする。
日鉄は18日までに取引を完了させるつもりだ。計画の発表からおよそ1年半。株式の取得だけで約140億ドル(約2兆円)を費やす大型再編は、新旧の米大統領がともに反対に回る逆風をはねのけ、成立にこぎ着ける見通しとなった。
日鉄の発表に先立ち、トランプ氏は13日、今年1月に当時のバイデン大統領が出した買収禁止命令を変更。「国家安全保障上の脅威は条件を満たせば十分に軽減される」とし、日鉄とUSスチールが米政府との間で国家安全保障協定(NSA)を結ぶことを条件に、買収を容認できるようにした。日鉄は、バイデン氏の禁止命令を不服として米政府を訴えていた訴訟を近く取り下げる。
安保協定はすでに締結済みで、日鉄によると黄金株を含むUSスチールの企業統治や、米国での生産についての約束が盛り込まれた。USスチールの生産設備などへの投資額は2028年までに110億ドル(約1.6兆円)。その後の分も含めると140億ドルを投じる計画だ。
粗鋼生産量でかつて世界首位だったUSスチールは米国の象徴的企業の一つで、トランプ氏は「米国が支配する」と主張してきた。強い権限のある黄金株を握ることで、重要企業を外資系に売り渡したとの印象を薄める狙いが米政権にはあるとみられる。
一方の日鉄は、当初からめざしていた完全子会社化が認められたことで、経営の自由度と巨額投資に見合う採算性を確保できると踏んでいる。先端技術の提供や、生産能力の増強につながる投資を進めていく考え。
日鉄とUSスチールは「トランプ大統領の果断なリーダーシップと歴史的なパートナーシップへの力強い支援に感謝する」とのコメントを発表した。
日鉄は23年12月、経営不振で売りに出ていたUSスチールの買収計画を発表した。これに全米鉄鋼労働組合(USW)が反発。昨秋の大統領選を見据えてバイデン、トランプ両氏もそろって反対し、計画は宙に浮いた。トランプ氏が大統領就任後の今年4月、買収計画の再審査を政府機関に指示し、買収承認に向けた流れが強まっていた。
日本製鉄 本社は東京都千代田区。1901年に操業を始めた官営八幡製鉄所の流れをくむ新日本製鉄が住友金属工業と2012年に合併。19年に社名を日本製鉄とした。粗鋼生産量は24年時点で世界4位、日本1位。従業員は約11万人。
USスチール
USスチール 本社は米ペンシルベニア州ピッツバーグ。1901年に「鉄鋼王」アンドリュー・カーネギー氏らが設立し、米国の近代産業の発展を支えた。60年代まで粗鋼生産量で世界首位。2024年時点は世界29位、米国3位。従業員は2万人余り。
この記事を書いた人
- 山本精作
- 経済部|素材産業担当
- 専門・関心分野
- 人口問題、地域経済、エネルギー、農業、鉄道
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- アメリカ総局|米国経済担当
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- 米国経済、世界経済
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