手に負えないイスラエル右派政権、米国は制御できるか 「民衆が長期化手助け」と指摘も
トランプ米大統領がパレスチナ自治区ガザに関する和平案を発表し、イスラム原理主義組織ハマスとの交戦継続に固執してきたイスラエル・ネタニヤフ連立政権の対応が注目されている。極右勢力も加わり、「史上最も右寄り」とされる政権。取材した支持層の実像を紹介する。
9月中旬、ヨルダン川西岸ヘブロン近郊。検問所を越えると雰囲気が一変し、石造りの邸宅が並ぶ舗装道が広がった。ユダヤ人入植地のキリヤト・アルバだ。
入植地とは西岸に造られたユダヤ人専用の住宅地のことだ。イスラエルは第3次中東戦争(1967年)で西岸を占領し、多数派のパレスチナ人と衝突しながら入植地建設を強行してきた。国際社会は占領地の地位変更を禁じたジュネーブ条約違反だと批判する。
入植地の入り口では武装したイスラエル兵らがパレスチナ人の襲撃を警戒している。だが、内部はイスラエルの他の町村と変わらない。キリヤト・アルバも小規模ながら銀行や食堂、雑貨店などが軒を連ね、路線バスが走っていた。
内部には、対パレスチナ武装テロも辞さない過激思想で非合法扱いされた故メイヤ・カハネの名を冠した公園もあった。ガザの再占領や西岸の併合を訴え、米和平案の受諾に消極的な極右の国家治安相ベングビールは、カハネに心酔していることで知られる。
入植地は「過激ユダヤ教徒の聖地」
入植地で会った建設作業員の男性(41)は「ベングビールは立派な政治家。法による統治の秩序を打ち立てた」とたたえた。
目の前の小高い丘にはパレスチナ人が住んでおり、ここで出会った数人の男性はみな銃を所持していた。筆者を案内したイスラエルの元記者の男性(49)は「ここは過激なユダヤ教徒の聖地だ」と評した。
イスラエル政界では90年代から右傾化が顕著になった。93年にパレスチナ暫定自治宣言(オスロ合意)を結んだ首相ラビンが95年に過激なユダヤ教徒に暗殺され、和平機運は失速。翌96年には右派政党リクードのネタニヤフが首相に初就任した。極右は2022年に首相に返り咲いたネタニヤフの元で連立に参加した。交戦開始後の過激な言動で欧州の複数の国がベングビールの入国を拒否した。
イスラエルのネタニヤフ連立政権に抗議して行進するデモ隊=9月20日、エルサレム(佐藤貴生撮影)主要野党もパレスチナ国家承認を支持せず
9月20日夜。エルサレムでネタニヤフ政権への抗議デモに参加していた教員の男性(58)は、「ガザで戦闘を続ける理由がない。(ハマスとの)停戦に合意して人質を取り戻すべきだ」と話した。
ただ、その先の政策はどうあるべきかと聞いたら、「それは政治が考えることだ」と述べただけだった。
国際社会で増えたパレスチナ国家承認はイスラエルの民衆には不人気で、主要野党も支持していない。イスラエルの政治評論家、オリ・ゴールドバーグ(49)はこうした点をふまえ、次のように言った。「人質についてはデモ隊が求めるように戦闘を終結させて取り戻すか、それとも政権が行ってきたように戦闘を通じて奪還を図るかの違いはある。しかし、デモ参加者もパレスチナ国家承認やハマスとの共存には反対で、長期的には野党とネタニヤフの政策には大して違いはない。だから野党は支持が増えず、間接的に彼を支援している」
民衆も野党も手に負えないネタニヤフ政権。トランプ米大統領という「外圧」は、ネタニヤフ政権を制御できるのだろうか。=敬称略
(エルサレム 佐藤貴生)