ソフトバンクGのAI構想、資金調達に減速感-米関税政策も重荷に
ソフトバンクグループが、米国で人工知能(AI)インフラに1000億ドル(約15兆円)を投じる計画に減速感が漂い始めた。トランプ大統領の関税政策を背景に米景気の不透明性が増す中、資金調達協議が失速していると複数の関係者が明らかにした。
事情に詳しい関係者らによると、年初に始まったみずほ銀行やJPモルガン、アポロ・グローバル・マネジメントやブルックフィールド・アセット・マネジメントなどとの予備的協議は、足踏みが続いているという。不安定な経済やAIサービスの低価格化で、金融機関がデータセンターの評価を見直しているため、交渉が滞っているとしている。
ソフトバンクGの孫正義社長と米オープンAI共同創業者のサム・アルトマン氏は1月にスターゲートプロジェクトを発表。直ちに1000億ドル(約15兆円)を投じ、今後4年でデータセンターなどに少なくとも5000億ドルを費やすと表明した。ただ、いまだに資金調達のスキームは策定されておらず、銀行やプライベートエクイティ、資産運用会社との本格的な協議にも至っていない。
その理由の一つが、トランプ氏の強硬な関税政策だ。貸し手や出資者がリスクの高い投資を敬遠し、資本コストが上昇。また世界的な景気後退がデータセンター需要を縮小させるとの不安や、中国のAIスタートアップDeepSeek(ディープシーク)の台頭も、プロジェクトに水を差している。
ソフトバンクGの広報担当者からのコメントは現時点で得られていない。オープンAIの広報担当者は、コメントを控えた。
一方、スターゲートの資金調達を主導するソフトバンクGでは、ビジョン・ファンドのスタートアップ投資部門内に同プロジェクトに従事する20-30人のチームを編成していると関係者らは話す。チームには、米州マネージング・パートナーで自動化やエンタープライズソフトウエア投資をリードしてきたヴィカス・パレク氏も在籍しているという。
スターゲートには、米オラクルやUAEの政府系投資ファンドムバダラ系のMGXも名を連ねる。ソフトバンクGの役割は銀行や年金基金に個別プロジェクトごとにアプローチすることで、同社自身は各プロジェクトに10-20%程度出資し、残りをメザニン債やシニアローンなどで賄う計画だ。
投資家はデータセンターの建設が過剰になることへの懸念を深めている。米マイクロソフトが世界各地のデータセンター計画を縮小し始めたと報道された。投資コストの増大も頭の痛い問題だ。TDカウエンのアナリスト、マイケル・エリアス氏らは、トランプ氏の関税政策でサーバーラックや冷却装置、半導体などの価格が上昇し、データセンターの建設コストは5-15%引き上がるだろうと述べる。
一方、オープンAI側で続く混乱も不確実性を高める原因の一つになっている。アルトマン氏はオープンAIを営利企業に再編しようとしたが、元社員や学者、共同創業者のイーロン・マスク氏らの反発で断念した。ソフトバンクGはオープンAIへの300億ドルを追加出資する意向を示したが、主要出資者であるマイクロソフトは同社の組織再編に慎重姿勢を崩していない。
それでもソフトバンクGが関与する前から始まっていたスターゲートの一部の計画は前進している。アルトマン氏は、テキサス州アビリーンで初となるデータセンターを訪れたことを明かし、オラクルが開発中のこの施設は「世界最大のAI訓練施設」になると議会で証言した。発電から半導体に至るまで網羅するサプライチェーンの構築を支援するとも語った。
孫氏にとって市場の混乱や投資家の懸念は取るに足らない問題で、AI需要の爆発的成長と高リターンの可能性を確信していると、関係者らは話す。
コムジェスト・アセット・マネジメントのポートフォリオ・マネジャー、リチャード・ケイ氏は、ソフトバンクGがスターゲートに出資分の500億ドルを投じた場合、5-6年でコスト回収した後に15-20%のリターンが期待されると分析する。同時に、それにはある程度のデータセンター利用率など、複数の条件を必要とするとも話す。
ケイ氏は「今後2四半期で、全ての資金がどこに使われるかを正確に言えれば素晴らしいことだが、それは今のところ誰にもわからない。おそらく孫氏自身もまだ決めていないだろう」と話す。
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