米国はドル安を模索していない、各国との関税交渉で-関係者
米当局者は世界各国と貿易交渉を行っているが、通貨政策に関する約束を合意内容に盛り込もうとはしていないと、事情に詳しい関係者が明らかにした。
トランプ政権がドル安を志向し、貿易交渉を利用してその目標を達成しようとする恐れがあるとの懸念から、為替市場では警戒感が広がっている。14日には米国と韓国の政府高官が通貨政策を協議したとの報道で、韓国ウォンが対ドルで一時2%近く急伸、円も上昇した。今月初めには、台湾ドルが数十年ぶりの大幅高となったこともあった。
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関係者によると、トランプ政権の経済チームでこれらの問題への対応を担っているのはベッセント財務長官ただ1人で、貿易相手国・地域との通貨政策の協議を他の政権高官に委ねることはしていない。こうした問題はベッセント氏が出席する場でのみ交渉されると、関係者は続けた。
米財務省の報道官はコメントを控えた。
この一報が伝わると、円はドルに対する上げを縮小。1ドル=147円台前半まで売られる場面もあった。
トランプ大統領の就任以来、ドルは主要通貨に対しておよそ8%下落。トランプ氏は、とりわけアジアの国々が米国に対して貿易上の優位性を得るために意図的に通貨安を誘導していると長年にわたって批判してきた。
トランプ政権は世界の大半の国・地域に関税を課したが、現在は複数の国と交渉を進める中で、関税率引き下げの可能性をちらつかせている。
アメリベット・セキュリティーズの米金利トレーディング・戦略責任者、グレゴリー・ファラネロ氏は「市場が不安定になっているのは間違いない」と指摘。「現在の極端なボラティリティーは貿易を巡る不確実性が原因だ」と語った。
ベッセント氏は、米国が意図的に為替レートを引き下げようとしているとの懸念を払拭しようとしてきた。強いドル政策を引き続き「維持」していると2月以降繰り返し表明し、トランプ氏が4月2日に上乗せ関税を発表して米国資産が一時売られた後も、その姿勢に変わりはない。
「最優先の投資先」
先月にワシントンで開催された国際通貨基金(IMF)の会合でも、ベッセント氏はその点を強調。ミルケン研究所グローバルコンファレンスでの講演では、米国は世界資本にとって「最優先の投資先」だと述べていた。
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先週末に中国との貿易協議に参加した後は、中国側と「通貨に関する議論はなかった」と語った。
関係者によれば、米国は各国との貿易協議でこうした立場に沿った話をしている。トランプ政権は貿易相手に対し、自国通貨を不当に引き下げるような操作を行わないよう求めているが、今後の各国とのディールでそうした方針を盛り込む計画はないという。関係者は機微な内容について話しているとして匿名を条件に語った。
ベッセント氏が、強いドルは強い経済を反映するとの考えを公に繰り返している一方で、トランプ氏やその側近の一部の過去の発言からは、別のアプローチの可能性が浮き彫りとなる。
トランプ氏がホワイトハウスの大統領経済諮問委員会(CEA)委員長に起用したスティーブン・ミラン氏は、政権発足前の昨年11月のリポートで、ドルが世界の準備通貨であることに伴う「負担」を軽減するための方策について、アイデアを提示していた。
こうした状況も一因となり、たとえ通貨政策が正式にどう位置づけられたとしても、貿易赤字縮小や米製造業復活といったトランプ氏の政策目標を踏まえれば、ドル安志向の論理展開になると、市場関係者は結論づけていると考えられる。
カロバール・キャピタル(シカゴ)のハリス・クルシッド最高投資責任者(CIO)は「米国が貿易協議に通貨問題を正式に含めるかどうかにかかわらず、既に市場ではドル安が暗黙の了解であるかのように取引が行われている」と述べた。
14日のアジアの外為市場での相場変動は、最近の動きの一部に過ぎない。台湾ドルが先に1988年以来の大幅上昇となった動きの全容はまだ明らかになっていないものの、台湾当局が米国との貿易合意に向けて通貨高を容認するとの思惑が一因となったと、市場関係者の間ではみられている。
米財務省の外国為替報告書では台湾、日本、中国がすでに為替慣行に関する「監視リスト」に含まれており、昨年11月には韓国も追加された経緯がある。
加藤勝信財務相は13日の閣議後会見で、来週カナダで開かれる主要7カ国(G7)財務相・中央銀行総裁会議で、ベッセント氏と為替について協議することを検討していると発言。加藤財務相はG7会合に出席する方向で調整しているとした上で、会合の場を活用して二国間会談を行い、「引き続き為替についての協議を進めることも追求していきたい」と話した。
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原題:US Is Not Pushing for Weaker Dollar in Tariff Talks, Person Says(抜粋)