外国人の集団万引横行、ユニクロが示した「断固たる姿勢」 全ての損害に賠償請求表明

外国人グループなどによる万引事件が相次ぐ状況を受け、衣料品チェーン「ユニクロ」などを展開するファーストリテイリングは今月、特定した万引犯に対し、全ての損害を民事手続きで賠償請求する方針を明らかにした。万引は全国のドラッグストアなどでも多発し、年間被害額は推定で3千億円超。被害企業が賠償請求するケースはまだ少ないが、今回の動きを受け、業界団体は「賠償請求する企業は増えていく」との見方を示す。

「指定された商品を盗めば報酬がもらえた」「生活費のためだった」

大阪市内のユニクロ店舗で衣料品を万引したなどとして、大阪府警が昨年逮捕したベトナム国籍の30~40代の女3人は、こう供述したという。

3人はベトナム国内の人物からの指示で日本とベトナムを行き来し、1回の渡航で報酬として17万~21万円を得ていた。万引行為は大阪や兵庫、東京など4都府県のユニクロで37件確認され、被害総額は計約1230万円。「3カ月近く生活できるお金が手に入った」とも供述したという。

ベトナム人による集団万引を巡っては、ユニクロ店舗を中心に8都府県で総額約2千万円の被害を確認したとして昨年2月、福岡県警が男女4人を逮捕したと発表するなど、各地で摘発が相次ぐ。警察庁のまとめによると、近年は全国で万引で摘発された外国人のうち5~7割ほどをベトナム人が占める。

裁判も辞さず

こうした状況を受け、全国でユニクロ約790店舗などを展開するファーストリテイリングは今月9日、万引行為への対策を強化すると公表。警察への被害届や刑事告訴だけではなく、盗まれた商品や関連する全ての損害について、窃盗犯側に裁判を含む民事手続きで請求すると明らかにした。同社は「安心して買い物ができる店舗環境を整えるため、断固たる姿勢で臨む」としている。

同社を含む約160社・団体が加盟し、万引対策に取り組むNPO法人「全国万引犯罪防止機構」(東京)によると、全国の万引被害額は推計で年間約3460億円だが、万引被害で賠償を請求する企業は少ない。機構の実態調査によると、「賠償請求をしている」と答えた企業は令和6年調査でわずか10・9%(29社)。平成22年の調査でも8・8%(28社)とほぼ変わっていない。

同機構の土門敬佳(たかよし)事務局長は「膨大な被害にも関わらず、小売業者も含め、万引被害に対する社会的な問題意識はまだまだ低い」と指摘。賠償請求が少ない理由について「請求手続きが周知されていなかったり、手間であると考える企業が多いことも一因」とする。

「今後増える」

ファーストリテイリングの広報担当者は、万引の被害件数や被害額、万引被害を含む商品の「不明ロス率」は公表できないとしつつ、数年前からスタッフの再教育や防犯カメラ設置などの対策を進め、「状況はずいぶん改善された」と説明。それでも続く万引被害に「撲滅に向けたさらなるステップ」として、民事手続きの強化に踏み切ったと明かす。

機構の土門事務局長は万引が多発する現状から、同社のような賠償請求が「今後増えてくると思われる」とし、機構としても「賠償請求の相談やサポートをしていきたい」としている。

「分単位の人件費まで請求」賠償請求20年続ける書店チェーン

万引犯への賠償請求を長年実施してきたのが、東海地方を中心に書店約65店舗などを展開する「三洋堂ホールディングス」(名古屋市)だ。各店には賠償請求を告知するポスターを掲示。請求の導入により万引被害を含む商品の「不明ロス」は大幅に減ったという。

同社によると、万引犯に対する賠償請求は20年前から実施。請求対象は回収後に廃棄される被害品の実費に加え、警察での事件処理などに要した人件費も含まれる。同社の担当者は「確保した万引犯を警察に連れて行っても、従業員は数時間拘束される。そのコストも分単位で万引犯に請求している」と強調する。

同社のまとめでは、令和6年度の万引に関する賠償請求は87件、計約621万円。回収できたのは75件、約574万円で、このうち人件費部分は計82万円余りだ。同社は毎年、回収した人件費については「万引対策に広く役立ててほしい」として、同社も加盟する全国万引犯罪防止機構に寄贈しているという。

賠償請求を導入する前は、商品の不明ロス率が1・1%前後だったが、導入から20年を経てロス率は書籍で0・5%台となるなど、抑止効果が出ているという。同社では各店長にロス対策に関する同機構の民間資格「ロス対策士」を取得させ、「店長になれば賠償請求のノウハウを身につけなければならないようにしている」(担当者)という。

■不明ロス 

小売業で棚卸しをする際、実際の在庫数が帳簿上の在庫数と一致せず、原因が特定できない損失部分。令和6年に全国万引犯罪防止機構が実施した実態調査によると、回答企業は不明ロスの原因(推定)として、万引41・4%、管理の誤り38・0%、従業員の窃盗2・7%などを挙げている。

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