日米同盟は解消したい、でも日本の基地は使いたい…米シンクタンクがまとめた「対中戦争回避策」の落とし穴(プレジデントオンライン)

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/sunrising4725(株式会社プレジデント社)

米シンクタンクが9月に発表した提言が、日本でも議論を呼んでいる。日米同盟を解消して核の傘も終了する一方、三沢や横須賀などの基地は使い続けるという内容だ。トランプ政権と人的な接点のある団体による構想だが、米政府の公式方針ではなく、米国内の専門家からも疑問が出ている。政治学者の伊藤隆太さんが日米同盟解消論の問題点を読み解く――。

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■同盟を終えても「日本の基地」は残したい 日本を守る同盟は終わらせても、日本の基地は使い続けたい。そんな主張を展開する、米シンクタンク「ディフェンス・プライオリティーズ」の提言が国内メディアでも注目を集めた。いわゆる日米同盟解消論だ。 この提言は米国でも報じられた。米軍関係者向けの新聞「スターズ・アンド・ストライプス」は9月23日、トランプ政権関係者と人的接点のあるシンクタンクによる太平洋での米軍大幅縮小案として紹介した。ディフェンス・プライオリティーズの元寄稿者には政権の情報・国防関連ポストに就いた人物もいる。ただし、米国の主要メディア全体で大きな論争になっているわけではなく、政権が採用した方針でもない。

 問題は、日本を守る約束が縮むのに、日本が基地を提供し続ける場合の条件だ。有事に米軍が基地を使えば、基地や周辺の街が攻撃されるおそれがある。日本には何の危険が残り、米国からどんな支援を得られるのか。本稿では、米国での反応も踏まえ、提言の実効性と日本が基地使用を認める条件を考える。


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■基地を貸せば日本も「標的」になる 日本が基地の提供に応じるうえで、この危険に誰が対処するかは大きな意味を持つ。米軍が日本の港への航路を守ろうとし、その拠点や周辺が攻撃された場合を考えたい。 現在は、日本防衛と基地利用が同じ条約の中に位置づけられている。外務省が公開する日米安全保障条約の第5条は、日本の施政下の領域でいずれか一方が武力攻撃を受けた場合、各国が自国の憲法上の規定と手続に従って共通の危険に対処すると定める。第6条は、日本の安全と極東の平和・安全に寄与するため、米軍による施設・区域の使用を認める。 日米同盟を解消したあとも、日本が米軍に基地を使わせるとしたら、最大の問題は、その基地が攻撃されたときに誰が守るのかということだ。米軍は自分たちの部隊や施設を守るだろう。しかし、基地の周辺で暮らす住民や、近隣の港湾施設まで守るとは限らない。 提言は、日本への戦闘支援を続けることや、基地の防御力を高める必要性には言及している。だが、具体的にどこまで米国が防衛責任を負うのか、攻撃を受けた場合にどんな支援を提供するのかは明確にしていない。 米国が日本を守る義務を縮小する一方で、日本には基地の提供を求める。それなら、基地が攻撃された場合の防衛責任や住民の安全について、具体的な約束が必要になる。そうした条件を詰めないままでは、日本は基地を貸すことで生じる危険を判断できない。■日本は基地使用を無条件に認めていない 現在の日米同盟でも、日本は米軍への支援を無条件に認めているわけではない。むしろ支援する内容を主体的に選んでいる。 米政府監査院(GAO)の2021年3月の報告書によれば、日本は日米の部隊と民間機が使う三沢基地の滑走路補修を支援した。一方、嘉手納基地の新格納庫への資金提供は地元の騒音への懸念から断ったという。 また、1960年の交換公文によれば、安保条約第5条に基づく場合を除き、日本からの戦闘作戦のための基地使用は事前協議の対象になる。 つまり、施設整備への資金提供と、米軍による基地の作戦使用は別の問題だが、日本はいずれについても一定の判断権を持っている。日米同盟を解消し、新たな取り決めを結ぶのであれば、日本を守るという米国の約束が縮小される分、基地の使用をどこまで認めるのか、その条件を改めて交渉する必要がある。 では、日本は基地の提供を条件に、米国からどこまで防衛支援を引き出せるのだろうか。

 提言は、米国による安全の保証が弱まれば、米軍の受け入れを望まなくなる国が出る可能性を認めており、フィリピンや韓国を例に挙げている。その場合は、リースなどの一時的な取り決めや、同盟終了後の交渉・購入によって拠点を確保する道があるという。グアムなど第二列島線の拠点を、より重視する選択肢も示している。


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■同盟解消後も基地を貸すための3条件 もっとも、日米同盟が解消されても、日本が米国との協力をすべて断つ必要はない。武器や情報の提供を受け、日本に向かう商船を守るために米軍と協力することには、日本側にも利益がある。問題は、どこまで基地の使用を認めるかだ。 日本が同盟解消後も米軍に基地を使わせるなら、米国から取りつけるべき約束が少なくとも三つあると、私は考える。 第一に、基地が攻撃を受けた場合、誰が防空を担うのか。第二に、基地周辺の住民や民間の港湾をどこまで守るのか。第三に、米軍が基地を作戦に使う際、日本が同意する手続きをどう定めるのか。 現在の日米同盟には、米軍が日本の基地から戦闘作戦に出る場合、日本政府と事前に協議する仕組みがある。同盟を解消して新たな取り決めを結ぶなら、同様の歯止めが必要になる。 しかし、ここに提言の根本的な矛盾がある。米国が基地や住民を守る責任を広く引き受ければ、中国との戦争に巻き込まれる危険を減らすという提言の狙いと両立しにくい。逆に、防衛支援を絞れば、日本には危険の大きい作戦への基地使用を認めない理由が生まれる。 つまり、米国が日本を守る責任を減らしながら、これまでと同じように日本の基地を使えるとは限らないのである。 今回の提言は米政府の公式方針ではない。だが、日本としても、米軍の撤収に伴って何を引き受けるのか、基地の使用をどんな条件で認めるのかを、今から考えておく必要がある。----------伊藤 隆太(いとう・りゅうた)政治学者群馬県立女子大学・東京都市大学非常勤講師。博士(法学)。慶應義塾大学法学部政治学科卒業。同大学大学院法学研究科後期博士課程修了。慶應義塾大学・広島大学助教、日本国際問題研究所研究員等を経て今に至る。Co-Chairs of the IPSA Research Committees (RC12)、APSA Committee of Best International Security Article等を歴任。単著論文はInternational Affairs誌に‘Hybrid Balancing as Classical Realist Statecraft’ (2022)、‘Hubris Balancing’ (2023)、International Relations誌に‘A Neoclassical Realist Model of Overconfidence and the Japan–Soviet Neutrality Pact in 1941’ (2023)、‘Outrage Balancing’ (2026)、単著研究書は『進化政治学と国際政治理論』(芙蓉書房出版、2020)、『進化政治学と戦争』(芙蓉書房出版、2021)、『進化政治学と平和』(芙蓉書房出版、2022)、編著研究書に『インド太平洋をめぐる国際関係』(芙蓉書房出版、2024)等がある。

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■日本の基地を貸さなくても米国は困らないのか そもそも米国は、アジアでの軍事的な任務そのものを減らそうとしている。したがって、現在と同じ規模の基地網や防衛能力を日本周辺で維持する必要もなくなる。日本の基地が便利だからといって、日本が求める条件を米国がすべて受け入れるとは限らない。 ただし、日本の基地を使えなくなった場合、ほかの拠点から作戦海域へ向かう時間や、補給にかかる費用がどれだけ増えるのか。提言は代替策を挙げているものの、具体的な比較は示していない。 もし代替による費用や支障が小さければ、日本が基地の提供を交渉材料にしても、大きな譲歩は引き出しにくい。逆に、日本の基地を失うことが米軍の活動に大きな支障を及ぼすなら、米国にも日本の条件を受け入れる理由が生まれる。 つまり、日本がどこまで防衛支援を求められるかは、米国にとって日本の基地がどれほど必要なのかにも左右されるのである。■2035年までに日本は米軍の穴を埋められるのか 提言は、日本の防衛上の自立を促す目安として2035年を挙げている。しかし、日本がそれまでに米軍の任務を引き継げるとは限らない。これには準備期間がいる。 米軍が担ってきた役割を引き継ぐには、装備の購入だけでは足りない。情報収集や指揮、補給、整備を担う人員を育て、弾薬や燃料を補充しながら任務を続けられる体制を整える必要がある。核の傘が終了するなら、核兵器による威嚇への備えも検討しなければならない。 ところが、カバナ氏は、同盟国の反応に左右されず、予告した撤収日程を守るべきだとしている。米国にとっては負担と戦争に巻き込まれる危険を減らすための撤収でも、これでは日本には防衛能力が整わないまま米軍が去る危険が残る。 重要なのは、撤収時期を日本の準備状況と結びつけることだ。装備の納入だけでなく、人員の訓練や継続的な任務遂行能力を確認し、準備が遅れた場合に米軍の削減を延期するのかも協議しなければならない。

 2035年はあくまで提言が示した目安であって、日本の準備完了を保証する期限ではない。米国が減らす防衛上の責任を、日本がいつ、どこまで引き受けられるのか。この問題を解決しないまま、同盟の解消を進めることはできない。


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■米国民の62%が基地維持を支持しているが… それでも、日本が中国に従属すれば米国にも不利益がある。そこで、日本の能力向上を促しながら関与を段階的に減らし、紛争時の戦闘支援や武器・情報提供を残すとしている。 もちろん、こうした主張には米国内にも異論がある。同紙が取材したミッチェル航空宇宙研究所のJ・マイケル・ダーム研究員は、同盟の解消は東アジアの米国の安全保障体制を解体し、日韓の核武装を促しかねないと指摘。同盟を解消された国が、その後も米軍に基地を貸すのかと疑問を呈した。 米シカゴ国際問題評議会の2024年の調査では、在日米軍基地の長期維持に賛成する米国民は62%。一方、2026年7月調査で台湾侵攻時の米軍投入を支持した人は38%だった。 設問も調査年も異なるため単純比較はできないが、米国では同盟や基地の維持を支持することと、中国との直接戦争に米軍を投入することは別の判断になっている。今回の提言は、こうした米国の安全保障をめぐる意識の一つの方向性を、さらに徹底させた構想といえるだろう。■三沢と横須賀は「商業港を守る足場」 それなら、グアムなどの拠点に加えて日本の基地を使い続けようとする理由は何か。提言が想定するのは、日本や韓国の商業港へのアクセスを守る役割だ。潜水艦などによる封鎖に備えるには、港へ通じる海域で活動できる拠点が役立つ。 提言は、日本の北部や東部の基地を使い続ける方法として、交渉か、管理費の支払いを挙げる。具体的には三沢や横須賀などを示し、部隊を交代で展開させ、情報収集、補給、対潜水艦活動などを支える構想である。常駐部隊を減らしつつ、日本の施設を必要に応じて使える関係を目指すとしている。 日本側にも利点はある。武器や情報を得られ、商船の安全を支える米軍の協力も期待できる。常駐部隊が減れば、基地を抱える地域の負担が軽くなる可能性もある。米国には、日本などとの貿易を守る足場が残る。日本企業の輸出入に関わる任務なら、双方が協力する理由は重なる。

 しかし、商船の通航を守る任務も、妨害する側との対立を伴い得る。米軍が基地から出動し、封鎖に対処する段階になれば、相手がその活動を止めるために基地を攻撃する可能性も考えなければならない。平時に施設を貸す利益に加えて、有事に使わせる危険が判断に入ってくる。

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