トランプ米政権、国別の一律関税発動-国際貿易再編の新たな節目

 トランプ米政権が貿易相手国・地域別に課す一律関税が、米東部時間7日午前0時1分(日本時間同日午後1時1分)に発動された。

  各国・地域への高関税の脅しと方針転換を繰り返した数カ月の混乱を経て、トランプ大統領が推進する国際貿易再編の動きに新たな節目が訪れる。

  トランプ大統領は7月31日、各国・地域別の新たな一律関税率の適用を8月7日に開始する大統領令に署名した。その後、関税徴収を変更する準備期間が、米国土安全保障省の税関・国境取締局(CBP)に必要だった。

  ブルームバーグ・エコノミクス(BE)の推計によれば、今回の関税措置により米国の平均関税率は昨年の2.3%から15.2%に大きく上昇し、第2次大戦中以降で最も高くなる。

  厳しい交渉を経て、日本と欧州連合(EU)、韓国は、自動車のような主要輸出品を含め15%の関税を受け入れた。それ以外の諸国には、最低10%からはるかに高い水準まで、一方的に関税率が割り当てられた。

  日本からの輸入品に米国が一律に賦課する関税率は15%で、自動車や鉄鋼などセクター別関税が課されていない品目が対象だが、日米間の解釈のずれが土壇場で表面化した。

  米国の官報では、EUは既存の関税率15%未満と15%以上の品目の税率が書き分けられているが、日本は「15%」と記載されているに過ぎない。

関連記事:土壇場で日米間の解釈の差が表面化、上乗せの可能性-対日15%関税発動

  一部諸国の土壇場での交渉も不調に終わった。 スイスのケラーズッター大統領は、提示された39%の関税率引き下げを実現できないまま、ワシントンを6日に後にした。インドに対しては、ロシア産原油の購入を理由に国別の関税率を25%から50%に引き上げ、21日以内に実施する大統領令にトランプ大統領が署名した。

  3大貿易相手国であるメキシコ、カナダ、中国との関税交渉は別枠で継続している。トランプ氏は、医薬品や半導体など戦略的に重要な産業分野の関税導入も近く発表するとしており、輸入する半導体・同チップに100%の関税を課す方針を6日に表明した。

関連記事:トランプ氏、半導体への100%関税賦課を表明-米に生産移転なら除外

  今後数カ月は、米経済に関税制度が劇的な変化をもたらすというトランプ大統領の主張と、それに異を唱える反対派の予測のどちらが現実になるか試されるだろう。

  ジョージタウン大学マクドナー・ビジネススクールのブラッド・ジェンセン教授によれば、関税収入と雇用の増加を同時に実現することは難しい。

  国内製造業が上向けば、輸入が減り、関税収入は得られなくなるはずであり、「両方が成り立つことはあり得ない」と分析する。

  関税引き上げで貿易赤字が削減され、製造業が米国に回帰するというトランプ氏の主張に対し、インフレが手に負えなくなり店頭で品不足の危険もあると反対派は批判する。

  これまでのところ、そうしたリスクは顕在化していないが、最近の経済指標では、一律関税の発動に伴い困難な事態が待ち受ける兆候が見て取れる。

  7月の雇用統計では、就業者数の伸びが新型コロナ禍以降で最も大きく下向き改定された。個人消費が抑制され、貿易政策の変更に企業が対応を迫られる中で、今年前半の米経済成長は減速した。

  企業がこれまでコストの多くの部分を吸収したことで、物価は大きく上昇せず、失業率も引き続き低い。しかし一部の専門家は、消費者と企業が最終的に負担を強いられると考えている。

  米政府の元貿易交渉担当者で、アジア・ソサイエティ政策研究所のウェンディ・カトラー副所長は「より厳しい時期が近づく兆しが見える。多くの企業が関税発動前に在庫を積み増した」と指摘。長期的に企業が利益の減少に耐えるとは考えにくく、「物価上昇はほぼ不可避」との見解を明らかにした。

関連記事:米労働市場はこの3カ月で激変、雇用者数は月平均3.5万人しか増えず

原題:Trump’s Tariffs Take Effect in Fresh Test for Global Economy(抜粋)

関連記事: