ウクライナがアメリカからの弾道ミサイル早期警戒情報を伝達されなくなった?:否定する見解の追記あり(JSF)

ロッキード・マーティン社より弾道ミサイル早期警戒衛星SBIRSの概念図(Notional)

 10月13日、ウクライナのゼレンスキー大統領は「パートナー(米国)からの弾道ミサイル早期警戒情報が伝達されなくなった」とSNSで投稿しました。これはアメリカ軍の弾道ミサイル早期警戒用の赤外線熱源探知衛星からの早期警戒情報が、ウクライナに伝達されなくなったことを意味しています。

ゼレンスキー大統領の報告

「キーウに対する特に卑劣な、民間インフラを直撃した5発の弾道ミサイル攻撃もありました。残念ながら、この攻撃に関する早期警戒情報は、パートナー(米国)から一切受け取っていません。」

「ロシアによる弾道ミサイル発射に関する情報は人命を救う助けとなるものであり、これは極めて重要な課題です。弾道ミサイルに関する早期警戒こそが、まさに人々の命を救うことにつながるのです。」

出典:ゼレンスキー大統領 2026/10/13(火) ※一部抜粋和訳

 ロシア軍の短距離弾道ミサイル「イスカンデルM」などは500キロメートルを飛ぶのに5分程度しか掛かりません。発射直後に警報を出さなければ間に合いません。ウクライナ軍の長距離レーダーで探知してから警報を出しても間に合わないのです。弾道ミサイル発射時の膨大な噴射炎の熱源を宇宙空間から赤外線センサーで探知できる、アメリカ軍の早期警戒衛星の情報が無ければ、発射から着弾までの時間が短い短距離弾道ミサイルの空襲警報は出せません。

 ウクライナはこれまでアメリカ軍から弾道ミサイル早期警戒情報を受け取っていたことになります。そしてアメリカのトランプ大統領はこの情報を伝達しないことで、ウクライナのゼレンスキー大統領を脅迫しています。弾道ミサイルに対する空襲が全く出せなくなれば、ウクライナ市民の犠牲者は確実に増えるでしょう。そもそも早期警戒情報が無ければ、パトリオット防空システムによる弾道ミサイルの迎撃自体が難しくなります。

 ゼレンスキー大統領はパートナーと称してアメリカとは名指ししていませんが、ほぼ名指ししたのと同然です。そしてウクライナがこれまでアメリカから弾道ミサイル早期警戒情報を受け取っていたことを公言したのは、おそらくこれが初となります。ほぼ公然の秘密でしたが、今まで秘密にしておかなければならなかったことを、表に出さざるを得なくなったのです。

エネルギー停戦に合意したという嘘

「アメリカ大統領がエネルギー関連施設への攻撃停止を呼びかけてから2日間、ウクライナはロシアの石油精製所やエネルギー部門全般に対する攻撃を行っていません。しかし、ロシアは米大統領の呼びかけに耳を貸しませんでした。この間、ロシアは我々のエネルギー施設や重要インフラを攻撃し、ウクライナへの攻撃を控えるつもりは毛頭ないという極めて明確な姿勢を示しました。この2日間だけでも、国内の19の地域が攻撃を受けています。」

「我々の立場に変わりはありません。ウクライナは緊張緩和に向けた相互的な措置を講じる準備ができており、緊張緩和を実現するためにはロシアへの効果的な圧力が必要です。戦争は、侵略者が戦争を長引かせることはできないと悟ったときに終わるものです。」

出典:ゼレンスキー大統領 2026/10/13(火) ※一部抜粋和訳

 アメリカのトランプ大統領の和平仲介は、侵略者ロシアには強く出ず、被害者ウクライナにばかり強く出ています。これではやるべきことがあべこべではないでしょうか? そしてトランプ大統領が「ロシアとウクライナが合意した」と言い張ったエネルギー停戦は、そのような合意など何も無かったことがはっきりしています。

ディーゼル燃料価格の推移

On-Highway Diesel Fuel Prices (dollars per gallon)

  • 公道走行用ディーゼル燃料価格(1ガロンあたりのドル)

UA attacks on refineries begin at scale

  • 2025年11月初旬:ウクライナによるロシア製油所への大規模攻撃の開始

Trump attacks Iran

  • 2026年2月28日:アメリカとイスラエルがイラン攻撃を開始

※UAは国際規格においてウクライナ(Ukraine)に割り当てられている2文字の国名コード。3文字ではUKR。

※ウクライナによるロシア製油所への攻撃は以前からも何例かはあったが、集中的に大規模な攻撃を仕掛け始めたのは2025年11月初旬以降になる。

 ディーゼル燃料価格の高騰はウクライナに責任は無く、アメリカのトランプ米大統領のイラン攻撃が原因であることは明白です。しかしトランプ大統領は中間選挙に向けて自身の判断ミスから有権者の目を逸らそうと、ウクライナによるロシア製油所への攻撃のせいにしようと出鱈目な決め付けの言い掛かりを繰り返しています。

追記:シビハ外務大臣による否定

"Мабуть, ви запитуєте, чи отримуємо ми розвідувальні дані від американської сторони. Так, ми продовжуємо цю співпрацю", – сказав Сибіга.

「アメリカ側から情報提供を受けているのか、疑問に思われているかもしれません。その通り、私たちはこの協力を継続しています」とシビハ氏は述べた。

Він також підтвердив, що 12 жовтня, під час нічного нападу Росії, сигнал повітряної тривоги було подано із затримкою.

同氏はまた、10月12日のロシアによる夜間攻撃の際、空襲警報の発令に遅れが​​生じたことも認めた。

"Але це пов’язано з особливим типом озброєння, яке використовувала російська сторона", – пояснив Сибіга.

「しかし、これはロシア側が使用した兵器の特性によるものです」とシビハ氏は説明した。

出典:ЄВРОПЕЙСЬКА ПРАВДА (13 жовтня 2026)

 空襲警報の遅れが「ロシア軍の使用した兵器の特性が原因」だとすると、可能性として考えられるのは弾道ミサイルをごく短射程で使用した場合です。例えば使用された兵器がS-400の48N6地対空ミサイルの対地攻撃転用の準弾道飛行モードだった場合、射程200kmで撃った場合は着弾まで僅か2分、射程100kmまで接近して撃っていたら着弾まで1分です。情報伝達の過程のロスで、早期警戒衛星の弾道ミサイル発射熱源の早期警戒情報を用いてすら、空襲警報を出すことが間に合わないおそれがあります。

追記:トランプ大統領による否定

  • 記者:「ウクライナとの情報共有は中止したのですか?」
  • トランプ:「いいえ、中止していません。我々は彼らを支援しています。」

追記:ゼレンスキー大統領は再び警告は無かったと発表

「ロシアによるキーウへの弾道ミサイル攻撃。今回もまた、パートナー国からの事前の警告はありませんでした。主な標的はエネルギーインフラ、具体的にはCHPP-4(第4熱電併給所)でした。残念ながら、同施設は被弾しました。住宅も被害を受け、現在、救助隊が火災の消火活動を行っています。私たちのシステムがこれらのミサイルを検知したのは、すでにキーウへ迫る直前のことでした。CHPP-4は、キーウの主要なエネルギー施設の一つです。」

「我々の情報によれば、ロシアはさらなる弾道ミサイルの発射を準備しています。事実が示すのは、ロシアがアメリカ大統領の発言に何ら縛られていないと考えているということです。ウクライナはエネルギー関連の停戦を支持していましたが、ロシアはまたしても発電所や国民の命を標的にしています。」

「そして、これはまったくもって不当なことです。ロシアが我々のエネルギーインフラを破壊している一方で、ウクライナは弾道ミサイル発射に関する早期警報情報すら受け取っていないのです。世界がこの事態に対して沈黙しないことが重要です。そして、アメリカが現実に何が起きているのか、そしてこの戦争が継続している責任が誰にあるのかを正しく認識することも重要です。」

「今夜も明日も、どうかご安全にお過ごしください。我々は防空体制を強化するため、対弾道ミサイル用の迎撃ミサイルの補充に取り組んでいます。」

出典:ゼレンスキー大統領 2026/10/14(水) ※和訳

  • CHPP-4 : ТЕЦ-4 : 第4熱電併給所(通称:ダルニツャ火力発電所)
  • CHPP : Combined Heat and Power Plant
  • ТЕЦ : Теплоелектроцентраль ※ウクライナ語
  • 熱電併給所 : 火力発電所の一種で暖房用の湯も送ることができる。

※通常の火力発電所の略語は英語:TPP、宇語:ТЕСとなる。

※ゼレンスキー大統領の投稿日時は日本時間では10月14日だが、ウクライナ時間では10月13日の日付が変わる直前。

追記:ウクライナ空軍司令部は警告は無かったと発表

Близько 22.40, 13 жовтня, ворог завдав удару по столиці України балістичними ракетами (кількість та тип уточнюється).

「10月13日22時40分頃、敵はウクライナの首都を弾道ミサイルで攻撃しました(ミサイルの数と種類は現在調査中)。」

Ситуація схожа із вчорашньою - інформації від партнерів щодо пусків з території противника не надходило. Причини встановлюються.

「状況は昨日と同様で、敵地からのミサイル発射に関する情報はパートナー国からは一切ありませんでした。原因は現在調査中です。」

Противник підступно бʼє балістикою по мирному населенню, не виключено повторні атаки. Будьте пильні!

敵は卑劣にも民間人を弾道ミサイルで攻撃しており、再攻撃の可能性も否定できません。警戒を怠らないでください!

出典:ウクライナ空軍司令部 2026/10/14(水) ※和訳

  • ウクライナ時間10月13日22時40分は日本時間10月14日4時40分。
  • 投稿日時は日本時間10月14日だがウクライナ時間10月13日の日付が変わる直前。

 宇ゼレンスキー大統領およびウクライナ空軍司令部の見解(早期警戒情報を受け取っていない)と、宇シビハ外相および米トランプ大統領の見解(情報共有はそのまま)が異なるという、異例の事態となっています。

軍事/生き物ライター

弾道ミサイル防衛、極超音速兵器、無人兵器(ドローン)、ロシア-ウクライナ戦争など、ニュースによく出る最新の軍事的なテーマに付いて兵器を中心に解説を行っています。

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