明日の株式相場に向けて=「半導体大荒れ」でも見えてきた勝ち筋
現状でさまざまな見方が交錯しているとはいえ、これまでの AI・ 半導体関連物色のテーマ性自体に懐疑的なムードが醸成されているとはいえない。生成AIの進化は想定以上にピッチが速く、依然として現在進行形でAI革命の途上にあるという事実を疑う余地はないのだ。むしろ、AIが本物であるがゆえのデメリット、つまり人間の仕事を低コストで代替し、米ビッグテックなどによる人員削減の嵐を巻き起こしているという現実、その諸刃の剣の部分がクローズアップされているような環境下にある。しかし、株式市場はバックミラーを覗いて進む方向を決めているわけではなく、次に来るコーナーでどちらにハンドルを切るか、それに先回りして今の株価動向に反映されるようなところがある。
前方にヘアピンカーブがあるかどうかはともかく、投資マネーの潮流に足もとで変化が生じているのは感じ取れる。前日引け後に好決算を発表したソフトバンクグループ<9984>が象徴的だ。同社の25年4~9月期最終利益がほぼ3倍化し同期間の過去最高更新となり、12月末を基準日とする株式4分割も併せて発表するなど材料てんこ盛り状態にもかかわらず、きょうは売り気配スタートという衝撃の出足となった。保有するエヌビディア<NVDA>の株式を10月にすべて売却したことや、米オープンAIへの投資で株式追加取得分に関し評価差益を先んじて計上するという技を駆使した決算であり、ともすれば手の内のジョーカーを切ってしまったようなイメージで、俗に言う材料出尽くし売りを浴びる格好となってしまった。ソフトバンクGにとってここから先は、良くも悪くもエヌビディアではなくオープンAIと一蓮托生のような関係性が意識されることになり、一概には言えないものの、不安定感が高まった印象を与えている部分はあるかもしれない。
前日の米国株市場で、ソフトバンクGによる全株売却を嫌気してエヌビディアが大きく値を下げたのは分かるが、ソフトバンクGの株価も共倒れのような状況となり、大方の市場関係者の予想をまたしても覆す状況となった。更にその余波で東京エレクトロン<8035>など日経平均寄与度の高い銘柄も道連れに半導体関連の一角が大荒れとなった。プライム市場の値下がり率トップがSUMCO<3436>で、その次に大きく下げたのがKOKUSAI ELECTRIC<6525>、その次が日本マイクロニクス<6871>である。なお、SUMCOは一時ストップ安、コクサイエレはストップ安のまま売り物を残した。いずれも決算絡みではあるが、半導体セクターの二極化を強く示唆するものとなった。
だが光明といえるのは、それでも日経平均株価は頑強な値動きで、後場は尻上がりに水準を切り上げ結局この日の高値ゾーンで引けたことだ。TOPIXは朝方から上値指向を鮮明とし、後場は日経平均とは裏腹に伸び悩む時間帯はあったものの、10月末の史上最高値を更新して着地した。プライム市場の個別株全般に目を向けても、値上がり銘柄数が前引け時点で84%、大引けでも78%の銘柄が上昇している。“AI・半導体関連の動き次第”といった相場からは、良い意味で大分趣きが変わってきたといってもよさそうだ。
個別株では引き続き中小型株の中からテーマ買い対象として有力なものを探っていく。例えば、好決算を発表して最高値圏をまい進するソニーグループ<6758>の系列子会社で、SMN<6185>に値ごろ感がある。ビッグデータ処理・AI・金融工学を強みとしたマーケティングテクノロジーを展開するアドテク企業として見直されそうだ。また、AIデータセンター関連では指月電機製作所<6994>、平河ヒューテック<5821>のほか、ここ複数回取り上げてきた正興電機製作所<6653>などをマークしたい。また、高市首相が掲げる成長戦略の一角であるGX関連では、バイオマス燃料に展開する太平洋興発<8835>が面白い。
あすのスケジュールでは、10月の企業物価指数、週間の対外・対内証券売買契約がいずれも朝方取引開始前に発表されるほか、前場取引時間中に5年国債の入札が行われる。主要企業の決算発表ではINPEX<1605>、楽天グループ<4755>、キオクシアホールディングス<285A>、三越伊勢丹ホールディングス<3099>、ニトリホールディングス<9843>などにマーケットの関心が高い。海外では7~9月期英実質国内総生産(GDP)速報値、9月のユーロ圏鉱工業生産指数、週間の米エネルギー省・石油在庫統計などが発表されるほか、米30年国債の入札が行われる。海外主要企業の決算発表ではテンセント、ウォルト・ディズニー<DIS>、アプライド・マテリアルズ<AMAT>などが予定されている。(銀)