Adobeそっくり「ArtCraft」の動画編集ツールを試す AIで挙動を再現した“クローンソフト”はアリなのか

小寺信良の「プロフェッショナル×DX」

 編集機能としては、ソースモニターに素材クリップを表示させ、そこでIN点OUT点を設定、InsertかOverwriteでタイムラインに追記するという、一般的な編集スタイルである。タイムライン上のトリム編集も可能だが、クリップの端をつまんでドラッグしている最中は、音声波形表示も一緒に縮んでしまうので、音声波形を頼りにトリミングできない。そもそもトリム中にクリップ表示が縮むという、その動作そのものが間違っている。細かいところの動作検証ができていないようだ。

 タイトルの機能はまだそれほど多くのパターンがあるわけではなく、基本的なものだけである。このあたりはデザインに著作権があるのか、そのものずばりは再現されていないようだ。とはいえ、デザインプリセットを選択して文字を入れ替え、動きをつけるといった程度のことはできる。

タイトル作成機能もある

 音声処理に関する課題としては、ステレオ集音されたクリップに対して、Lchだけを生かしてセンターへ定位させるといった作業が難しいことが挙げられる。やはりAIで開発が進められている「Palmier Pro」ではこの処理ができなかった。一方FilmCraftには「Audio Track Mixer」というパネルがあり、ここでチャンネルの抽出やステレオ、モノの切り替えができる。

「Audio Track Mixer」で音声トラックのチャンネル処理も可能

 オーディオトラックの編集機能としては、ラウドネス処理や自動でミックスレベルを調整するダッキングといった機能が使える。バージョン1.0に満たないソフトで、ここまでの機能が実装できているのは驚きだ。

ダッキング機能も実装済み

 タイトルのところで音量を上げたあと、再び喋りだすところではダッキングが機能しなかったが、タイムラインツールのペンツールを使ってトラック内にキーフレームを作り、レベルカーブを描くことで手動調整した。

ペンツールでオーディオレベルカーブを描ける

 カラー調整機能も一通り備えており、LUTの読み込みにも対応する。波形モニター表示も種類がそろっており、全体のカラー処理には不自由しない。マスク機能はまだないので、エリアに分けてのグレーディングには対応しない。

カラー調整に必要な波形モニターも充実

 字幕機能も搭載している。ただ音声の自動書き起こしといった機能はなく、字幕トラックを追加して、そこに手動でテキストが打ち込めるといった実装になっている。

字幕挿入機能はある

 エージェンティックAIは、Computer Useといったスキルを使えば、ローカルのソフトウェアを操作できるようになっている。ただMCPサーバを使った操作の方が高速に実行できる。

 FilmCraftも、MCPサーバを使ってコントロールできる。macOS用には別途CLIが配布されており、これをセットアップすればMCPサーバとして利用できる。

 今回は「Codex」を使って操作してみた。まず手動で行ったカラー調整を一括リセットしてみたが、一括動作には対応できないようで、Computer Useによりクリップ1つ1つに対してリセットするという方法で実行された。

 続いて全体をシネマトーンにするというコマンドを投げてみたところ、これもクリップ1つ1つに対して個別に実行された。もともとLookとして「Warm Film」というトーンを持っており、それを使いつつ他のパラメーターで微調整するという方法だった。

カラー補正もAIで対応できる

 FilmCraftは、クリップに施されたエフェクトなどの変更点をコピーし、それを他のクリップにペーストするという機能もある。それを使えば早かったと思うが、AIはまめに1個1個のクリップに対して同じ動作を繰り返すという方法を選んだようだ。AIにはめんどくさいという概念がない。

ペーストするパラメーターを選択できる

 自動文字起こしは現在のFilmCraftに機能がないのだが、AIに指示するとどうなるのか試してみた。するとAIはローカルで文字起こししたのち、それを字幕トラックに貼り付けるという動作となった。この部分はMCPで動作できるようで、Computer Useは使われず、あっという間に完了した。

ローカルに音声ファイルのみを書き出し、そこから文字起こしを実行

 文字挿入のタイミングも正確で、「あー」とか「えー」というフィラーワードは自動的に文字起こしから省略されている。FilmCraftにない機能は、エージェンティックAIを使ってカバーできるので、いろいろトライできそうだ。

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 ArtCraftが公開している数多くのソフトウェアは、それぞれ元になったソフトウェアがある。ソフトウェアの仕様と挙動をAIに解析させ、それと同じ動作になるようAIがソースコードを自動生成するという方法論で制作されている。ただ開発者はもともと自分でソースが書ける開発者なので、単純なバイブコーディングで作られているわけではないと主張している。

 プログラムも著作物であり、著作権法で保護されるが、それはデッドコピーの禁止であったり、ソースコードの無断利用という点で機能する。しかし挙動をまねて別のソースコードで同じものを作るということが著作権的にどうなのかは、正直よく分からない。例えば絵画であれば、違う画材でトレースしたとしても複製権の侵害にあたることは考えられるが、プログラムの場合にも同じことがいえるのか。

 UIに関しては、かなりPremiereに似せて作られているのは、見て分かる。ただこの画面UIを特許や著作権で保護するのは難しい。例えば左がソースモニター、右がプログラムモニターという配置は、ノンリニア編集ツールが登場する以前から、ポストプロダクションのビデオ編集室の設計ガイドラインとして規定されていたものであり、Premiereはそれに倣ったものであると考えられる。

 つまり映像編集の世界では、ユーザーがいろんな機材を支障なく使えるように、極力インタフェースを同じにするという努力が行われてきた。実際多くの編集ソフトのUIも、大なり小なりPremiereと似ている。すでにPremiereが使える人は、他の編集ソフトもほぼ問題なく使えるだろう。

 それを踏まえて、Premiereとそっくりのツールが存在することに、どのような意義があるのかを考えてみたい。

 すでにPremiereが使える人はFilmCraftも使えるわけだが、Premiereを習得した人はすでにPremiereを所有していると考えられるので、それはそのままPremiereを使えばいいんじゃないか、ということになる。Premiereをまねる以上、Premiere以上の機能になることはないように思う。FilmCraftは現在無料で利用できるが、将来的には分からない。商業版として有料ツールになるかもしれないが、そこに価格競争力があるのかも問題になるだろう。

 UIの特許侵害ということでAdobeが争った例は、少ない。2000年に当時の「Macromedia Flash」に対し、UIの一部が特許を侵害しているということで訴えている。これは2002年に侵害が認められたが、同年逆に米Macromediaが「Illustrator」とPremiereに特許侵害の疑いがあるとして反訴した。これはのちに和解となったが、結果的に2005年にMacromediaはAdobeに買収された。

 細かい部分のUIの特許は存在するのだろうが、画面全体の構成に関しては、特許を取得していないか、すでに特許が切れているのかもしれない。

 ただ今後、このUIが「著作物」であると認められる可能性もある。米国のギターブランド「Fender」は、同社「ストラトキャスター」のコピーモデルに対して、著作権侵害として販売停止を求めているのをご存じだろうか。なにを今更、という話ではあるが、これは2025年にデュッセルドルフ地方裁判所で、ストラトキャスターのボディー形状が著作物であると認められた裁判結果を受けたものだ。

 PremiereのUIもあるいはどこかの地方裁判所で著作物と認定されれば、似たようなUIの利用停止が求められるかもしれない。

 もう1つ、Premiereの財産は、膨大な数のマニュアル、解説書、チュートリアルが存在することだ。初心者でも学習できる手段が多く存在する。一方でFilmCraftのようにAIでどんどん開発が進むソフトウェアの場合は、そもそもマニュアルのようなドキュメントの方が間に合っていない。これはある意味、ソフトウェアを似せることで、初学者の教育コストをフリーライドしているともいえる。

 いずれにしても、似たようなソフトが別ソースにより制作されてしまう企業は、Adobeにとどまらなくなるだろう。こうした動きが広がれば、遠からず何らかの大掛かりな知財訴訟が起きるかもしれない。

 また既存のソフトメーカーは、新機能や新UIに対して、これまで以上に特許で固めることになるだろう。AIで開発はスピードアップするが、特許認可でリリースが止まるということも起こり得る。

 消費者は、高級ソフトと似たようなものがこれからは無料で、といった単純な話ではなくなる可能性もあることを、覚悟しておく必要がある。

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