ろうそくの炎のゆらめきで時間を科学的に計測する方法
ろうそくの炎は可能な限りゆらめいたりちらついたりしないように開発されていますが、複数のろうそくを束ねて炎をまとめると、重力と炎の直径に依存して自然に振動するようになります。この振動を利用して1秒を計測する試みを、ハードウェアエンジニアのTim氏が公開しています。
Candle Flame Oscillations as a Clock – Tim's Blog
https://cpldcpu.com/2025/08/13/candle-flame-oscillations-as-a-clock/ 複数本のろうそくを着火し、それぞれの炎を接近させると、炎が互いにリズムを揃えて振動する同期現象が起こります。さらにろうそくの間隔を徐々に狭くすると、ある特定の間隔を境に炎の振動が変化することが知られています。この現象について、2016年に山梨大学の岡本佳子さんらの研究チームが研究し、その成果を以下の論文で発表しています。Synchronization in flickering of three-coupled candle flames | Scientific Reports
https://www.nature.com/articles/srep36145 ろうそくの炎がどんな感じでちらつくのかは、以下のムービーを見るとよくわかります。炎の高さが小刻みに変わったりくっついたり離れたりすることで、炎の明るさが変化します。Candle Triplet Oscillation - YouTube
以下の左側は、時間経過に伴う炎の明るさの変化を記録したグラフ。縦軸が明るさの強度で、横軸が時間です。これを見ると、炎のちらつきはかなり規則正しい周期を見せていることがわかります。画像右側は輝度信号のパワースペクトル密度を表わしたもので、振動、すなわちちらつきの周期が約9.9Hzで安定していることが示されました。
この炎のちらつきは燃料源の大きさ、すなわちろうそくの直径と地球の重力によって決まることが明らかになっています。つまり、決まった直径のろうそくを静かな場所に置いておけば、炎のちらつきは安定し、そこから常に同じ約9.9Hzの周期信号が得られるはずです。
Tim氏は、3mmの有線パッケージのフォトトランジスタを使って、炎の振動を電気信号に変換する仕組みを考案しました。フォトトランジスタは内部ゲインを持つため、追加の増幅なしで十分な電流を供給できます。検出抵抗を介して定電圧源に接続し、オシロスコープで観測したところ、出力信号は非常に安定しており、約9.9Hzの振動が示されたとのこと。
また、静電容量式で炎を検知する方法もある、とTims氏。高温の炎とその燃焼生成物にはある程度のイオン化分子が含まれており、周囲の空気とは異なる誘電特性を持つため、静電容量の変化として観測できます。実験では、CH32V003マイクロコントローラーを使用し 、炎の中に吊るしたワイヤーとろうそくの周りに巻いたアース線との間の静電容量を検出しています。
この方法で得られた信号は、光学的な信号よりもノイズが多いものの、振動の検出には十分利用可能だったそうです。
そこで、Tim氏はこの静電容量式で得られたノイズの多い信号を、32回の測定を平均化することでノイズを低減。そして、無限インパルス応答(IIR)フィルターを用いて信号のベースラインを抽出し、それを取り除くことで高周波成分のみを分離しました。
以下のグラフで、左側は32回の測定を平均化した生データです。中央は、そこからベースラインを除去してゼロクロス検出が行われた信号を示したもの。右側は生信号(上)とハイパスフィルタ処理を行った後の信号(下)のパワースペクトル密度を示しており、入力信号が変動しているにもかかわらず、主周波数で約9.9Hzの鋭いピークが得られていることがわかります。
この9.9Hzの信号を分数カウンターを用いて1Hzに変換することで、接続したLEDを1Hz、すなわち1秒間に1回の間隔で点滅させることができます。 実際にろうそくの炎のゆらめきをもとにLEDを1Hzで点滅させた様子を撮影したのが以下のムービー。
なお、Tim氏が開発したコードはすべてGitHubのリポジトリで公開されています。
GitHub - cpldcpu/CandleSense: Detecting oscillations in a candle flame triplet using only wires and a CH32V003 microcontroller.
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