「相手より先に殺せ」…その教えの先にいる、イスラエルが敵視する「ラスボス」の名前(ダイヤモンド・オンライン)
停戦と攻撃を繰り返しながら、いまも収束する気配が見えないイスラエル・ガザ戦争。しかし、イスラエルの本当の敵は、ハマスではないという。異様なまでの警戒心から垣間見える、イスラエルにとっての“ラスボス”とは?※本稿は、東京大学先端科学技術研究センター准教授の小泉 悠、日本大学危機管理学部教授の小谷 賢『戦闘国家 ロシア、イスラエルはなぜ戦い続けるのか』(PHP研究所)の一部を抜粋・編集したものです。 【この記事の画像を見る】 ● イスラエルの根底に流れる ユダヤ教聖典の過激な一節 小泉悠(以下、小泉):イスラエルは先制攻撃を重要な選択肢として位置づけていますね。 そもそもイスラエルは地理的に、北はレバノンとシリア、東はヨルダンとパレスチナ自治区のヨルダン川西岸地区、南はエジプト、西はガザ地区と、広範なアラブ諸国・地域に囲まれている。 さらに、イスラエルの人口は1000万人弱で神奈川県と同じくらい、面積は四国よりやや小さい程度しかない。先に攻撃を受けると致命的なダメージになりかねないわけで、できることは事前に手を打っておくことで国の安全を確保してきたのでしょう。 ただ、こうした考え方や行動原理は軍事的な論理だけで導き出されるのでしょうか?よりイデオロギー的な背景があったりしますか? 小谷賢(以下、小谷):ユダヤ教の聖典の1つであるタルムードの一節に「誰かが殺しに来たら、立ち向かい、相手より先に殺せ」という文章があります。 これはイスラエルの政治指導者や軍、情報機関幹部が正当防衛を主張する際によく用いられるんです。「自分たちに災難が降りかかるのを、二度と手をこまねいて待たない」という意志が強く表れています。
● 中東のリーダーになるために 裏で暗躍するイラン 小泉:そのイスラエルにとって、最も深刻な脅威はイランでしょう。2025年6月には、イスラエルがイランを攻撃し、アメリカも地中貫通爆弾「バンカーバスター」を使用してイランの核施設を空爆しました。その後、アメリカの調停によってイスラエルとイランは停戦合意を結びますが、いつ停戦が破綻してもおかしくない状況です。 そもそも、なぜイスラエルはそこまでしてイランを敵視しているのですか? 小谷:イスラエルにとってイランは「最後に残った敵」と言えます。建国当初からイスラエルと敵対関係にあったアラブ諸国は、四度の中東戦争を戦ったエジプトをはじめとしてヨルダン、UAE(アラブ首長国連邦)、バーレーンなど、すでにイスラエルと和解しています。 サウジアラビアはイスラエルと国交はなく微妙な関係ですが、実質アメリカの傀儡のようなもので、イスラエルを敵視するまではいかない。カタールやオマーンも水面下でイスラエルとの関係を維持している。 残った「ラスボス」がイランです。1979年のイラン・イスラム革命以後、イランはイスラエルを「イスラム世界の敵」「不法な占領国家」として“根絶すべき存在”と位置づけています。また「アラブ諸国の盟主」「イスラム世界のリーダー」をめざしている。 イランはアラブ諸国のなかでは少数派のイスラム教シーア派で、実力でイスラエルを叩けば他のスンニ派諸国への強力なアピールになり、中東一帯はイランの影響下になるという目算なのでしょう。 そこで、レバノンを拠点に活動する武装組織ヒズボラ、ガザ地区を実効支配するイスラム原理主義組織ハマスに対して資金援助や武器・技術供与などさまざまな支援を行ない、自分の「代理」としてイスラエルに頻繁に攻撃を仕掛けてきたわけです。 ● サウジもエジプトも抑えた イスラエルのアキレス腱 小泉:言わば「交番に石を投げたヤンキーがヒーローになる」構図ですね。 小谷:まさに。ヒズボラを使ってイスラエルを攻撃すれば、イランは中東の若者から支持されるわけです。