「私は盗作していない」日本画家の梅原幸雄さんへの出品停止処分は「違法」、220万円賠償命じた一審支持…東京高裁
公益財団法人「日本美術院」(東京台東区)から不当な処分を受けたとして、当時理事だった日本画家の梅原幸雄さんが処分の無効確認や損害賠償などを求めた裁判の控訴審判決が12月10日、東京高裁であった。
梅本圭一郎裁判長は、日本美術院が梅原さんに下した処分はいずれも裁量権の逸脱・濫用にあたり違法だとして、220万円の支払いを命じた1審・東京地裁判決を支持する判決を言い渡した。
日本美術院は、梅原さんが制作した作品が「他人の作品と酷似している」と判断し、1年間の出品停止処分を科していた。
控訴審の判決後、梅原さんは東京・霞が関の司法記者クラブで会見を開き「私に対する日本美術院の処分が、違法かつ無効であったことが認められたことは、うれしく思います」と語った。
●1審で認められなかった記事の削除
日本美術院は、岡倉天心が創設した歴史ある美術団体だ。
判決などによると、問題となった作品は、梅原さんの「歌舞の菩薩」。日本美術院は2023年4月、「他人の作品に類似している」として、展覧会「院展」からの作品撤去や1年間の美術展への出品停止などの処分を決定した。
梅原さんはその後、処分の無効確認や賠償請求550万円を求めて、日本美術院を提訴。日本美術院は2023年5月、この処分内容を公式サイトに掲載しており、梅原さんは表現活動が著しく困難になったと主張していた。
1審・東京地裁は今年4月、処分は裁量権を逸脱、濫用したものなどとして、その違法性を認めて、220万円の賠償を命じていた。
梅原さん側は記事の削除や謝罪広告なども求めていたが認められなかったため、双方が控訴していた。
その後、東京高裁が心証開示で「記事の削除について認める方針」を示したところ、日本美術院は今年10月、自主的に記事を削除した。
●梅原さんの作品「他の作品に依拠したものではない」
今回の控訴審判決では、1審判決では認められなかった記事削除請求について付言をおこなっている。
その中で、梅原さんの作品が「他の画家の作品に依拠して作成されたものでないことが証拠によって裏付けられ」たとして、「制作や公表に何ら問題がなかったことが明らかになっている」と明記している。
また、梅原さんがこの処分によって「日本画家にとって、院展は特に重要な機会であるにもかかわらず、原告は本件展覧会において作品を展示する機会を喪失した」などとして、梅原さんが表現活動の制約という不利益を被ったことを認めた。
●「45年間の画家人生は消し去られた」
梅原さんは会見で改めて「私は盗作をしておりません」と強調したうえで、次のように語った。
「3年間、日本美術院のホームページに処分内容が掲載され続けたことで、私は、盗作作家の汚名を着せられました。これは、私にとっては何より耐え難いことでした。
私の作品は、他の作家の作品とはまったく無関係に制作したものであり、私はその作品を記憶してもいませんでした」
さらに自身のキャリアに与えた影響を振り返った。
「この出品停止処分が日本美術院のホームページに公表されたことから、私の45年間の日本画家人生は消し去られたのも同然となりました。
決まっていた仕事は次々とキャンセルとなり、個展を開くこともできなくなり、私は絶望のなか、茫然自失となり、絵を描く気力すら失ってしまいました。
日本美術院は、本件の処分について、私の作品が他の画家の作品に依拠して制作されたものでなくとも、類似しているのだから『結果責任』を負うと主張していました。
しかし、日本美術院の主張を前提とすると、普遍的なモチーフを描こうとする場合、たとえば富士山や、花・動物・人物を描く際に、先人の作品に似てないか逐一確認して類似しないようにしなければならないということになります。
そのようなことは現実には不可能であり、自由な表現としての創作活動を著しく制限することは明らかです」
他の作家の作品と酷似していると指摘された梅原さんの作品「歌舞の菩薩」(提供)
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