トランプ氏の和平要求、ゼレンスキー氏にジレンマ-残るは悪い選択肢
ウクライナのゼレンスキー大統領は、厳しい選択を迫られている。トランプ米大統領の怒りを買うか、あるいはロシアによる侵攻を終わらせるため、曖昧な安全の保証と引き換えに領土を割譲するという代償を払う性急な合意を受け入れるかだ。その場合、数年後にロシアが力を強めて再び侵攻してくる恐れもある。
これが18日に米首都ワシントンでトランプ氏との会談に臨むゼレンスキー氏が直面しているジレンマだ。ロシアのプーチン大統領とのアラスカ州での首脳会談で停戦合意を避けたトランプ氏は、ゼレンスキー氏にほとんど行動の余地を与えていない。
状況を一層難しくしているのは、2月のホワイトハウス訪問の記憶だ。ゼレンスキー氏とトランプ氏の間で激しい応酬があり、一時的に軍事支援が停止された。今回は欧州各国の首脳が会談に参加するが、米国に対する影響力は限られており、足並みもそろっていない。
首脳会談に同席する欧州首脳らは、米国がどのような安全の保証を提供する用意があるのかを確認し、ゼレンスキー氏とプーチン氏との会談を仲介することを目指す。ゼレンスキー氏に同行する欧州首脳には、トランプ氏と個人的な関係を築いている北大西洋条約機構(NATO)のルッテ事務総長やフィンランドのストゥブ大統領も含まれる。
トランプ氏は17日、ゼレンスキー氏が望むなら「ロシアとの戦争をほぼ直ちに終わらせることができ、あるいは戦い続けることもできる」と、自身のSNS「トゥルース・ソーシャル」に投稿した。
また、オバマ元米政権当時のロシアによる違法なクリミア併合に関し、「オバマ氏がクリミアを手放したのは(1発の銃声もなく!)もう取り返しがつかない。そして、ウクライナのNATO加盟は絶対にない。変わらないものもある!」と論じた。さらに、「ホワイトハウスで明日、大きな1日を迎える。これほど多くの欧州首脳が一堂に会するのは前例がない。彼らを迎えるのは大変光栄なことだ!」ともコメントした。
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事情に詳しい関係者によれば、ゼレンスキー氏の今回の目標は、新たな論争を避けてトランプ氏の合意仲介への関心を維持することに加え、プーチン氏の要求内容を詳しく知ること、3者会談の時期を確定すること、そして米国に対し対ロシア制裁の強化を促すことにあるという。
ただ、これらの目標が達成できるかどうかは、プーチン氏がどれほどトランプ氏の考えに影響を与えているかにかかっていると欧州当局者らはみている。トランプ氏は15日の首脳会談後、即時停戦を交渉開始の条件とする要求を取り下げ、代わりにゼレンスキー氏に和平計画について速やかに行動するよう迫る姿勢を示した。
ゼレンスキー氏は17日、訪米前にベルギーの首都ブリュッセルに立ち寄り、欧州委員会のフォンデアライエン委員長と会談。共同記者会見では「プーチン氏には多くの要求がある。それらを全て検討するには時間がかかる。武力の圧力下でこれを行うのは不可能だ」と述べ、最終合意に向けて迅速に作業を進めるためには停戦が必要だと強調した。
ウクライナにとってリスクを高めているのは、米大統領がロシア側の要求であるウクライナ東部の広大な領土放棄について、受け入れる可能性を示唆したことだ。
一方でトランプ氏はプーチン氏との会談後に欧州首脳に対し、米国が安全の保証に寄与できると伝え、プーチン氏もそれを受け入れる用意があると語った。ただ、どのような保証が検討されているのか、またプーチン氏が何を受け入れるつもりなのかは不明だ。
トランプ氏の特使を務めるスティーブ・ウィトコフ氏はCNNのインタビューで「米国や他国がウクライナにNATO第5条に類似した文言を事実上提供し得るとの見解でわれわれは一致した」と述べた。第5条は、加盟国のいずれか1国が攻撃を受けた場合、全加盟国への攻撃と見なすという条項。
ゼレンスキー氏は17日、「米国が欧州と協力し、ウクライナに安全の保証を提供することで合意することが重要だ」と強調した上で、「ただ、それがどう機能するのか、米国の役割は何か、欧州の役割は何か、欧州連合(EU)が何をできるのかはまだ明らかではない。これがわれわれの主な課題だ」と述べた。
原題:Trump’s Peace-Deal Demands Leave Zelenskiy With Only Bad Options(抜粋)