「最高の職場」全米2位のNVIDIA本社に潜入 CEO自らデザイン

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AI(人工知能)需要によって爆速成長が続く米半導体メーカーのエヌビディア。シリコンバレーにある本社オフィスは、宇宙船のようなデザインが目を引く。ジェンスン・ファン最高経営責任者(CEO)が自ら設計に関与し、フラットな組織を体現する空間だ。

組織構造をなるべくフラットにして、情報の流通を速くする。情報の偏りをなくし、全社の意思を統一して素早く行動できるようにする──。エヌビディアのファンCEOは様々な独自ルールを設けて、迅速な意思決定ができる組織を築いてきた。その意思は、「組織を格納する箱」でもあるオフィスにも強く表れている。エヌビディアは2022年までにシリコンバレーの中心地である米カリフォルニア州サンタクララの本社を刷新した。その建築の在り方をひもとこう。

米求人情報大手のグラスドアが毎年実施している「最高の職場ランキング」の2024年版でエヌビディアは全米2位になった。分析部門を率いるダニエル・ザオ氏は「職場環境と企業文化の組み合わせが、評価をかなりポジティブにしている」と分析する。

エヌビディアの従業員は約3万人だが、その組織構造はスタートアップのようにフラットで、情報の流動性を重視する。その文化を体現しているのが、シリコンバレーの本社オフィスだ。建築設計を指揮した世界最大の建築設計事務所、米ゲンスラーのハオ・コー氏は「エヌビディアの文化が、建築の形態に反映されている」と説明する。

シリコンバレーの新本社は、2017年に完成した「エンデバー」と2022年に完成した「ボイジャー」の2棟からなる。いずれも低層の地をはうようなデザインで、見た目は宇宙船のようだ。事実、テレビドラマシリーズ『スタートレック』に登場する宇宙船の名を取ったものだ。2棟の延べ床面積は約2万3000平方メートルで、数千人の従業員が働いている。

大通りを挟んだ敷地に点在するオフィスを本社としていた2007年、エヌビディアはエンデバーとボイジャーが建つことになる広大な敷地を取得した。新オフィスを建設する計画だったが、エヌビディアで本社オフィス建設のプロジェクトマネジャーを務めるジャック・ダーグレン氏によれば、当時は「3階建ての中層ビルで、賃貸オフィスとして貸すことを計画していた」という。

ただ2008年にリーマン・ショックが勃発。エヌビディアも2009年2月に発表した四半期決算の最終損益が赤字に転落した。景気悪化に加えて、画像処理向けの半導体の領域で米アドバンスト・マイクロ・デバイセズ(AMD)とのシェア争いが激しくなっており、経費削減などに追われた。

2010年代に入って、ファンCEOの本社に対する考え方は変わっていた。「誰かから借りられるようなオフィスではなく、我々を象徴するような本拠地をつくろう」。こんなコンセプトで、大手建築設計事務所4社によるデザインコンペ(設計競技)を実施した。

ゲンスラーは「コラボレーションをどう促すか」に力点を置いた。エヌビディアの従来の本社エリアは、比較的規模の小さい複数のオフィスビル群が点在していた。できるだけ多くのエンジニアをできるだけ少ないフロアに集めるにはどうすればいいか。1つの屋根で覆われた巨大な空間を、ユーザーのアクティビティーごとに小さく分割し、空間の性格を定義していく。それがゲンスラーの提案の中心だった。

しかし、数千人を1つの空間に入れればコミュニケーションは増えるものの、問題も発生する。あちこちで会話が始まれば音は反響し、タスクをこなすために集中したいエンジニアにとっては雑音でしかない。「選択肢を提示するのが重要だった」。コー氏は解決法をこう説明する。ゲンスラーは中心から同心円を描くように3つのゾーンを設定した。

中心は最もにぎやかなエリアで、外部からの受付などを設置。逆に外側は集中して作業ができるスペースを多く設けた。自然光が最も入るエリアを作業スペースとする提案だ。中心部と外周部の中間は「トランジション(移行)エリア」として、にぎわいと静かな作業スペースの間の多様な空間とした。音の反響については、屋根の形状をシミュレーションして音を反射させたり、天井の前面に吸音材を設置したりすることで解決した。

自然光などのシミュレーションには、エヌビディア自身の技術も一役買っている。ファンCEOはエヌビディアのエンジニアリングチームに協力するよう指示した。「建築分野のツールの描画はそれほど正確ではなかった。我々は何十年もシミュレーションに携わってきたので、それを不十分だと感じた」(エヌビディアのダーグレン氏)

エヌビディアのGPUを組み合わせてレンダリングエンジンとして利用することで、CGの描画時間を短縮した。「ある日、写真とCGのファイルがアクシデントで混ざってしまった。チームの誰もが、どちらが本物なのか分からなくなってしまったんだ」。ダーグレン氏は笑いながらこう振り返る。

ファンCEOはオフィスのデザインに関わるほとんど全てのミーティングに参加した。著名企業の本社を数多く設計してきたゲンスラーのコー氏は「あり得ないほど多くの時間をジェンスンは割いてくれた」と振り返る。平日の数時間では足りず、土曜日に丸1日かけて議論することもあった。

エヌビディアのダーグレン氏は「ジェンスンとデザインチームは数十回、ミーティングを重ねた」と証言する。一般的にCEOがデザインのミーティングに出席するのは多くても数回。「一般的にはサインをするのが役割だ。でも、ジェンスンは問題解決をするのが好きなんだ。だから決定したものではなく、議論の段階でミーティングを設定していた」(ダーグレン氏)

2つの建物の内部とそれをつなぐ中庭には、カリフォルニアを象徴する日差しがさんさんと降りそそぐ。大きな開口部から光を取り込む明るいオフィスで、エンジニアが自由気ままにノートパソコンを開いて業務をこなす。

エヌビディアはシリコンバレーの大手企業には珍しく、新型コロナウイルスのパンデミック後も完全なリモートワークを許可している。それでも本社オフィスの人気は高いという。世界最強を支える宇宙船は、フラットであり従業員1人ひとりが自立するエヌビディアの組織を体現している。

(日経BPシリコンバレー支局 島津翔)

[日経ビジネス電子版 2025年4月2日付の記事を再構成]

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