暗礁に乗り上げたF1の60:40案…PU規則変更を阻む「4つの壁」と妥協策の中身、カナダで「正念場の協議」へ

2026年シーズンより導入された新たなF1パワーユニット(PU)規則の変更をめぐり、第5戦カナダGPの週末に「正念場の協議」が行われる見通しである事が分かった。イギリスの専門メディア『The Race』が報じた。

変更に必要な時間的制約が迫る中、2027年に向けたハードウェアの変更を伴う案が、規則改定に必要な支持を得られていないためだ。

変更そのものに反対する者は見当たらない。ドライバーは支持し、メーカーも必要性を認めている。それでも合意は固まらない。割れているのは「いつやるか」という一点だが、その一点が”4つの壁”に阻まれている。

議論の中心にあるのは、現行規則の中核に据えられた「50:50」のパワー配分を改める案だ。今季のF1では、PUの総出力の約半分を電動パワーが担っている。だが、この配分はさまざまな問題を生んできた。

協議されている案は、ICE(内燃エンジン)の出力を燃料流量の増加によって50kW引き上げる一方、バッテリーの出力を同程度引き下げるというものだ。これにより、配分を約「60:40」へと移行させる。デプロイメントの上限は、現行の350kWから300kWへと下げられる。

狙いは、開幕から物議を醸してきたエネルギーマネジメント問題の解消にある。エネルギーを節約・回生するため、ドライバーはリフト&コースト(アクセルを早めに戻す走法)やスーパークリッピングを強いられてきた。

配分を見直せば、マシンはより直感的に運転できるようになるとされる。コーナーで攻めた直後に電力が枯渇し、次の直線で失速するといった現象が和らぐという見立てだ。

問題は、この変更そのものへの賛否ではない。FIA、FOM、F1チーム、そしてPUメーカー各社は今月初め、現行PU規則の問題を解決するため、2027年にハードウェア変更を導入する案で原則合意した。

現行PUメーカーであるホンダ、フェラーリ、メルセデスHPP、レッドブル・パワートレインズ、そしてアウディは、変更の必要性そのものについては支持している。割れているのは、その時期だ。

複数の情報筋によれば、メーカーの間には、いつ変更を導入すべきかをめぐって明確な意見の相違がある。2027年からの導入を望む陣営と、2028年まで待つべきだとする陣営に分かれているという。

ここで壁となるのが、F1のガバナンス構造だ。エンジン規則に重大な変更を加えるには、関係する6つのメーカーのうち4社の支持が必要となる。この超大多数決、いわゆるスーパーマジョリティの要件が、現時点では満たされていない。

イギリスの専門誌『Autosport』によれば、原則合意の後にFIAがまとめた当初の具体案に対し、アウディ、フェラーリ、ホンダの3社が反対しており、超大多数決に及ばない状況とされる。

即時の変更に前向きなのは、新たなレギュレーション下のPUで印象的な競争力を見せてきたメルセデスとレッドブルのみとされる。だからこそ、事態を打開するための追加協議が、カナダGPの週末に必要となった。

「60:40」化は、燃料流量を増やしてICEの出力を引き上げる案であり、その分だけ燃料を多く消費する。より多くの燃料を積むには燃料タンクの拡大が必要となる。これは、それを収めるモノコック、すなわち車体の設計変更にもつながる。

2027年のマシン開発はすでに進んでいる。中堅以下のチームを主体として、リソースを節約するために来季も現行シャシーを流用する計画だった者は少なくないものとみられる。それゆえ、車体変更を強いられることが、チーム側にとって最大の障壁だった。

報道によれば、FIAは2027年に向けてこの問題を回避するための妥協案を探っている。規則変更に伴う車体側の修正が不要となるアイデアだ。

その具体策が、カナダGP初日のチーム代表会見で語られた。レーシング・ブルズのチーム代表アラン・パーメインによれば、車体側の修正なしに燃料流量の増加へ対応する方法は単純だという。

それは、必要なレースに限ってレース距離を1〜2周短縮し、スタート前のラップを1周に制限する、というものだ。

試算では、カレンダー上の約4つのサーキットでこの調整を行えば対応できるとされる。パーメインによれば、この方策は代表レベルではすでに合意されており、規則変更が可能な状態にあるという。

レッドブル・レーシングの代表を務めるローラン・メキーズも、車体側については日程的に切迫した状況にはないと述べた。時間的な制約が迫っているのはPU側であり、だからこそ各メーカーは、意見をできるだけ早く一致させようとしているのだという。

マクラーレンのチーム代表アンドレア・ステラも、車体の観点からは十分に対応可能だと同調した。

車体側の懸念が妥協案で和らぐとしても、PU側にはなお課題が残る。その一つが、今季より導入された追加開発・アップグレード機会(ADUO)だ。

これは、性能で劣るメーカーに、シーズン中のアップグレードや追加のダイナモ使用、予算枠を認め、改善のための開発を後押しする制度だ。

仮に来季、燃料流量の増加を認めてPU規則を作り直すと、すべてのメーカーは新仕様のエンジンを開発しなければならなくなる。

このような状況下でADUOによる追加開発が認められれば、対象となったメーカーだけが、新仕様をいち早く煮詰めるうえで優位を得てしまう可能性がある。

こうした状況を回避するため、PU規則を変更する場合は現行のADUOも廃止・調整せざるを得ないとの見方もある。だが伝えられるところによると、FIAはADUOを「60:40」の議論とは完全に切り離しておきたい考えだとされる。

加えて、ADUOの対象となったメーカーは、そのための変更と並行して2027年に向けた設計に取り組まなければならず、人的リソースの問題も生じる。

メーカーの慎重姿勢の根底にあるのが予算だ。とりわけアウディがこの点を強く意識しているとされる。現行規則に多額を投じ、いまだF1を学んでいる最中のメーカーとしては、予算上限が設けられているなかで、さらなる追加開発を正当化するのは難しいというわけだ。

情報筋によれば、来季に向けてエンジンを刷新するための支出は、1000万ドル(約16億円)を超える可能性があるという。

コストへの懸念は、チーム側からも上がっている。ハースのチーム代表を務める小松礼雄は、コストキャップの緩和策が導入されるかどうかにかかわらず、支出をさらに押し上げる動きに警鐘を鳴らした。

「FIAとF1の運営陣に、チームの立場として聞いていただきたいのはコストのことです」と小松代表は語る。

「現行のPU規則は、すでに非常に高くついています。そのうえ、各チームにさらに500万から1000万の追加コストを強いることになるなら、それは我々にとって、決して正しい方向ではありません」

PU開発で先行するメルセデスとレッドブルが変更を望み、追いかける側や独立系のチームが慎重になる。そうした構図が透けて見える。

公平な解を探る難しさ

シャルル・ルクレール(フェラーリ)は、カナダGPの開幕に先立ち、合意の難しさに言及した。「誰にとっても意味があり、また公平な解決策を見つけるのは、当初思っていたよりもはるかに複雑だ」

「60:40」への移行は、ドライバーの間では幅広く支持されている。メキーズによれば、マックス・フェルスタッペンが声高に現行規則を批判してきたのは、F1がモータースポーツの頂点から転落する事態を本気で危惧しているからだという。

そのフェルスタッペンは、この規則変更が実現すればF1に留まる理由になるとまで踏み込んだが、それでも慎重な言い回しを崩さなかった。

「だからこそ、完全に確定するまでは様子を見なきゃならない。ただ、あれは絶対に実現すべきことだ」

カルロス・サインツ(ウィリアムズ)は、2028年まで待つことはできないと主張してきた一人だ。F1の首脳陣に対し、政治的な抵抗に毅然と立ち向かうよう促した。

「残念ながら、このスポーツではいつものように、政治と、主要メーカーごとの異なる利害が絡んでくる。それぞれが求めるものに応じて、押し戻したり、推し進めたりするんだ」

「だからこそ、せめて僕から言えるのは、FIAとFOMに対し、このスポーツにとって正しいと信じることを、毅然と貫いてほしいということだ」

ステファノ・ドメニカリCEOを含むF1の首脳陣およびFIAの幹部は、カナダGPの週末に開かれる会合をどう捌くのか。事態を前進させるために行われるものだが、状況は決して容易ではない。この協議がどのような結論に至るかは、現時点では見通せない。

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