NASAの「ローマン宇宙望遠鏡」組み立て完了 打ち上げに向け最終試験へ
ローマン宇宙望遠鏡は、ハッブル宇宙望遠鏡(HST)と同じ直径2.4mの主鏡を備えた、NASAの新たな宇宙望遠鏡です。 計画段階では「Wide Field Infrared Survey Telescope(広視野赤外線サーベイ望遠鏡)」の頭文字から「WFIRST」と呼ばれていましたが、NASAで最初の主任天文学者を務めた人物であり、「ハッブル宇宙望遠鏡の母」とも呼ばれるナンシー・グレース・ローマン氏にちなんで命名されました。 ローマン宇宙望遠鏡には、「WFI(Wide Field Instrument、広視野観測装置)」および「CGI(Coronagraph Instrument、コロナグラフ観測装置)」という2つの観測装置が搭載されています。 WFIは、18個のセンサーで構成された288メガピクセルの赤外線カメラです。 ハッブル宇宙望遠鏡の「掃天観測用高性能カメラ(ACS)」の約100倍、「広視野カメラ3(WFC3)」の約200倍という広い視野を、ハッブル宇宙望遠鏡と同じ解像度で一度に観測することが可能。ハッブル宇宙望遠鏡が30年かけて観測した範囲の50倍以上という広い領域を、ローマン宇宙望遠鏡は最初の5年間で観測する予定です。 暗黒物質(ダークマター)や暗黒エネルギー(ダークエネルギー)についての手がかりをはじめ、従来の望遠鏡では検出できないような太陽系外惑星など、近傍の恒星から遠方の銀河まで、広範囲にわたるデータを得られると期待されています。
CGIは、恒星の明るい光だけをさえぎって、その星のすぐ近くにある惑星や塵(ダスト)の円盤を観測できるようにするコロナグラフ(ステラーコロナグラフ)を備えた観測装置です。 技術実証も兼ねたローマン宇宙望遠鏡のコロナグラフには数千個の駆動素子でリアルタイムに変形可能なデフォーマブルミラーなどが組み込まれていて、これまで宇宙望遠鏡に搭載されたコロナグラフと比べて2~3桁も高性能化する可能性があるといいます。 太陽に似た恒星を公転する木星サイズの惑星などを直接撮像することで、研究者たちが目指す「ハビタブルゾーン(※)を公転する地球サイズの岩石惑星の直接撮像」にまた一歩近付くことが期待されています。 ※…大気を持つ惑星の表面に液体の水が存在し得る、恒星から一定の範囲にある領域。童話「3びきのくま」にちなんでゴルディロックスゾーンとも呼ばれる。
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アメリカ・メリーランド州にあるNASAのゴダード宇宙飛行センターでは、ローマン宇宙望遠鏡の望遠鏡本体や観測装置などがある内側部分と、太陽電池などがある外側部分の統合作業が2025年11月25日に行われました。 地上での最終試験を終えた後、ローマン宇宙望遠鏡はフロリダ州のケネディ宇宙センターに輸送され、2026年夏から打ち上げ準備が始まります。打ち上げ予定時期は2027年5月ですが、NASAは早ければ2026年秋にも打ち上げられるように準備を進めているということです。 アメリカ企業SpaceX(スペースX)の「Falcon Heavy(ファルコンヘビー)」ロケットで打ち上げられたローマン宇宙望遠鏡は、太陽と地球の重力や天体にかかる遠心力が均衡するラグランジュ点のうち、地球から見て太陽とは反対の方向にある「L2」(地球からの距離は約150万km)を周回するような軌道に移動し、観測を行う予定です。 参考文献・出典 NASA - NASA Completes Nancy Grace Roman Space Telescope Construction
sorae編集部