相談件数5年間で1・5倍 増える男性のDV被害 年上の妻に食事抜かれ栄養失調 国際男性デー
ドメスティックバイオレンス(DV)被害に男性が遭うケースが増加している。男性被害者からの相談件数はここ5年間で1・5倍となったが、専門家は「(隠れていた被害が)表面化した」と分析。ただ、社会的認知が進んだとはいえ、一般的には女性に比べて肉体的に優位にあるとされる男性が被害を訴えても、社会の共感を得にくい状況は続く。また、女性のDV被害者より追い詰められやすい側面も指摘されている。
「あなたは生きている価値がない」
スマートフォンや現金は取り上げられ、その日もほとんど食事は与えてもらえなかった。不思議と空腹は感じなかったが、大村正人さん(34)=仮名=は自宅で倒れ、そのまま病院に搬送された。
「あなたは生きている価値がない」「クズ親から生まれたお前もクズ」
約2年前から同居し、 昨年1月に自治体のパートナーシップ宣言をして事実婚生活に入った5歳年上の妻は、些細(ささい)なことで暴言を吐く人だった。
トイレにわずかな水滴が落ちていただけで激高。大村さんは正座させられ、平手で顔面を殴られることもあった。避けるために振り上げられた手をつかむと、逆に言い返された。「私に暴力を振るうのか」
ジェンダー意識を利用して
警察庁によると、令和6年に男性から寄せられたDV被害の相談件数は2万8214件。ここ5年間で1・5倍になり、全体の約3割を占める。
京都大の伊藤公雄名誉教授(ジェンダー社会学)は、潜在化していた被害が表面化し始めていると推測した上で「男性もDV被害に遭うことが報道などを通じて社会に浸透し、被害を訴えやすくなったのだろう」と増加の原因を分析する。
また、男性が被害に遭うケースには特徴があるという。
男性のDV被害支援を行う一般社団法人「白鳥の森」(徳島市)の野口登志子代表理事はあくまで一般論とした上で、「女性加害者は、近年のジェンダー意識を巧みに利用して相手を支配する」と指摘する。
その一例として野口さんが挙げたのは以下のようなものだ。男性に対して仕事での〝稼ぎ〟を求める一方で、「男性は家事や子育てもすべき」と女性側が高い理想を抱く▽理想と異なると、暴力や暴言で不満を爆発させる▽男性が反撃すれば逆に「モラハラだ」などと追及してくる-という。
野口さんは「男性被害者はパートナーの理想にこたえようとする人が多い。専業主婦が加害者になることが意外と多いことも特徴の一つだ」という。
DV被害に遭っていた大村正人さん(仮名)。食事を与えられず栄養失調で搬送された(桑波田仰太撮影)「あなたを変えるため」と正当化
大村さんは、20万円ほどの借金を打ち明けたことをきっかけに、妻からの激しいDVが始まった。ウェブデザイナーの仕事で年収は約500万円。借金返済のめどはたっていたが、専業主婦の妻は「隠し事は許せない。あなたを変えるために一緒に戦う」と、DVを正当化する主張を繰り返すようになった。
妻は在宅勤務の大村さんを常に監視。給与はすべて妻が管理しており、冷蔵庫を開けるにも許可が必要だった。事実婚から10カ月後には食事を抜かれるようになり、70キロ以上あった体重は40キロ台に。それでも大村さんが無抵抗を貫いた結果、栄養失調で倒れるに至った。
搬送された病院側が異変に気が付いて通報。今年5月には、裁判所がDV防止法に基づく接近禁止命令を出し、大村さんは妻から解放された。
大村さんは当時をこう振り返る。「自分が変われば妻との関係も変わると思っていた。DV被害を受けている意識すらなかった」(桑波田仰太)