高市首相を「バカイチ」と呼ぶ慶大名誉教授とそれを肯定する元文科次官の品格… 潮匡人
二月八日に投開票された総選挙の結果について、改めて紹介するまでもない。《「日本型リベラル」政党は壊滅し、歴史は動いた。》(二月九日付「産経抄」)。各社報道から振り返ってみよう。
解散前日の一月二十二日、毎日放送(MBSテレビ)の情報番組「よんチャンTV」が、TBS出身ジャーナリスト(武田一顕)の選挙解説を紹介した。「有権者の判断軸は?」と題し、主な政党を二つに分類。前田春香アナウンサーが「われわれが求める日本は『優しくて穏やかな日本』なのか、『強くて、周りからこわいと思われるような日本』を目指しているのか、ここが判断軸」と説明。画面には「優しくて穏やかな日本」側に、中道改革連合、国民民主、共産、れいわ。「強くてこわい日本」側には自民、維新、参政が示された。
エンディングで、MCの河田直也アナウンサーが「訂正とおわび」として「自民、維新、参政党について、誤解を招くような表現がありました。おわびいたします」と頭を下げたが、どこが「誤解を招くような表現」で、どう「訂正」したのか判然としなかった。
同番組は関西ローカル。その影響を直接受ける大阪選挙区の松川るい参議院議員がXにこう投稿した。
《MBSに強い懸念を申し入れました。(中略)マスコミは国民の意識に大きな影響を与えますので、より公平・公正な報道に取り組んで頂きたいと思います。》
結局、毎日放送の虫明洋一社長が一週間後の一月二十九日、「非常に不適切。各政党および視聴者にご迷惑をおかけした」と記者会見で謝罪する展開となった。
評論家の潮匡人氏この番組だけではない。選挙中の一月三十一日、高市早苗総理が、訪日中の英スターマー首相と会談、共同記者発表を行ったが、生中継した英国の公共放送BBCテレビとは対照的に、日本の公共放送(NHK)以下、各社の報道は冷淡だった。門田隆将氏(ジャーナリスト)のX投稿を借りよう。
《主要テレビ局に殆ど無視されたスターマー英首相と高市首相との会談。共同会見をBBCが「生放送」したのに、これを報じなかったNHK。極めて重要な日英首脳会談に対する冷たい報道ぶりに絶句。安全保障上重要な同志国として様々な分野で協力強化を確認した両首脳。だが国民は知らない。あり得ない》
月刊『Voice』三月号が《「積極財政」は22世紀の日本への責任》と題し、片山さつき財務大臣への巻頭インタビューを掲載した。聞き手は滝田洋一特任教授(名古屋外語大)。以下のやりとりが象徴的だった。
《—二〇二六年度の予算案について伺います。予算規模は一二二・三兆円になりましたが、メディアからは「ばら撒き」との批判が出ました。ただ、私がそれよりもまず注目したのは、当初予算ベース(政府の一般会計)でプライマリーバランスを黒字にした点です。
片山 二十八年ぶりのことです。
—これは大ニュースなのに、メディアが大見出しを立てていないのが不思議でした。
片山 私としては、是非とも見出しにしていただきたかったです(笑)。》
等々、マスメディアの報道は総じて与党に冷たく、左派野党に好意的だった。TBSテレビに至っては、投票前日も(「報道特集」)、当日も(「サンデー・モーニング」)、高市政権への批判を放送し続けた。選挙当日にX上で「偏向報道」が「トレンド」になったのも頷ける。
安住元財務相にブーメラン
なかでも注目されたのが一月三十一日の高市総理演説である。
《今円安だから悪いって言われるけれども、輸出産業にとっては大チャンス。食べ物を売るにも、自動車産業も、アメリカの関税があったけれども、円安がバッファーになった。ものすごくこれは助かりました。円安でもっと助かってるのが、外為特会っていうのがあるんですが、これの運用、今ホクホク状態です。》(日経記事より)
総理の真意がなんであれ、マーケットは「円安容認発言」と受け取り、為替相場では円安が進行した。総理発言への論評は控えるが、「高市演説を受けて〜危うい現状認識〜」と題した「みずほマーケット・トピック」(二月二日)には触れざるを得ない。筆者は、みずほ銀行国際為替部の唐鎌大輔チーフマーケット・エコノミスト。
冒頭の要約文をこう締めた。
《外為特会は将来の通貨防衛に際し、投機筋と戦うための有限な原資だからこそ「弾薬」と形容されるのである。目的外利用は禁忌。》
本文でもこう書いた。
《周知の通り、外為特会は外債運用を通じて資産を膨らませること(そしてこれを恒久財源として政策を執行すること)を目的としている代物ではない。(中略)弾薬の残量が可視化されている状態での戦いは当然、苦しいものになるし、その戦が始まる前に弾薬を悪戯に費消する軍隊が勝てるはずもないだろう。》
すると、安住淳・共同幹事長(中革連・当時)がXに投稿した。
《みずほ銀行がレポートで示された「危うい現状認識」に賛同します。》
これに多数の匿名アカウントがコメントした。一部紹介しよう。
《あんたこれ読んでないだろw/高市政権を叩くために拾い上げたつもりでしょうが、中身はあんたらが掲げるジャパンファンド構想を根底から全否定するものだぞw/レポートの3ページ目には、外為特会や年金基金を「儲かっているから」と政治の財源に回そうとする動きを禁忌とある/賛同するんだな?w》
《これ、全文読んだのか?/外為特会は有事が起こった際に投機筋と戦うために備えるべきであり、恒久財源として使うべきではないと言ってる。/すなわち、中道がジャパンファンドの財源として外為特会を使用することも否定してるんだよ。/単に高市叩きのためにレポートも碌に見ずに賛同するとか言うな。》
元財務大臣(安住)より、匿名アカウントのほうが、レポートを読み込んでいるとしたら、悲劇を通り越した喜劇でしかない(落選した安住候補にとっては悲劇だが…)。
翌二月九日付「朝日新聞」朝刊にも触れよう。松田京平政治部長が「強大な権力 節度ある政治を」と題した署名記事でこう書いた。
《SNS選挙の浸透で政治への向き合い方が激変する中で、強大な権力構造が生まれた。抑制的で節度ある政治をつくれるのか。民主主義の正念場だと覚悟したい。》
「天声人語」でも、こう釘をさした。《白紙委任ではないとは言っておきたい。そもそも高市氏が言う「国論を二分するような政策」の中身がわかっていない。「これだけ勝ったのだから」と、異論を数の力で抑え込むことは許されない》
「品格ゼロ」の投稿も
主権者の審判を素直に受け入れることができない人が「民主主義」を語る。もはやブラックユーモアでしかない。
その他、枚挙に暇がないが、今月も「右傾化を深く憂慮する一市民」(前川喜平・元文科次官)にご登場願おう(先月号参照)。
高市総理を「バカイチ」と呼び続ける金子勝名誉教授(慶大)を、匿名アカウントが「バカイチってやめませんか? 大学教授の品格がゼロですよ。我々の先輩がこんな人でホント情けないです。」と諌めた。すると「一市民」がこう投稿した。
前川喜平元文科次官《高市早苗氏が恐ろしく無能であることを、多くの人に分かってもらうためには、「バカイチ」と呼んでいいと思います。》(一月二十一日)
お前は、中学生か?
さらに、選挙中(一月三十日)には、こうも投稿した。
《「自民単独過半数の勢い」なんて見出しを読むと、つい「やっぱり日本人は劣等民族か」などと言いたくなるが、民族に劣等も優等もない。ただ、圧倒的に多くの日本人が勉強不足なのだ。自ら学び自ら考える学力が身に付いていないのだ。》
万一そうなら、その責任は文科省の事務方トップを務めた前川元次官も負っているはずだが、そうした自覚は微塵もなさそうだ。
極めつきは、以下の投稿だ。
《国旗損壊罪なんてできたら、白い紙の表と裏に赤い丸を書いて、破ってやる。それを毎日交番の前でやってやる。捕まえられるものなら、捕まえてみろ。》(一月三十一日)
お前は、小学生か?
私には二人の孫がいるが、日本で公教育を受けさせることに根本的な疑念を抱き始めた。
=評論家
(月刊「正論」4月号から)
うしお・まさと
昭和35年生まれ。早稲田大学大学院法学研究科博士前期課程修了。元自衛官