爬虫類のおしっこは「石」。そのメカニズムが痛風治療のヒントになるか?

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爬虫類のおしっこが「結晶」だって知ってました?

何十年もの間、研究者たちは爬虫類のおしっこが結晶である理由を観察してはいました。でも、詳しい仕組みについては、よくわからないままででしたが、ついにその謎が解けたのです。

先日発表されたアメリカ化学会誌(Journal of the American Chemical Society)の論文で、有機化学者と爬虫類学者がタッグを組んだ研究チームが、20種以上の爬虫類の「結晶おしっこ」を分析した結果を報告しています。

すごくシンプルに結論をいうならば、爬虫類は体内の余分な窒素を微細な結晶が集まってできた小さな球体という形で排出しているということみたいです。

この仕組みは、ヘビにとって進化的な利点があるだけではなく、人間の健康にも関わると研究者たちは述べています。

尿の科学

この研究は、ジョージタウン大学の結晶学者ジェニファー・スウィフト氏が、爬虫類学者のゴードン・シュエット氏から受けたちょっと変わった相談がきっかけで始まりました。

シュエット氏は飼育している爬虫類に同じ食べ物と水を与えているのに、「結晶おしっこ」に違いがあることに気づいていたのです。スウィフト氏はGizmodoの電話取材にこう話しています。

「シュエット氏が観察して気づいたのは、飼育している生き物の中には、乾くと岩のように硬くなる尿酸塩を出すものもいれば、乾くと粉のようになるものもあるということ。

シュエット氏が『これはなんでなんだろう?』と聞いてきたので、私は『わからないから、サンプルを送ってくれる?』と答えたんです」

Swift et al., 2025

それまでスウィフト氏の研究対象は、人間の尿酸結晶の蓄積についてでした。尿酸結石は痛風や腎臓結石などの深刻な健康問題を引き起こします。尿酸は動物が体内の余分な窒素を分解するときにできる3つの主要な形のうちの1つです。

哺乳類の場合、余分な窒素は「尿素」として体外に排出され、多量の水とともに「尿」として出ていきます。一方で爬虫類や鳥類(どちらも恐竜の子孫)は、固体の尿酸として窒素を排出します。これは乾燥した環境で水分を節約するための進化的適応だと考えられています。

「結晶おしっこ」の謎を解く

固体の尿酸は人間にとっては問題を引き起こしますが、爬虫類はどうやってそれをスムーズに排出しているのかを理解できれば、何かしらの利点があるだろうと研究者たちは考えていました。

しかし、スウィフト氏は、これまで分子レベルでその仕組みを明確に説明した研究はほとんど成功していなかったと言います。「私たちは何を扱っているのかすらわかっていなかったので、思いつく限りの分析手法を全部使って、ありとあらゆる方向から調べました」とスウィフト氏。研究チームは、ヘビを含む約20種の爬虫類から採取した固体尿酸(尿酸塩)を、X線や高解像度顕微鏡で分析しました。

Swift et al., 2025

その結果、爬虫類は非常に複雑な窒素排出の仕組みを持っていることがわかりました。まず爬虫類はナノサイズの尿酸結晶が集まった小さな球体を作ります。種によっては、これをそのまま排出するものもいれば、液体アンモニア(強い神経毒)と反応させて「再利用」するものもいるそうです。

この反応によって、ヘビはアンモニアをより無害な固体粒子へと変換できます。スウィフト氏は、「こうしてできた粒子は毒性が低く、排出後は風で飛ばされるような粉になるのです」と説明しています。つまり、尿酸はヘビにとって保護的な役割を果たしているのかもしれないということです。

痛風治療のヒントになるか?

もちろん、これをそのまま人間に当てはめるのはまだ早すぎるとスウィフト氏は認めています。それでもこの発見は、尿酸が生物学において果たす役割について、まだ解明されていない部分が多いことを示しています。「尿酸が多すぎるのは問題ですが、完全になくすこともできません」と述べています。

今回の研究の成果についてスウィフト氏は、「生物模倣的なアプローチが複雑な問題を解く上で、どれほど価値があるかを示しています。何百万年にもわたる進化の歴史で想像を超える形で生物たちが生き延びてきました。自然界には、私たちがまだ理解していない驚くべき仕組みがたくさんあるのです」と述べています。

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