吉野の桜に外来昆虫襲来危機〝フラス〟を確認「思いのほか広がっている」と担当者も衝撃
世界遺産「紀伊山地の霊場と参詣道」を構成し、壮大な景色が「一目千本」と称される奈良・吉野山の桜が新たな脅威にさらされている。名勝を脅かす主は爆発的に数を増やす特定外来生物・クビアカツヤカミキリだ。「ヒッチハイカー」との異名を取る外来種から景観を保護しようと奈良県吉野町や「桜守」らが連携し町をあげた対策に取り組み、成虫が飛来し始める6月に向け警戒を強める。(木村郁子)
昨年10月9日、大峰山脈北端に位置する吉野山(同町)のヤマザクラの根元にあった黄土色の付着物を観光客の男性が発見。翌10日、外来昆虫の排泄(はいせつ)物の疑いがあるとして町に通報した。その後、環境省が専門家に分析を依頼したところ、クビアカツヤカミキリの幼虫が排出するふんと木くずが混ざった「フラス」と判明。国立公園内で初めて被害が確認された。
木くずと幼虫のふんがまじりあったフラス(昨年10月、吉野山保勝会提供)■「ヒッチハイカー」
クビアカツヤカミキリは、中国やベトナムなど東アジア原産のカミキリムシ科に属する体長約2~4センチの外来昆虫で、赤い胸部が特徴。幼虫は桜や梅をはじめとするバラ科の木の内部を食べて成長する。驚くべきはその繁殖力で、1個体につき200~千個の卵を産むとされる。甚大な食害を及ぼし、木を枯死させる恐れがある。
クビアカツヤカミキリの標本(左がオス、右がメス、環境省ホームページから)環境省によると国内では平成24年に愛知県で初めて確認されて以降、急速に生息域を拡大。3月末までに関東のほか大阪府や徳島県など全国17都府県へと拡大している。
成虫の飛翔(ひしょう)距離は2キロ程度だが、同省の担当者は、全国的な被害拡大の要因について「『ヒッチハイカー』とも呼ばれ、車や電車など動くものに張り付いて生息域を広げている」とみる。
■町民あげて監視
「覚悟はしていたが、思いのほか町全体に広がっていた」。吉野町暮らし環境整備課環境対策室の担当者は被害についてこう漏らす。
フラスの初確認後、環境省による調査の結果、吉野山で被害を受けた桜は約10本にも上り、桜の木を保護する「桜守」らでつくる公益財団法人「吉野山保勝会」(同町)が薬剤を注入するなどの処置を施した。
町内では個人の畑や庭、道路沿いにも桜が生育しており、町は町全体の調査が必要と判断。昨年10月、啓発チラシを全世帯に配布したところ、3月末までに住民からフラスなどの目撃情報が約60件寄せられ約100本の被害木が確認された。
町は被害拡大を防ぐため木の所有者に薬剤の注入や伐採を依頼するとともに、昨年度から伐採費用の一部を支援する補助金の給付を決定。保勝会も昨年12月、クラウドファンディングで対策費用を募り316人から約460万円が集まった。
募金箱を手に持ちクビアカツヤカミキリの被害について訴える吉野山観光協会の職員ら=奈良県吉野町多くの観光客が訪れる桜の季節に合わせ、4月には同町が金峯山寺(きんぷせんじ)で啓発イベントも開催。保全プロジェクトとしてクビアカツヤカミキリが全面に描かれたTシャツを制作し、土産物店などに配布。町は今後、成虫が飛来する初夏とフラスが排出される秋に向け町民に注意喚起を促すチラシを配布するなど町民をあげた監視を強める構えだ。
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吉野山の桜
平安時代に山岳信仰と結びつき、修験道の開祖、役行者(えんのぎょうじゃ)が金峯山寺の本尊である蔵王権現(ざおうごんげん)を桜の木に彫ったと伝わる。神木として相次ぐ寄進を受け、下千本、中千本、上千本、奥千本と山を覆うように約3万本もの桜が植樹されている。豊臣秀吉が家臣ら総勢5千人を引き連れ花見に興じたとされる。現在「さくら名所100選」に選ばれている。