MLB:大谷翔平とシュワバー、希代の長距離砲が「1番」を打つ理由

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1995年9月に米シアトルに引っ越しをしてメジャーリーグに日々触れるようになった筆者が、日本の野球との違いで一番違和感があったのは、アレックス・ロドリゲス(当時マリナーズ)が2番を打っていたこと。

96年からレギュラーに定着すると、その年に打率3割5分8厘で首位打者を獲得し、36本塁打、54二塁打(リーグ1位)、123打点。犠打は6だったが、およそ日本の2番打者のイメージ――長打はないが器用にバント、エンドランをこなし、出塁した1番打者を自らが犠牲となって進塁させるタイプ、とはかけ離れていた。

そのチームの最高の打者を日本のように4番ではなく3番で起用する、ということも違いといえば違いだったが、「2番・ロドリゲス」のインパクトに比べれば誤差のレベル。ただ、いつしか2番を最強打者に打たせるケースが他のチームにも広まり、いまやまるで違和感がない。両リーグトップの53本塁打(13日現在)を放っているカル・ローリー(マリナーズ)も2番を打っている。

大谷翔平(ドジャース)をきっかけにメジャーリーグを見始めた人は、「1番・大谷翔平」にも最初は驚いたのではないか。あれだけ長打が打てる。走者を置いて打席に入ることが多い中軸を打った方が得点増につながるはず。本塁打もソロが多くなるのでは、と。

ただ、それよりもカイル・シュワバー(フィリーズ)がリードオフマンを務めていることの方が、解釈が困難だ。今季は2番が多いが、2023年の半ば以降、1番が定位置だった。22年以降は46本塁打、47本塁打、38本塁打をマークし、今季はナ・リーグで50号に一番乗り。本塁打王争いで大谷に2本差をつけている(13日現在)。

一方で、22年は200三振、23年は215三振で、ナ・リーグ最多。また、23年の打率は2割を切って1割9分7厘。四球が多いので決して出塁率は低くないが、足も遅い。日本だったら、真っ先に1〜2番候補から外れるタイプである。いや、さすがにメジャーの世界でも、「1番・シュワバー」に首をひねる人はいて、地元メディアから「フィリーズのデータ分析チームは、特別な分析ソフトを開発したのか?」と揶揄(やゆ)されたこともある。

実際は、どんな意図があるのか? 先日、フィリーズのデーブ・ドンブロウスキー編成本部長にその狙いを問うと、こう解説してくれた。

「彼はリーグでも屈指のスラッガー。その彼はやはり、一度でも多く打席に立たせたい。今年は2番が多いが、これまで彼を1番で起用してきたのはそういう理由。それがまた、メジャーの傾向でもある」

同編成本部長は1988年にエクスポズ(現ナショナルズ)のゼネラルマネジャー(GM)になって以来、ほぼ切れ目なくGM、もしくは球団の編成本部長を務め、12度のプレーオフ進出、5度のリーグ優勝、2度のワールドシリーズ制覇を成し遂げた。2000年代に入り、統計学を駆使してスカウティング、戦術に生かすセイバーメトリクスや、STATCAST(メジャーリーグ独自のデータ解析ツール)導入によって能力の可視化が進み、野球が変化する中で彼自身もチームづくりの哲学をアップデートしてきた。その結果、導かれたのがシュワバーの1番だった。

23年、フィリーズは6月1日まで25勝31敗で、シュワバーが1番を打ったのは4試合だけだった。しかし、残り106試合中104試合(2試合は休養)で彼が1番を打ち、フィリーズは63勝41敗と大きく勝ち越した。

大谷に関しても、同様の理由が背景にある。昨年はムーキー・ベッツが死球で左手を骨折するまで2番だったが、ベッツの離脱後は1番に定着。その際、デーブ・ロバーツ監督は、こう説明した。

「やはり翔平には、できるだけ多くの打席に立ってもらいたい」

ロバーツ監督自身、現役時代は1番を打っていた。長打はないが、三振が少なく、出塁したら果敢に盗塁を仕掛け、次の塁を狙った。そういう野球をやってきただけに、彼にとっても大谷を1番で起用することに最初は抵抗があったはず。しかし、セイバーメトリクスのアナリストらは、OPS(出塁率+長打率)の高い選手が1番を打つことで得点期待値が高まると、長年訴えてきた。大谷やシュワバーの1番起用は、そのことを象徴する。

ただ、このトレンドが絶対かといえば、そこに答えはない。

例えば、22年にナ・リーグでも指名打者が使えるようになってから、もはやメジャーリーグにおいて犠牲バントは絶滅するかと思われた。

「Baseball-reference.com」によると、21年の1試合平均は0.16個(1チームあたり)だったが、22年は0.08個、23年と24年は0.09個と予想通り減った。ところが今年は0.11個(13日現在)と、わずかながら増えている。実は昨年、犠牲バントを試みたケースで、打者が内野安打、失策などで一塁がセーフになったケースが25%もあったという(Fangraphs.com)。

野手がバントしたケースに限ると、08年から12年は17.7%、15年から19年は22%だった。強攻した方が得点期待値が上がる、というデータはあるものの、バント対策がおろそかになったことで、逆に有効な作戦となったか。

打順も作戦も、時代と共に変化する。セイバーメトリクスやSTATCASTのデータ活用にしても、トレンドを生み出す側に回れれば、しばらくは優位が続く。他が倣って、それが失われれば変化が求められるが、大谷やシュワバーの代わりはそう簡単に見つからない。いま、フィリーズとドジャースが地区首位にいるのは、偶然ではないのかもしれない。

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