「社名は言えないが……」 米半導体クアルコムが明かす、AI大手“無茶振り”と「AIスマホ覇権争い」の裏側
AppleとGoogleが築いたスマホの「OS支配」の構図が揺らいでいる
米QualcommのCEOが、AI大手から2028年までに「1000億パラメーターのAIモデルをスマートフォンで常時稼働させたい」と要請されたことを明かした。
個人の行動履歴を握るスマホはエージェントAIの主戦場だが、現行チップやメモリー価格の壁は厚い。中国では先行してAIスマホが登場する一方、米OpenAIも独自端末の開発を急ぐ。米Appleと米Googleが築いた「OS支配」の構図が根底から揺らぎ始めている。
●「社名は言えないが……」 米Qualcommに届いたAI大手からの要請
クラウド上で作業を代行するパーソナルAIエージェントの利用が広がれば、スマホの出番は減るのではないか。
テックジャーナリストのアレックス・ヒース(Alex Heath)氏が投げかけたこの問いに、半導体大手の米Qualcomm(クアルコム)で最高経営責任者(CEO)を務めるクリスティアーノ・アモン(Cristiano Amon)氏は「社名は言えないが」と前置きして反論した。
AIの最前線にいる企業の一部から、2028年までに少なくとも1000億パラメーターのAIモデルをスマホで動かせるようにし、しかもほぼ常時稼働させたいと求められているという。
やりとりは、ヒース氏のポッドキャスト番組「Sources」で10月8日に公開された。収録は、Qualcommが9月に米ハワイ州で開いた年次イベント「Snapdragon Summit」の会場で行われた。ヒース氏が念頭に置いたのは、米Metaの「Muse」のように、クラウド上でブラウザを動かして利用者の代わりに作業するパーソナルAIエージェントだった。
●1000億モデル常時稼働の衝撃
聞き返したヒース氏に、アモン氏は「AI企業がスマホを手掛け始めている」と応じた。例に挙げたのは、動画投稿アプリ「TikTok」を運営する中国のByteDance(バイトダンス)のAIを載せ、スマホメーカーの中国Nubia(ヌビア)が製造する「Doubao(豆包)スマホ」だ。さらに「まだまだ出てくる」と2度繰り返した。
パラメーター数はAIモデルの規模を示す目安で、大きいほど賢くなりやすい半面、計算量も消費電力も膨らむ。Qualcommが9月22日に発表した最上位チップ「Snapdragon 8 Elite Extreme Gen 6」でも、端末上で動かせるのは300億パラメーターのモデルまでだ。しかも質問に応じてモデルの一部だけを使う方式のため、一度に動くのは約30億パラメーター分にとどまる。
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AI企業の要望は、その3倍を超える規模のモデルを常時動かすことだ。アモン氏は9月、米CNBCのインタビューで、利用者が操作していない間もスマホが働き続け、なおかつバッテリーが丸1日もつチップを設計しなければならないと語っている。
メモリーも大きな壁になる。モデルが巨大化するほど大容量のメモリーを必要とするが、アモン氏によると、メモリーの価格は以前から比べて5~6倍に跳ね上がり、スマホ市場は2026年に2割縮小したという。
●先行する中国勢とアプリの壁
AI企業によるスマホづくりは中国が先行している。ByteDanceとNubiaは2025年12月、初代のDoubaoスマホを約3万台限定の試験機として売り出し、即座に完売させた。9月16日には2代目の「NaviX Ultra」を発売した。価格は補助金適用後で5499元(約820ドル)からとなっている。
中国のAIスタートアップであるStepFun(ステップファン)も7月、自社ハードブランド「STEPX」の第1弾「STEPX Neo」を披露した。エージェント向けに独自のOSを用意し、端末内で動く自社モデルも搭載する。価格や発売時期、主要な仕様は明らかにしていない。
なぜAI企業はスマホにこだわるのか。アモン氏によると、エージェントが本人に代わって自律的に動くには、予定や連絡先、位置情報、行動履歴といった極めてプライベートな情報が欠かせず、それらは全てスマホの中に蓄積されているからだという。
ところが、既存のスマホOSもアプリの多くも他社が握っている。香港に拠点を置くTF International Securities(天風国際証券)のアナリストであるミンチー・クオ(Ming-Chi Kuo)氏は、OSとハードウェアの両方を押さえなければ、包括的なエージェントサービスを提供することはできないと分析する。
実際、中国ではAI企業が大きな障壁にぶつかった。初代Doubaoスマホは、エージェントがアプリを操作しようとした際、WeChat(ウィーチャット)やAlipay(アリペイ)などプラットフォーマー側の制限を受けた。2代目の発売時点でも、エージェントからの操作を受け付ける窓口を開いた外部アプリはわずか3つにとどまる。加えて、中国の大手スマホメーカーはそろって自社の大規模言語モデル(LLM)を持つ。AI専業企業は、自らスマホメーカーにならざるをえない状況へ追い込まれているのだ。
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●米OpenAIの独自スマホ開発
一方、OpenAIもスマホに代わるAI時代の新デバイスを開発中とされるが、その具体的な形状や発売時期はベールに包まれている。
クオ氏は5月、OpenAIがAIエージェントスマホの開発を急いでおり、早ければ2027年前半に量産に入ると指摘した。2027年末に見込む株式上場に向けた材料づくりの側面もあるとみる。チップは半導体設計大手の台湾MediaTek(メディアテック)が単独で供給する見通しで、2027~2028年の出荷台数は合計約3000万台に達する可能性があるという。
形状が一般的なスマホになるのかは不明だが、Appleは7月、OpenAIがハード開発のために営業秘密を盗んだとして提訴。元Apple社員400人以上がOpenAIで働いていると主張しており、スマホに類する高機能デバイスを開発していることは確実視されている。
●iOSとAndroid 2強のOS、その支配が終わる日
これまでのモバイル時代は、iOSとAndroidというスマホOSを握るAppleとGoogleが市場で圧倒的な支配力を持ってきた。
しかし今、パーソナルAIエージェントという新時代の幕が開こうとしている。そして既存のスマホは、巨大なAIモデルを常時稼働させる前提では作られていない。「それならば、全く新しい前提でデバイスを開発しよう」とAI巨頭たちが考えるのは、極めて自然な帰結といえる。
そのデバイスが既存のスマホの姿をとるのか、まったく新しい形状になるのか、あるいはスマホと連携する周辺機器になるのかはまだ見通せない。だが、1つ確かなのは、スマホOSを牛耳る者が業界を支配してきた構図が、今まさに根底から揺らぎ始めているということだ。
本記事は、エクサウィザーズが運営するAI新聞内の記事「AI大手がスマホ参入検討か Qualcommに『1000億パラメーター常時稼働』要請」(2026年10月11日掲載)を、ITmedia ビジネスオンライン編集部で一部編集の上、転載したものです。
●著者プロフィール
湯川鶴章
AIスタートアップのエクサウィザーズ AI新聞編集長。米カリフォルニア州立大学サンフランシスコ校経済学部卒業。サンフランシスコの地元紙記者を経て、時事通信社米国法人に入社。シリコンバレーの黎明期から米国のハイテク産業を中心に取材を続ける。通算20年間の米国生活を終え2000年5月に帰国。時事通信編集委員を経て2010年独立。17年12月から現職。主な著書に『人工知能、ロボット、人の心。』(15年)、『次世代マーケティングプラットフォーム』(07年)、『ネットは新聞を殺すのか』(03年)などがある。
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