野村がM&A助言首位、国内大型案件多く3位まで日系独占-25年上期

日本企業が関連する合併・買収(M&A)の2025年1-6月(上期)の助言ランキング(金額ベース)は、野村ホールディングスが首位となった。米関税政策の影響などで国内案件が優先される中、日系証券の強さが目立った。

  ブルームバーグの28日時点のデータによると、同期の取引案件数は前年同期比6.8%増の2528件。金額は同2.2倍の26兆9000億円と半期ベースで記録の残る1998年上期以降で過去最高となった。トヨタグループによる豊田自動織機の非公開化(4兆7000億円)と、NTTによるNTTデータグループの完全子会社化(2兆3713億円)の国内2大案件が押し上げた。

  野村HD傘下の野村証券は13兆1796億円、シェア49%で23年上期以来のトップ返り咲きとなった。2大案件のほか、米べインキャピタルによる田辺三菱製薬の買収など、5000億円超の大型案件だけで計5件を助言した。

  2位には三菱UFJモルガン・スタンレー証券、3位には三井住友フィナンシャルグループ傘下のSMBC日興証券が入った。トップ3を日系証券が独占したのは16年上期以来9年ぶりとなる。

  三菱モルガンのM&Aアドバイザリー・グループ統括責任者の竜口敦氏は、「日本には事業ポートフォリオの再編、上場子会社の再編など、構造的に解決しなければならない課題が比較的多く残っていた」と分析する。上期のM&A市場が活況だったのは「その解決に向けた動きが具体化しているのが要因の一つだ」と総括する。

  株主が企業価値の最大化を求める動きが、こうした流れを後押ししている。三井住友信託銀行によると、6月の定時株主総会で株主提案を受けた114社のうち、提案者がアクティビスト(物言う株主)を含む機関投資家だったのは51社と過去最高を記録した。

  企業経営コンサルティングを手がけるボードアドバイザーズのパートナー、野口智弘氏は株主の声を受け「日本メーカーの垂直統合型のビジネスモデルが見直され、M&A案件の増加につながっている」と指摘。多くのメーカーが物流事業の自社展開の是非を点検し、非中核事業として切り出す動きなどが一例だという。ブリヂストンは6月、物流子会社の売却を発表した。

  一方で、外資系証券は苦戦を強いられた。トップ3に入った経験もあるドイツ銀行傘下のドイツ証券も上期は10位以下だった。

  ドイツ銀アジア太平洋地域(APAC)の投資銀行統括部責任者を務めるマヨーラン・エラリンガム氏は「もちろん上位に入りたいと思っている」と言及した。ただ、「われわれは得意分野である10億ドル超のクロスボーダー案件などに集中することで、競合との差別化を図っている」と述べた。

  マヨーラン氏はトランプ米政権による関税政策を含め地政学的リスクを避けようと「上期は多くのクロスボーダー取引が停滞した」と苦戦の理由を説明した。世界情勢の不透明化により、特に4-6月はドイツ証の国際案件にとって「これまでで最も困難な四半期の一つだった」という。

  買収側企業のランキング(金額ベース)では、大型2案件の買い手などが上位に並んだ。件数では三菱UFJキャピタルなどメガバンク系ベンチャーキャピタル3社がトップ10入りした。3メガ銀は近年、スタートアップ支援を強化しており、この3社は23年上期以降そろってトップ10圏内を維持し、半期ごとにそれぞれ20案件前後を積み上げている。

下期も市場環境は良好

  25年下期のM&A市場について、野村証でグローバルM&Aを統括する新田圭常務執行役員は、「パイプラインは引き続き豊富であり、日本関連の案件数は高い水準を維持する」と予想する。具体的には「企業の事業再編や成長投資への関心が引き続き高く、活発な市場環境が続く」とみている。

  日米関税交渉の合意も追い風となりそうだ。三菱モルガンの竜口氏は、これまで交渉の行方が不透明で、売り手と買い手が算定する企業価値が大きく開く懸念があったが、「今後は合意が形成されやすい状況になる」と予想する。

  ただ、地政学的な変化により「政府を含め、経済安全保障の側面からM&Aを評価する傾向が強まっているのは間違いない」とも分析する。経済産業省は経済安全保障に関する行動計画を5月に改訂し、外資による合法的な出資や買収が技術流出の抜け穴になるリスクを明示した。場合により金融機関に介入的役割を果たすよう求めた。

  企業のM&A意欲に変化は見られないものの、竜口氏は内外で当局の審査が長期化する傾向にあることを注意点として挙げた。M&Aの当事者側としても「案件により長い時間軸を見込み、かつ審査が通らない可能性も含めて慎重に進めざるを得ない」と述べた。

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